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授業中も、休み時間も、放課後も、気づけば隣にハルがいた。
ただの親友として見ていたはずのハルに、いつしか特別な感情を抱くようになった。
初めて「好きかもしれない」と思ったのは中一のときだったが
改めて意識したのは、確か体育祭の後だった。
俺たちが組んだ二人三脚で、ハルが転んで、俺が怪我をしてしまったときだ。
ハルはひどく落ち込んで、俺の怪我を自分のせいだと何度も謝ってきた。
そのときの、泣きそうなハルの顔を見て、俺の胸は締め付けられるような痛みを感じた。
「お前はほんとドジだよな、ま、こんなん事故なんだから気にすんなよ」
その日から、俺のハルに対する感情は、親友という枠を飛び越え、得体の知れないものに変わっていった。
それから、ハルを傷つけまいと、大切にしようと
でも、自分のこの気持ちをどうしたらいいかわからなくて
俺はひたすらハルとの距離感に頭を悩ませていた。
ハルは俺の気持ちに気づかず、いつも通りに接してくれた。
それが嬉しくもあり、苦しくもあった。
そんな日々が続いて、卒業して、そして今、こうしてまた再会できた。
(いいのか悪いことなのか、よくわかんねぇな)
ふとスマホを手に取ると、ハルとのLINEのやり取りを眺める。
最後に送られてきたのは
「土曜日、何時がいいかな?」というメッセージ。
俺は思わず、にやけてしまう。
あぁ、本当にどうしようもなく好きだ。
こんなに長い間、誰かを好きになったことなんて、今まで一度もなかった。
いや、まずずっとハルだけを見てきたのだから他の誰かを恋する暇もなかったという方が正しいか。
だから、この気持ちをどうしたらいいかわからない。
ハルと会うたびに、この気持ちはどんどん膨らんで、俺の心臓を締め付ける。
でも、この気持ちを伝えたら、ハルはどんな顔をするだろう。
今のこの関係が、壊れてしまうかもしれない。
そう思うと、俺は怖くて、一歩も前に進めない。
結果的に、昼過ぎにハルの家に行くことになった。
◆◇◆◇
土曜日
俺は朝からソワソワしていた。
ハルの部屋に行くのは、初めてだ。
ハルは一人暮らしを始めて、もう何年も経つらしいが、どんな部屋なんだろう。
俺は、ハルのことを知らないことが多すぎる。
そう思うと、少し寂しくなる。
でも、今日一日で、会っていなかった間のハルのことを少しでも知りたい。
そんなことを考えながら、俺はハルの家のインターホンを押した。
「はーい!」
元気な声と共に、ドアが開く。
そこには、スウェット姿で、髪を無造作にセットしたハルがいた。
「あっ、あっちゃんいらっしゃい!」
ハルは嬉しそうに俺を部屋に招き入れる。
「結構綺麗にしてんだな」
「そりゃーあっちゃんと違って綺麗好きだし!」
「お前な…」
俺は靴を脱いで、ハルの部屋に足を踏み入れる。
部屋は、予想通り、というか、ハルらしい、というか。
白を基調とした、シンプルで清潔感のある部屋だった。
リビングには、大きなソファと、テレビ。
テレビの前には、ゲーム機が置かれている。
「なんか、ハルの実家の部屋とあんま変わんねぇな」
俺がそう言うと、ハルは少し照れたように笑う。
「えー?そうかなぁ?でも、あっちゃんが来てくれたから、なんでか懐かしい感じがするかも!」
ハルはそう言って、俺をソファに座るように促す。
俺はソファに腰を下ろし、ハルの部屋を見回す。
壁には、カニカニくんのポスターが貼られている。
あいつ、ほんと好きだよな。
俺は思わず、笑ってしまう。
「なんか面白いのでもあった?」
「いや、なんでもねえよ。で?何すんの?」
「えっとね、今日はこれ!」
ハルはそう言って、ゲームソフトを手に取る。
それは、中学、高校時代、俺たちがよく一緒にやっていた格闘ゲームだった。
「うわ、懐かしいな!」
俺は思わず声を上げる。
「でしょ?!まだあったんだよ~!」
ハルは得意げに笑う。
俺たちは、コントローラーを手に取り、ゲームを始める。
最初は、お互い下手くそで、すぐに負けてしまう。
でも、次第に勘を取り戻し、熱中していく。
「うわ!今のズルだろ!」
「ズルじゃないし!あっちゃんが下手なだけだし!」
俺たちは、まるで中高生に戻ったかのように、大きな声を出して笑い、文句を言い合った。
ゲームの合間に、ハルが立ち上がって飲み物を持ってきてくれる。
「あっちゃん、コーヒーでいい?」
「おう、サンキュー」
ハルは、マグカップにコーヒーを注ぎ、俺に手渡す。
「つかこの前言ってた、傷心中ってやつ、もう大丈夫なのか?」
俺は、無意識にそう聞いてしまった。
ハルは、一瞬、動きを止めて、俺から視線を逸らす。
「え…?あ、うん。まあ、大丈夫…かな」
ハルの声は、少し震えていた。
「…なんか、無理してねえか?」
俺がそう言うと、ハルはゆっくりと俺に視線を戻し、マグカップを両手で包み込む。
「…どうして?」
「いや、お前顔にすぐ出るし、元気って顔ではねぇだろ」
俺の言葉に、ハルは静かに笑った。
「あっちゃんて、ほんとそういうとこ変わんないよね。僕の変化に敏感…っていうか」
「…別に、普通だろ」