テラーノベル
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「えっ!?」
きっと皇成さんは私のペースに合わせてくれている。
だからキス以上のことをしてこない。
だけど今日、父に一瞬だけど、身体を触られてしまって、嫌な感覚が残っていて。
「今日のこと、忘れさせてほしいんです。嫌な感覚を上書きしてほしい。ワガママですか?」
皇成さんにだったら、身体を預けることができる。それにもっと触れてほしい。
「芽衣さんが良いのであれば。俺が一晩中愛して、忘れさせます」
その言葉がきっかけで
「んっ、んん……」
今まで皇成さんにされたことがない、深いキスをされた。
舌と舌が絡まって、これってどうすればいいの?
「はっ……」
彼の唇や手が私の身体に触れるたびに
「あっ……」
ビクっと反応してしまう。
「可愛い」
耳元で囁かれ、ゾクゾクする。
「皇成さん……。好きです」
私が吐息交じりにそう伝えると
「ああ。ダメだ。我慢できそうにない」
もう一人の皇成さんになったようで
「芽衣さん。力抜いて。痛かったら伝えて」
足を持ち上げられ、彼の身体がグッと挿ってきた。
「あぁっ!」
最初は痛かったけれど皇成さんがキスしてくれて、ゆっくりと動いてくれる。
感覚に慣れて、次第に
「あ、ダメっ。なんか、おかしいっ」
「イっていいよ。俺も、ヤバい」
初めて二人で絶頂を迎えた。
終わったあとに
「愛してる」
そう言ってくれた皇成さんの声が耳に残っている。
それから半年後――。
両親とのやり取りは皇成さんが紹介してくれた弁護士さんを通している。
あの時、皇成さんが父に何て言ったのかわからないし、彼に聞いても教えてはくれないが、両親は基本的に私の希望に沿っている。
私からの金銭的援助の中止、精神的苦痛を味わうことから接近の禁止、私も両親の相続は希望しない、とりあえず、しばらくは安心して暮らせそうだ。
父のことだから書面を交わしても何かしてくるかもしれない。
「その時はまた二人で考えましょう」
そんな風に皇成さんは言ってくれた。
私の住んでいたアパートは解約し、今は皇成さんのマンションで同棲している。
そして私は――。
「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてですか?」
前の会社を辞めて、今は夢だった保護猫カフェでアルバイトをしている。
接客業ははじめてで不安もあったけれど、大好きなネコちゃんたちに囲まれていること、スタッフさんも温かい人たちばかりで、楽しく仕事ができている。
「この子をうちの子にしたいんです」
お客さんから譲渡希望の相談を受け、無事にテスト期間を経て卒業していくネコちゃんたちを見ると、幸せな気持ちになる。
保護された新しい子も増えるから、毎日が格闘だ。
お店に慣れていない子たちは、不安な眼をしていて、ご飯も食べてくれない。
ネコだって生まれてきた環境やもともとの性格がみな違うから、懐いてくれる期間も違う。
「ちょっと待ってー。ブラッシングをさせてー」
長毛のモカちゃんはブラッシングが嫌いのようで、なかなかさせてくれない。
私がモカちゃんに声をかけるのを聞いて
「和倉さん。お店に来た時に比べて明るくなりましたね」
店長に声をかけられた。
「はい。この仕事が好きで。雇ってもらえて感謝しています」
「楽しそうに見えて、給料は低いし、汚いこともしなきゃいけないしで、理想と違って辞めていく子も多いから。助かるよ」
店長はありがとうと伝えてくれた。
「すみません」
お客さんに声をかけられ
「はい」
返事をして、私を呼んだお客さんの元へ向かう。
「どういたしましたか?」
「芽衣さん。店長と笑って何を話していたんですか?」
お客さんとして来ていた皇成さんがムッとした顔をしている。店長は男性だから、気になったんだろう。
「明るくなったねって言われただけですよ。心配しないでください」
「あんな顔をして、好意を抱かれたらどうするんですか?」
「店長には妻子がいます」
想像以上に皇成さんは嫉妬深かった。
さすが自分の事を訳ありだと言うくらいだと実感している。
「私は皇成さんしか興味ありません。それに夢が叶ったのも、皇成さんのおかげだと思っています。信じてくれないんですか?」
今はまだアルバイト中だ。
小声で彼に話し
「失礼します」
その場から離れる。
「芽衣さん……」
彼は何か言いたそうにしているが、帰ってからゆっくり話そう。
帰宅後
「どうしてあんなことを言うんですか?」
皇成さんはアルバイト先での発言を私に怒られ、シュンとしている。
大手企業の朝霧商事の次期社長には見えない。
「すみません」
「あんなことを言うんだったら、もうお店に来ちゃダメです」
プイっとそっぽを向くと
「ごめんなさい」
彼は頭を下げた。
私だって怒りたいわけじゃない。
「本当に皇成さんには感謝しかないんです。私、皇成さんがいなかったら今頃どうなっていたか。自分らしく生きるなんてできていなかったと思います。だから信じてください。大好きです」
チュッと唇にキスをした。
すると
「芽衣さん。すみませんでした」
ギュッと彼は私を抱きしめてくれ
「仲直りしませんか?」
そう言って、ベッドへ誘導された。
いつもの皇成さんは優しい、それに口調も私には穏やかなのに。
夜になると豹変する。
「芽衣さん。愛してる。許して?」
ベッドに私を押し倒し、グイっと顎を持ち上げ、息ができないほどのキスをされた。
口調は俺様っぽくなるけど、それはそれでギャップがあっていいのかもなんて思っている。
これも皇成さんの<訳アリ>に入るのかな。
「私も、愛してます」
私が答えると、フッと笑い彼は満足そうだ。
小さな世界で生きていた私は、彼と出会って考え方も変わり世界が広がった。
自分のことを大切に想ってくれる人がいれば、それだけで幸せだと思う。
彼にこれからも好きだと言ってもらえるように、自分らしく生きていきたい。
コメント
2件
完結お疲れ様です!✨ 皇成さん、嫉妬深いの可愛い🫶 この2人お似合いすぎます!