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#現代ファンタジー
裏五条
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「こちらの魔導書に込められている魔法は――」
山崎店長が、ゆっくりと口を開いた。
俺は知らないうちに息を止めていた。
前に手に入れた魔導書は、《衣透視(クロス・スルー)》だった。
あれはあれで役に立っている。
暗器や隠し装備の確認には、かなり使える。
ただ。
名前を聞いた時の反応には、かなり困った。
だからこそ、今回は少し期待していた。
炎とか。
雷とか。
せめて風の刃とか。
俺にも、ノエルやフィーネやクロエみたいに、分かりやすくかっこいい魔法が来てもいいんじゃないか。
そんなことを、少しだけ思っていた。
山崎店長が鑑定結果を確認し、静かに告げる。
「《攻略表示》でございます」
「……攻略表示?」
思わず聞き返した。
山崎店長は頷き、端末に表示された内容をこちらへ向ける。
【分類:魔導書】
【等級:伝承級】
【銘:《攻略表示(ウォークスルー・オーバーレイ)》】
使用者が認識・判断した情報を、空間上に可視化する魔法。
矢印、線、範囲、記号、短文などを表示できる。
表示そのものに攻撃力・防御力・拘束力はない。
俺は、表示された説明文をじっと見た。
もう一度読む。
さらにもう一度読む。
そして、ゆっくりと呟いた。
「……表示するだけ?」
炎は出ない。
雷も落ちない。
敵を縛るわけでもない。
結界を張るわけでもない。
矢印。
線。
範囲。
記号。
短文。
それを空間上に表示する。
「……ゲームの案内表示みたいな魔法、ですか?」
「かなり近いかと存じます」
山崎店長は落ち着いた声で答える。
「ただし、魔法そのものが正解を示すわけではございません。あくまで、使用者が認識し、判断した情報を可視化するもののようです」
「つまり、自動で攻略ルートが出るわけじゃない」
「はい。シンゴ様が把握された内容を、他者にも見える形で表示する魔法とお考えいただくのがよろしいかと」
俺は、もう一度鑑定結果を見る。
攻撃力なし。
防御力なし。
拘束力なし。
まただ。
また、直接戦える魔法じゃない。
「……また変な魔法が来たわね」
ノエルが、にやにやしながら言った。
俺は思わずそちらを見る。
「変な魔法って言うな」
「だって、表示するだけでしょ?」
「まあ……そうだけど」
否定できないのがつらい。
クロエも楽しそうに、俺の肩越しに鑑定結果を覗き込んでいた。
「お兄ちゃん、ゲーム画面出せるようになるってこと?」
「その言い方だと、すごく軽く聞こえるな」
「でも、めっちゃお兄ちゃんっぽいよ? 攻略表示って名前からして」
クロエは悪びれずに笑う。
フィーネは、他のみんなよりも真剣な顔で鑑定結果を見つめていた。
「……使用者が認識した情報を、他人にも見せられる……」
小さく呟く。
「……これ、使い方次第では、かなり有効です……」
「そうなのか?」
俺が聞くと、フィーネは小さく頷いた。
「……普通、頭の中で分かっていることを、正確に他人へ伝えるのは難しいです……特に、戦闘中や、罠が多い場所では……」
たしかに、それは分かる。
右へ行け。
そこは危ない。
敵の攻撃範囲から出ろ。
この位置を守れ。
そこに罠がある。
そういう指示は、口で言うだけだと伝わりにくいことがある。
特に戦闘中は、一秒の遅れが命取りになる。
セリナも静かに頷いた。
「戦闘そのものではなく、指示や誘導に向いた魔法でございますね」
「指示や誘導……」
「はい。声が届かない状況でも、表示で伝えることができるのであれば、十分に価値があるかと存じます」
セリナらしい、真面目な評価だった。
だが、俺の中にはまだ微妙な気持ちが残っている。
「また直接戦えない魔法か……」
思わず本音が漏れた。
前回の《衣透視》もそうだった。
一見イロモノ。
使い道はある。
実際、役にも立つ。
でも、俺が想像していた“魔法”とは少し違っていた。
今回も、そうだ。
伝承級の魔導書。
鹿島ダンジョンの主のドロップ品。
そこから出てきたのが、空間に表示を出す魔法。
かっこいい攻撃魔法を期待していた身としては、正直、肩透かし感はある。
そんな俺の様子を見ていた山崎店長が、静かに口を開いた。
「シンゴ様」
「はい」
「こちらの魔法は、シンゴ様にはむしろ相性のよろしい魔法かと存じます」
「俺に、ですか?」
山崎店長は、柔らかな笑みを浮かべたまま頷く。
「はい。この魔法は、使用者の判断がそのまま表示に反映されるものです」
山崎店長は、端末の鑑定文に目を落としながら続ける。
「何を危険と見なすか。どこを安全と判断するか。どの経路を示すか。どのように伝えれば、周囲の者が理解しやすいか」
その声は穏やかだったが、妙に耳に残った。
「それを扱う魔法でございます」
「……魔法が、勝手に答えを出してくれるわけじゃない」
「おっしゃる通りでございます」
山崎店長は頷く。
「使用者が見抜いたこと。考えたこと。判断したこと。それを、他者にも分かる形へ変換する魔法。そう考えますと、シンゴ様のこれまでの探索とは、非常に相性がよろしいのではないでしょうか」
俺は黙った。
山崎店長の言葉に、少しだけ引っかかるものがあった。
俺のこれまでの探索。
隠し通路を探す。
壁の違和感を見る。
敵の動きを観察する。
仕掛けの法則を考える。
地図にならない階層を、盤面として見る。
そうやって、俺はダンジョンを攻略してきた。
山崎店長は続ける。
「シンゴ様は、これまで何度もダンジョンの構造や仕掛けを読み解いてこられました。そうした方が扱うことで、この魔法は大きな価値を発揮するのではないかと存じます」
「俺が見えているものを、みんなにも見せる……」
口に出してみる。
そう考えると、少し印象が変わる。
ただ矢印を出すだけ。
ただ線を引くだけ。
ただ文字を表示するだけ。
それだけなら、地味だ。
だが、どこに矢印を出すか。
どの範囲を赤く表示するか。
どのルートを青く示すか。
どのタイミングで、どんな言葉を出すか。
そこに意味がある。
ゲームでも同じだった。
プレイヤーに何を見せるか。
どこへ誘導するか。
どこを危険だと気づかせるか。
どこで立ち止まらせるか。
説明しすぎれば邪魔になる。
説明が足りなければ迷う。
そのちょうどいい場所に、表示を置く。
それは、俺が昔、何度もやってきたことだった。
「……なるほどな」
俺は、ようやく少しだけ理解し始めた。
ノエルが俺の顔を覗き込む。
「顔が変わったわね」
「そうか?」
「さっきまで、また変なの来た、って顔してたわ」
「実際してただろ」
「今は?」
ノエルがにやっと笑う。
俺は魔導書を見る。
攻撃魔法じゃない。
防御魔法でもない。
回復魔法でもない。
でも。
「俺が見えている攻略情報を、みんなにも見せられるなら……意味はある」
そう言うと、クロエが嬉しそうに笑った。
「いいじゃん。お兄ちゃん専用魔法って感じ」
フィーネも小さく頷く。
「……シンゴさんが使うなら、きっと役に立ちます……」
セリナも、胸元に手を添えて一礼した。
「わたくしも、そう思います」
山崎店長は、静かに魔導書をこちらへ差し出した。
「習得なさいますか?」
魔導書は、使うと消える。
前回と同じだ。
売るという選択肢もある。
この魔導書が伝承級なら、相当な価値があるはずだ。
けれど、俺の中で答えはほとんど決まっていた。
これは、俺が覚えるべき魔法だ。
派手ではない。
分かりやすく強いわけでもない。
でも、俺の強みと噛み合っている。
俺が見る。
俺が考える。
俺が判断する。
それを、仲間にも見せられる。
「覚えます」
俺はそう言って、魔導書に手を置いた。
黒い革表紙は、ひんやりとしていた。
指先に、わずかな魔力の震えが伝わる。
次の瞬間、表紙の角のような紋様が淡く光った。
金属製の留め具が、かちりと音を立てる。
ページがひとりでに開き、見たことのない文字が浮かび上がった。
魔法語。
俺には読めないはずの文字。
だが、不思議と意味だけが頭の中へ流れ込んでくる。
光がページから溢れ、俺の胸へ吸い込まれていく。
熱くはない。
痛くもない。
ただ、頭の中に新しい引き出しが増えるような感覚があった。
そして、魔導書は静かに光の粒になった。
黒い革表紙も、金属の留め具も、角の紋様も。
すべてが淡い光となって宙に溶ける。
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
覚えた。
分かる。
使える。
《攻略表示(ウォークスルー・オーバーレイ)》。
それが、俺の新しい魔法だった。
コメント
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ああ、今回もまたシンゴらしい魔法が来たね。《攻略表示》。攻撃力ゼロだけど、シンゴの「見抜く力」と「判断力」を周囲に共有できるっていう構造がすごくしっくりくる。山崎店長の「相性のよい魔法」って言葉、まさにその通りだと思う。地味だけど、使い方次第で化けるタイプ。フィーネの反応が一番信用できるなあ。