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結婚相手を間違えました

33 - 第33話 裏切りにはそれ相応の制裁を①

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2025年03月01日

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両親と別れて車に乗った途端、きっと偉央いおから何かリアクションがあるに違いないと覚悟していた結葉ゆいはだったけれど、偉央いおは怖いぐらいに何も言ってこなくて。


不自然過ぎるぐらいにシン……と静まり返った車内、エアコンの音だけがやけに大きく響き渡っていた。



「あ、あの……偉央いおさん……、業者さんとの打ち合わせは」


「問題なかったよ」


沈黙に耐えきれなくなった結葉ゆいはが、「当たり障りのない会話を」と、今日迎えが遅くなる原因となった仕事のことを問えば、穏やかな声音でそう返ってくる。


傍目はために見れば何の問題もない会話に聞こえるだろう。


けれど結葉ゆいははソワソワと落ち着かなくて。


常ならば帰りの車中、助手席に腰を落ち着けたと同時に「今日は何をして過ごしたの?」とか根掘り葉掘り聞かれるはずなのに、それがないのが不気味としか思えなかったのだ。



「あ、あのね、今日帰りに持たされたハンバーグ。あれ、合い挽き肉と一緒に水切りした絹ごし豆腐が入っているの」


肉だけのハンバーグより、結葉ゆいはは豆腐が入っているハンバーグが好きで、美鳥みどりはいつもそれを作ってくれる。


なので小林家でハンバーグといえば〝豆腐入りハンバーグ〟なのだが、結婚してから結葉ゆいは偉央いおに出した物は、オーソドックスに肉だけのハンバーグばかりで。


偉央いおさんは豆腐入り、大丈夫かな)


それを思い出した結葉ゆいはが、そんな確認の意味も込めて話題にしてみたのだけれど――。


「私も一緒に作ったの。……帰ったら食べるでしょう?」


「そうだね、もらうよ」


結葉ゆいはが黙ると、途端車内がピンと張り詰めた沈黙に包まれてしまう。それがイヤで、どうしてもいつもより口数が増えてしまう結葉ゆいはだ。


なのに偉央いおはそんな結葉ゆいはの気持ちを汲んでくれる気はさらさらないみたいで、何を言っても会話を膨らませてくれるような言葉は返ってこなかった。



「……ごめんなさい。偉央いおさん、ひょっとして、疲れてる? 私、黙ってた方がいい?」


口をきくのも億劫なほどに疲れているならば、話しかけないほうがいいのかも知れない。


偉央いおの素っ気なさが、それ由来のものではないと心の奥底では分かっているくせに、そこから目を背けたい結葉ゆいはは、そんなことを問い掛けてみる。


「――いや、疲れてはいないよ。ただ……」


そこで初めてチラリと結葉ゆいはの方へ偉央いおの視線が投げられて。


結葉ゆいはは、偉央いおの視界に捉われたのがほんの一瞬だったにも関わらず、息が詰まりそうになった。


「こんな風に移動中じゃキミの顔を見られないだろう? 今夜は結葉ゆいは気分なんだ。僕の方からはキミに質問するつもりだから。結葉ゆいはは気にせずしゃべってて? ちゃんと聞いてるから……」


紡がれた言葉も声音もとても穏やかだったけれど……逆にそれが結葉ゆいはには恐ろしくて堪らない。


経験から、偉央いおがこんな風に落ち着いて時の方が、後に訪れる反動がことを結葉ゆいはは知っていたから。


きっと、家に着くなり偉央いおからあれこれ詰問きつもんされるに違いない。


考えただけでゾクッとして、結葉ゆいははこの場から消えてなくなりたい気分になった。


「黙り込んじゃったけどどうしたの? もう話すことなくなっちゃった?」


ハンドルを握って前方を見据えたままそう告げる偉央いおの横顔を見て、結葉ゆいは美鳥みどりから持たされたハンバーグの入った容器をギュッと握り締めた。



***



「それで結葉ゆいは、実家では変わったことはなかったかな?」


車中、実家でハンバーグを作った話をしたはずなのに、偉央いおは〝それ以外にも〟何かあったと思っているらしくて。


玄関扉が閉まり、結葉ゆいはが上がりかまちに足をかけたと同時に背後を振り返った偉央いおからそう質問されて、結葉ゆいはは夕方公宣きみのぶが息子のそうを伴って実家うちを訪れたことを言うべきか否か迷った。



「あ、あのっ、お隣の公宣きみのぶさんが……」


思わずいつものように山波家やまなみけの大黒柱のことを下の名前で呼んで、偉央いおに「公宣きみのぶさん?」と復唱されてドキッとする。


「あっ、えっと……お隣の山波やまなみさんが――」


慌てて言い直したら、「お隣?」とまたしても声を低められてしまう。


結葉ゆいははもう何を言っても偉央いお逆鱗げきりんに触れないことは不可能なんじゃないかと絶望的な気持ちになった。


「……お、お父さんとお母さんが……。そのっ、あちらに行っている間、家の管理を『山波やまなみ建設』さんにお願いすることにしたみたいで……。きょ、今日は夕方にその管理の話でいらっしゃいました」


「ふ〜ん。、ねぇ」


途端、一歩結葉ゆいはに近付いた偉央いおが、瞳をすがめて間近で結葉ゆいはを見下ろしてきて。


結葉ゆいはは緊張で心臓が止まりそうになった。

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