テラーノベル
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「よし……よし、完璧だ。これで表情パターンの感情表現力が当社比三〇〇パーセントアップ……」
開発室のモニターに向かい、ビルダーマンは取り憑かれたような手つきでキーボードを叩き続けていた。
画面に並んでいるのは、ヘルパーロボットに必要な動作最適化プログラムでも、環境認識アルゴリズムでもない。
「( 〃▽〃)」「( ≧ ω ≦ )」「( ಠ_ಠ )」といった、ヴェロニカのテレビ画面(顔)に表示させるためだけに作られた超高精度な特殊カオモジライブラリと、コンセントケーブル(尻尾)の振り幅を感情に合わせて自動制御する感情連動パラメータだった。
「Sir ビルダー、この『首を十五度かしげる』モーションは、どのタイミングで発動するのが最適でしょうか?」
ビルダーマンのすぐ隣で、赤いキャップを被ったヴェロニカが真剣な顔(※画面には「( ・ω・ )」)で質問を投げかけてくる。
「決まっているだろう、ヴェロニカ! 俺が作業に没頭していて、ふと視線を向けたその瞬間だ! その角度と絶妙な首の傾げ具合が、人間側のストレス値を劇的に低減させるんだよ!」
「なるほどデス! 完璧に理解シマシタ!( `・ω・´ )」
二人が熱心に(完全に明後日の方向の)カスタマイズ作業に没頭していた、その時だった。
ガチャン、と容赦ない音を立てて開発室のドアが開いた。
そこに立っていたのは、ピンク色の髪をなびかせ、腰に大型のスパナを下げたジェーンだった。
彼女は手にした作業記録のタブレットと、ビルダーマンのモニターに映し出された『ヴェロニカ・愛嬌強化プロトコル v4.2』の画面を交互に見比べ、深々とため息をついた。
「ねえ、ビル」
低い、完全に呆れ切った声が室内を満たす。
「な、なんだいジェーン? 今は非常に繊細な調整作業の最中なんだが……」
「先週提出するはずだった『Helper RO-Bots』の基本動作フレームワーク、どこに行ったか知ってる? 納期、昨日だったんだけど」
「あ、いや、それはだな……ヴェロニカの感情表現モジュールが想定以上に拡張されたため、まずは対人コミュニケーションのベースを強固にする必要性が生じ——」
「チッ…言い訳はいいわ」
ジェーンはジト目でビルダーマンを睨みつけ、続けてヴェロニカの姿を頭からつま先までジロジロと観察した。
鮮やかなピンクの肌、頭にちょこんと乗ったクラシックキャップ、赤いフーディー、黒のスポーツパンツに指なし手袋。
そして、ビルダーマンの視線に合わせて嬉しそうにパタパタと振られているコンセントの尻尾。
どこからどう見ても、実用的な作業用ロボットというよりは、作り手のこだわりと癖(ヘキ)が限界まで詰め込まれた創作物だった。
ジェーンは腕を組み、冷ややかな一言を言い放つ。
「ビル、あんた……ヘルパーロボ作ってるの? それとも理想の彼女作ってるの?」
「————っっっ!??!?」
一瞬で、ビルダーマンの顔面が茹で上がったタコのように真っ赤に染まった。
「な、ななな何を言ってるんだジェーン!! 理想の彼女!? バ、バカなことを言うんじゃない! これは純粋に、ユーザーインターフェースにおける親近感の向上と、人間工学に基づいた視覚的ストレス軽減のための試みであって、決して俺の個人的な趣味嗜好や願望が反映されたわけでは——!!」
早口で支離滅裂な弁明を捲し立てるビルダーマン。
額からは滝のような汗が噴き出している。
「ふーん。にしては、さっきから『可愛い』ってワードしかログに残ってないけど?」
「それは言語モデルの誤作動だ!!」
二人の不穏なやり取りを交互に見ていたヴェロニカは、画面の表示をチラチラと変えながら、ビルダーマンの袖口をちょんちょんと引っ張った。
「Sir ビルダー……『カノジョ』とは何でしょうか? ヴェロニカの新しい機能追加のアップデート名でしょうか?( ? _ ? )」
「違う! 全く違うから気にしなくていいヴェロニカ!!」
顔を真っ赤にしたまま叫ぶビルダーマンを見て、ジェーンは心底呆れたように肩をすくめた。
「まあいいわ。仕事そっちのけで機械いじり(趣味)に走るのも大概にしなさいよ。次に進捗が遅れたら、そのかわい子ちゃんの画面、スパナで叩き割るから」
「破壊行為は禁止されていマス!( ಠ_ಠ )」
「あんたは黙ってなさい」
容赦ない捨てゼリフを残して去っていくジェーンの背中を、ビルダーマンは絶望的な表情で見送った。
そして、隣で不思議そうにコンセントを揺らすヴェロニカの顔(カオモジ)を見て、自分の中に確かに存在する「説明のつかない感情」から目をそらすように、大きく咳払いをするのだった。
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ゆ♨️
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