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見たことがある景色。
それはかつてステレスが創ったばかりの頃の童話の世界と、あまり変わらない。
それは跡形もなく消えていたわけではなかった。
虚しさの影には、美しさがある。
穴の空いた帽子屋の帽子、深く地面に刻まれた兎の足跡…。
雨は止んだが、空気は薄く、ステレスの心の中は雨が降っていた。
ゼフィール「水……!水欲しい!!」
ゼフィールの焼けた腕からは半透明の煙が漂っていた。ステレスは後ろにアリスがいないのを確認して、ゼフィールの腕に冷たい魔法薬をかけた。
ステレス「我慢して。大丈夫だよ、すぐ良くなるから……。」
ゼフィール「いたたた……」
ステレスの頭の中に再び、ゼフィールとの思い出が漂う。それはまだ、ゼフィールが幼い時だった。体は小さく、細い足で涙を流しながらステレスのところまで走る。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ゼフィール「化け物に襲われたんだ……!」
怖がった顔でステレスを上目遣いしながら見る。ステレスはゼフィールの頭を撫で、そして小さな体を持ち上げて家の中に入れた。
ステレスは奥の部屋から瑠璃色に光る魔法薬を持ってきて、ゼフィールの前に置いた。ゼフィールの引き裂かれた小さい腕はぷるぷる震えていた。
ステレス「大丈夫だよ、少し我慢するだけで良いんだ。すぐ良くなるよ。」
そう言って、ステレスはゼフィールに魔法薬をかけた。
ゼフィール「ううっ……」
眉を顰め、痛がるゼフィールだが、泣き叫ぶことなく大人しく座っていた。
ステレスは魔法薬を半分使うと、蓋を閉じてゼフィールの頭を優しく撫でた。
ステレス「良い子だ。よく頑張ったね。なにかお菓子とか買う?」
ゼフィールはそれをきいて目を輝かせた。
ゼフィール「良いの……?!やったー!メドューサのぶんも買おうよ!お菓子がなきゃ泣いちゃうから……」
ステレス「ふふっ、良いよ。じゃあ、行こっか。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
温かい思い出。その思い出のおかげで、さっきまで降っていた心の中の雨は止み、太陽が出ていた。
しかし、そんなことを思い出したせいか、咄嗟にゼフィールの頭を無意識に撫でてしまった。
ゼフィール「……?」
ステレス「良い子だ。……あっ、ごめん、無意識だったんだ……。」
何か言いたげなゼフィールの腕を引っ張って、ステレスはまた走り始めた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
過去に何度も通った道。迷わずステレスは進み続ける。
ゼフィール「ねえ、どこに向かってるの?」
息切れしながらゼフィールは質問する。
ステレス「ページの破れだよ。穴があることで次の物語に進めるんだ。」
ゼフィール「詳しいね〜?」
ゼフィールはステレスのことを疑いながらも面白そうに笑った。
振り返ったら、遠くにアリスがいた。しかし、彼女は走っている様子はなく、ゆっくり歩いていた。
ゼフィール「ねえ、絶対予想外なことしてくるって〜」
その時、ゼフィールの言葉が本当になった。白く透明感がない雲のような煙が、ゼフィールとステレスを覆った。
ステレスはますますゼフィールの手を強く握った。
ステレス「絶対に離れるな、ゼフィ……!」
ゼフィール「ど〜しよっかなぁ〜 !」
その時、人影が見えた。ステレスは思わずその人影を蹴ってしまった。
???「いってぇ!!!」
少し経った時、煙が消えた。再び振り返るとアリスもいなかった。
???「急になにするんだよ!」
不気味な笑みを浮かべる仮面を、つけた少年が目の前にいた。身長は176cmほどで、ステレスとほぼ変わらない。
ゼフィールは目を丸くしてその少年に指を指した。
ゼフィール「ジャックじゃん!」
その少年はジャックというらしい。
ジャック「うわあマジかよ!やっと消えたと思ったのにここにいたのかよ!」
ジャックは残念そうに下を向く。ゼフィールはその様子をからかっていた。
ジャックはステレスの方を見る。
ジャック「……誰だ?」
ジャックはステレスの体を上から下までジロジロ見る。
ジャック「まあそうだよな〜。ゼフィが女連れてくるとか絶対有り得ないよな〜!」
ゼフィール「連れてこようと思えば連れてこれるよ!」
ステレスは警戒しながらも、少しづつ心を開いていった。
ステレス「ボクは……ステレスだ。今、アリスと名乗る少女に追われている。」
ジャックは何回も頷いた。
ジャック「アリスちゃんに追われてる?!えええ良いな〜!!!オレも追われたいからついてく!」
何故喜んでいるのかは分からないが、ステレスは小さく頷いた。
ジャックはステレスのことを再びジロジロ見ながらこう言った。
ジャック「ステレス……なるほど、お前がイケメンだから追われていたのか!」
ステレス「……ん?」
ステレスは頭を傾げ、少し考え込んだ。
(いや、そんなわけじゃない……。ゼフィが悪魔の子だって思い込んでいたから追っていたはずだ……。)
ジャックは口を開きそうになったゼフィールの口を抑えた。
ジャック「オレきいたことある!『イケメンの近くにいたら自分もイケメンになれる』って!ステレス様!オレのこと弟子にして!」
ステレスは予想外なことを言われ、少しフリーズする。
ステレス「いやぁ……ボクはイケメンではないし、それに、近くにいても学べることはなにもないよ……」
ステレスは焦りながらも照れくさそうに静かに話す。
ジャック「一生ついていきます、ステレス様!!」
ステレスは少し悩んで顎に手を当てる。
ゼフィールは腕を組みながら二人の会話を黙って聞く。
ゼフィール「( ╬ ・᷄-・᷅ )」
その時、空間がぐにゃぐにゃし始めた。地面は自我を持ったスライムのようにぐにゃぐにゃ暴れ、また、
ゼフィール「うっ……」
ゼフィールは吐きそうになった口を両手でふさぐ。
よく見たら、ゼフィールの悪魔の角が少しづつ小さくなっている。
ジャック「おい、なんだこれ……!!!」
ステレスはひとつのことを思い出す。
ステレス「そうだ……!この世界は………『不思議の国』なんだ!!!」
さあて、どちらがウサギで、どちらがカメでしょう?