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目が覚めると、夕方であった。
みぞれは、燃えていない家に安心感を覚える。
だが、何度も繰り返してきた鏡と両手は、もう見る必要がない。
だって、今ここにいるみぞれは、_ただの魂であり、偽物なのだから。
みぞれは鏡も何も見ないまま、自分の部屋の扉を開ける
そして、リビングに向かう。
他の席に誰かが座っていることはなく、ただ2人
レイマリと、メテヲだけが_それぞれの椅子に座っていた。
みぞれも、それに釣られるように、自分の席に座った。
夕日が、みぞれを照らすことはない。
今の世界は、レイマリとメテヲを除き、誰もみぞれを認識していない。
他のメンバーは、消えてしまったのだ。
だが、消えたメンバーの名前は、はっきりと思い出せた。
きっと、もうわかっているからだ。
受け入れたくなかったが、受け入れるしかない、世界一残酷な、この状況を。
最初に切り出したのは、レイマリだった。
レイマリの声は、震えていた。
「ごめん、なさい」
いつもより何倍も小さく、か細い。
レイマリは、罪悪感で潰れてしまいそうであった。
「わたし、みぞれさんのこと、苦しめて、」
「…でも、こわくて、」
「ごめん、なさい、」
レイマリは顔を上げる。
泣き腫らしたとひと目でわかるほど腫れ上がった目であった。
「…ずっと、怖くて」
「みぞれさんを苦しめてるくせに、この幸せな…夢から覚めるのが嫌で…!!」
それは、レイマリの、心からの言葉だった。
普段ゲームで殴りあって、疑い合う…そんなことをしていても、こればかりは本音だと分かるほどに、悲しみが、苦痛が、恐怖が、やるせなさが籠った声だった。
みぞれも、涙を流した。
だが、前のように、声を上げて泣くことはない。
最も、メテヲの前で散々泣いたあとだ、前のループでさえ、泣いていたような気がする。
だからだろうか?
_みぞれはただ静かに、ぽろぽろ涙を流していた。
みぞれは涙を拭いて、レイマリの左手を両手で包み込むように握った。
それは、体温のない彼女の、精一杯の優しさだった
「もう、大丈夫です。」
「…時計は、確かに私を…苦しめたものなのかもしれませんけど」
「…この時計、すごく、すごく綺麗で。」
「初めて貰った時、とっても、嬉しかったんです。」
泣きながらも、みぞれは優しく笑った
「…もう、いいんです。」
_体感1分の静寂ののち、言葉は紡がれる
「…私は、この時計を貰えて、最期の誕生日を、迎えられたんですから。」
レイマリは、みぞれの冷たいはずなのに、このループの被害者なはずなのに、あたたかすぎる優しさに触れ、机に突っ伏して大声で泣き叫ぶ
「…私が生きている結末があったなら、そっちの方が良かった。」
「…タヒにこうやって向き合うのは、怖くて仕方ないです。」
「…けれど_」
みぞれの声が、ほんの少しだけ震える。
「…けれど、そんなのはないんです。」
「…私は、タヒぬんです。」
「世界が…理が、私が生きることを許してくれないんですから。」
もう、みぞれに感覚はほとんど残っていないと言えるだろう。
レイマリの手を握っている、それなのにその感覚は、全くといっていいほど無いのだ。
視界はぼやけている、耳は、辛うじて聞こえるくらいだろうか?
だからか、レイマリの贖罪も、半分ほどしか耳には届かない。
みぞれはそれを申し訳なく思った。
メテヲは、そんな2人を静かに見守っていた。
レイマリが泣き止んだ頃に、メテヲは、ようやく言葉を発する
「…メテヲはさ…こんな言い方は良くない、けど…みぞれさんがもう、楽になれる道を選んだ方がいいんじゃないかな、って思う。」
「…でも、メテヲだって、みぞれさんにタヒんで欲しくなんてないよ。」
みぞれは、メテヲの言葉も、静かに聞いた。
メテヲも、今にも泣きそうな目をしながら必死に、言葉を紡ぐ
「…っでも、でもさ…みぞれさんが、メテヲ達がタヒんでいくところを何百回と見るのは、嫌なんじゃないかな、って」
「…それに、生き返る、なんて、魔法…ない、し。」
メテヲの言葉もまた、段々と詰まっていった。
「…ごめん」
「…みぞれ、さん。」
そう言って、一呼吸だけ置く。
「…タヒなないでよ…」
そうしてやっと、メテヲは自身の奥底に眠らせた本音を、吐露した。
「いかないでよ…置いていかないでよ…」
「祝いたかったよ…生きて、祝いたかったよ…!!」
「もう…むりなのに…このままじゃダメだってわかってるのに…」
「置いて行くなんて…ひどいよ…!!」
なんだか、ゲームでタヒぬまいと、抗う姿を思い出す。
だが、そんなものよりももっと、そこには心からの友愛と、悲しみがあった。
みぞれも、それに釣られるように、本音を吐露し始めた。
失ったはずの感情が、また芽吹いたかのようだった。
「…生きたかったなぁ…」
「まだまだ生きて、皆さんとゲームして、騒ぎたかった…」
「幸せで、いたかったなぁ…っ!!」
「…う、うぅ…」
みぞれの手は、微かに震える。
「…でも…!!」
「もう、わたしは…これが言えただけで、じゅうぶん、ですから」
「…お願い、してもいいですか…?」
みぞれは、震え声で、そう聞く。
2人は、静かにそれを聞いた。
「わたしを…ずっと、忘れないで、ください…」
「私は…いきてたんだっ、て、おぼえてて、ください。」
2人は大きく頷く
みぞれは安心したかのように、今までで一番の笑顔を浮かべた。
一番、安らかな笑顔を。
みぞれは、腕時計を外すと、針を回す部分に手をかける。
「…もう、覚悟できたんだ…ね。」
「みぞ、れさん…」
2人は、心の底から惜しそうな声で、みぞれにそう聞く。
「…怖い、ですけど」
みぞれは優しく笑った。
「それでも…私は…決めましたから…!」
そうして
時計の針を、ただ進めた。
ぐるぐる、ぐるぐると、針は、正しい方向へ、回っていく
針の音は鳴らない、ただ静かに、回った。
回り続けた。
夕陽がみぞれのみを照らし、ようやく世界が”みぞれ”を認識する。
あたたかい光は、みぞれを覆い隠す
「ありがとう、ござい、ました。」
それだけを残して、みぞれの声が途切れると同時に、世界もまた、形を保つことをやめた。
2人は意識をパッと手放し、闇の中へ、沈んでいった。
__
朝
そうして、レイマリは目を覚ました。
#ひとりごと