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落ち込む善悪に対して、意味も無くコユキが平手打ち、所謂(いわゆる)ビンタを張って言うのである。
バチコ――ンっ!
「善悪! グズグズ話してるんじゃないわよっ! さっさとその絵? 絵巻を持ってきなさいよぉ! ほれ! 早くせぃっ!」
「痛たたた、むふぅ、ありがとね、んじゃ持ってくるよぉ~、ちと失礼をばぁ~」
すたこらさっさと庫裏(くり)の中、間違いなく土蔵へと走った善悪の姿を見送った後、コユキは荒くなった呼吸を抑えながらクロシロチロの三匹に聞くのである。
「モノトーンのカルラって、気配を消すのよね? んで、お猿さんのフンババはフィジカルモンスターって事なんでしょ? 蟹は? 蟹居たでしょ? あの子は何が出来るのかな?」
クロとシロが声を揃えて言った。
「「蟹?」」
ほんの少しの思索の末にチロが口を開いた。
「蟹、かどうかは兎も角、アイツじゃないかな? ほら、フンババとつるんでいたアイツ! 鬼ヶ島に渡る時、船代わりになったアイツ、蟹っぽかったじゃんか!」
クロシロが言った。
「「ああ、あれな!」」
コユキは身を乗り出して聞き入る覚悟である。
「ふむふむ、それで!」
チロが続けて話す。
「ええと、蟹っぽい奴の名前は確か、カルキ…… なんだっけ?」
コユキがすかさず返した。
「カルキノス、よね?」
チロが赤い舌をペロッと出しておどけた様子で返した。
「ああ、そうですね、確かカルキノスとか言いましたね、あの水生生物はハーキュリーズに強い恨みを持っていて、自分が出会った悪魔や魔獣の中で一番強かったフンババを利用してハーキュリーズを倒してもらおうと画策してるのが丸分かりだったんですよぉ、んで、鬼ヶ島に渡る方法に悩んでいた我々に言ったんですよ、『僕の背中に乗りなよっ!』だったかな、確か?」
「ふむふむ、それで?」
「それで、我々を乗せて鬼ヶ島に至近の海上まで航行した蟹っぽいカルキノスはその場で停泊して、猿が行った投擲(とうてき)の足場になった訳ですよ、何しろフィジカル馬鹿ですからねぇ、アイツの投げる剛速球の礫(つぶて)で殆ど(ほとんど)のオーガ、鬼が致命傷を負いましてね、その混乱に乗じて気配なしのカルラが乗り込み、敵の本拠地の守りを無力化したんですよ、お陰でモモタロさんと俺たちは燃焼不足、フラストレーションたらたらでストレスMAXだったんですよねぇ」
ん? んん? なんか凄い話を聞いたぞ、これがコユキの偽らざる感想であった。
日本人なら誰でも知っている『桃太郎さんの鬼退治』、実は脇役っぽい雉と猿でほぼほぼ完結していたらしい話を聞いてしまったのである、そりゃビックリするだろう。
ビックリ仰天だったコユキは、お馴染みのガッツを発揮して聞くのであった。
「ね、ねえ、それで、お猿に粘着していた蟹の能力は? 船の代わりに皆を乗せる以外にはなんかあったのかな? 茶色なカサカサのタネとか見た事無いの? どう?」
今度は三匹の中で年長らしいケルベロスのクロが首を傾げて遠くを見つめながら答えてくれる。
「いやぁ、種とかは特段覚えが無いですねぇ、ただ、あの蟹の後ろにはいつもでっかい木、半透明の大樹が付いて来ていましたよ、確か…… あ! 若(も)しかして、コユキ様が言うその茶色のカサカサのタネを植えるとあの大樹になるのかな? それが柿の木だったら、フンババの狂気の投擲(とうてき)に繋がるとか? かなぁ?」
コユキは手の中にある『柿のタネ』をじっと見つめた後、おもむろに幸福寺の境内に植え付けられた杉の大木に向けて投げ付けたのであった。