俺はいつも、誰かに期待しないように過ごしてきた。期待したところでいいことなんてひとつもない。そう考えていた。彼女からあの一言を聞くまでは───。
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「私、君のことが好き。付き合ってください!」
驚いた。こんな自分を好きになってくれるような人が世の中に居るなんて思いもしなかった。正直に言ってしまえば、友達以上の深い関係になろうとする人もいないだろうと思っていた。
(物好きな人もいるんだな)
そう思った。
俺は告白の返事をした。
「恋愛の好きがよく分からないからこれまでと関わり方は変わらないと思うけど、それでもいいなら」
彼女。いや、佳澄(かすみ)は頷いて「それでもいいよ!」と可愛らしく笑った。
佳澄と付き合ってから数日、2人で出かけている間に普段何をしているのかという話題になり俺が日頃からプレイしているオンラインゲームの話をした。最初は相槌を打つだけの佳澄だったがついには「一緒にやってみたい」と言うくらいに興味を持ってくれた。
「なにこれ難しい!敵強すぎ!」と半分涙目になりながらプレイする佳澄を可愛いと思っている自分がいることに気がついた。
(これが恋の好きなのかな)
そんなことを思いながら佳澄に遊び方を教えていたら気がつけば夕方の18時になっていた。
思っていた以上に時間が早く経っていた。
「もうこんな時間、あっという間だったな〜」
笑う佳澄が夕日に照らされて綺麗に映る。
もう俺は佳澄が好きなのかもしれない。誰かに期待しない自分から抜け出して佳澄に期待してもいいのかもしれない。
俺は自分の中で答えを出した。
「佳澄、俺、恋愛の好きがようやく分かったよ。俺は佳澄が好きだ」
そう言って俺は佳澄を優しく抱き締めた。
それに応えるかのように抱きしめ返してくれる佳澄の手。 初めての感覚だった。
暖かい、ずっとこうしていたいな。ふと頭にそんな言葉が浮かんだ。
すると佳澄が体を離した。
唇に暖かい感触。
俺は困惑して声も出せなかった
「ファーストキス、君にあげちゃうね」
俯き気味で顔を赤くした佳澄が言った。
その後佳澄は固まったままの俺に再度抱きつきながら言った。
「今度は水族館に行こ!」
そう言って佳澄は家に帰った。
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俺は家に帰ったあと唇の感触を忘れられずにいた。
「キス…したんだよな…」
寝転がりながら唇を触って、そう思った。
そして俺はあることに気がついた。
いつからか1人に慣れていたけど、実際は慣れていたんじゃなくて逃げていたんだ。人と関わることから。
でも、こんな俺に佳澄は友達とはまた違う好意を抱いてくれて、ファーストキスまで俺にくれた。それが嬉しくてつい頬が緩んだ。
人はいつだって誰かに期待をしている。
佳澄のおかげで大切なことに気がつくことができた1日だった。
コメント
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感動した。素晴らしい作品をありがとう。次回作も期待してます。