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「…うーん……」降谷は顎に手をやり首をかしげた。
スミスは朝からずっと不機嫌だ。
「苦しい」助手席に今日はいるため、よく見えないが、風見が用意してきた服のサイズが合わないようだ。
シートベルトを外し、胸元のボタンを深くまで開けようとするので「こら」思わず手が出た。シートベルトを指す一瞬で見えたが、あれじゃあたしかにーーもう本当にーー
「日本人は痩せてるのよ。だから肩幅に合わせて服を選ぶけど」
ああ、怒ってる。と降谷はため息をついた。
「わたしはそれじゃあーー」
「悪かった。悪かったよ、風見にはもう選ばせないから…」
ひっかかれそうな勢いで言うから、なぜ自分が謝っているのかよくわからないが。
「風見のシャツは?」
「え?」
「メンズのシャツのほうが胸囲にゆとりがあるのよ、女性ものだと、サイズが上がるごとに肩幅が落ちて不恰好なの。でもメンズのシャツなら、肩幅と共に腕回りも大きいの。だから」
「世の中知らないことは多いな。なるほど…」
というか、世の中の男は女性のからだには疎いだろ。と女性服売り場で困りまくる風見が想像できた。さすがに申し訳なかった。
駐車場にくると、すでに見知った車が止まっていた。もう来ているのか。
「ここからは…」
シートベルトを外してスミスを振り向いた瞬間、彼女の睫毛がふっ、と閉じたのがスローに見えた。
ふわ、と唇に柔らかさを感じる。
「んっ…んん…」ちゅっ、ちゅっ、と短く啄むように繰り返してくる。
僕も男だな…
古谷は彼女を引っ張りあげる。弾力のある尻を鷲掴み、自分の膝に乗せた瞬間、スミスは目を開けた。
「誰か見てるーー」「なにーー」
スミスは唇をつけたまま続けた。
「目を閉じて。キスするときに目を開けているのは、裏切る男って決まってるの…」
だが、正体は呆気なかった。
「きっ…きゃあーーーー!!マスター!マスターー!!」
エプロンをした女が、顔を真っ赤にして箒とちりとりを放り投げて走り出した。
「あ」
「知り合い?」
あぁ…と落胆とこれからの面倒くささで、思わず降谷は額を押さえた。
「あぁ!大歓迎大歓迎だよ!」
マスターは首がもげるほどに頷く。テーブルにつきそうなビール腹に、スミスは呆れたように降谷を見上げた。
「すみません。急なお願いで…」
「いいのさいいのさーーうちの店も常連だけじゃ厳しくてね…なんだ、えっと」
「インスタ」とカウンターの中の女がじと目でこちらを見ている。スミスはひとまず決めた。恐らくあの女に取り入れば、いやすくなる。
「そうそう!それで安室くんが来て、すごく若い女性客が増えたんだよ!だから今度はーー」
ちら、と胸元を見られたのはわかったが無視した。よくあることだ。
じじいどもはそういうのを堂々とやる。
「男性客も!これで売上繁盛だな!」
「梓さん、すみませんが…彼女、まだ日本に来たばかりなんです…日本語がよくわからないときもあるので…」
ばか野郎。とスミスは小さく舌打ちした。
「え、っと…梓、さん?」スミスは立ち上がり、彼女の元へゆく。
明らかに彼女も顔を少し赤らめた。し、下から上までスミスを眺める。
「よろしくお願い致します」
スミスは頭を下げた。あいつーー覚えていろ。
「え、あ、べ、べつにわたしがオーナーじゃないし?色んなことは彼氏に聞いたほうが早いと思うけど…」
「梓さん」ふわり、とスミスは耳打ちする。「彼が…あなたの淹れる珈琲ほど美味しいものはないって…わたし…あなたになりたい……だから…」
「そ、そうなの?」ちら、と見られた降谷はきょとんとした。「い、いいわーーこの梓様が、骨抜きにする珈琲の入れ方!教えてあげるわ!」「あぁ!よかったーー」
スミスはぱんと手を合わせて笑ってみせた。
かかったーー合わせた手越しに、降谷にわからないようなウインクする。
当然、彼は目を泳がせた。
「よし、じゃあわたしはこれで失礼するよ。他にも面接があってね」
「任せてください。マスター」
「よろしくお願い致します」スミスはまた頭を下げると、マスターはへらりと笑って店を出ていく。
「さて、と」梓は腰に腕を当てた。
「さっ。まずは…あぁ、でも店外は掃除しちゃったから、どうしようかな…」
「梓さん、毛利さんに差し入れをしたいので、サンドイッチの作り方を教えても?」
スミスはゆーっくり、お化け屋敷の目玉だけ動く絵のように降谷を見た。
サンドイッチだと?わたしが10年も森の中でなにを食べて育ったと思う?
「はいはい。いいわよ、別に今はお客さんがいないから。忙しくなる前に済ませてよねー」
梓がぷつ、と流したプレイヤーから、英語の曲が流れる。
スミスは顔を歪ませた。
「あ、ごめんなさい」
「え?」
降谷は肩をすくめたところで、カラン、と音がした。
まるで祭が入ってきたように騒がしい。
「安室さーん!あれっ?」
「わぁー!」少女は顔を赤くする。「きれいなお姉さんーー!」「え…」スミスは一歩下がると、がたんと棚にぶつかった。
「ねぇちゃん!おっぱいすげーな!」
「元太くん!」そばかすの彼がさっと顔を赤くする。「失礼ですよ!女性のからだの話をするのはぁっ」「そうよそうよ!お姉さん、ごめんなさい」「いや、別にい…」「おめぇらうるせぇんだよーーさっさと店ん中入れよーー!」
「あぁ、コナン君…」
「ちょっと!」梓がカウンターから出た。「あのね!あたしだって十分…」
「わあってるよ!」元太が面倒そうに席に座る。「オレンジジュース4つなー!」「ったく…名前さん、冷蔵庫からオレンジジュース出してくれる?」
スミスは頷き、コップを出したが。
「透…Justとどっちなの?」
「え?あぁ、それで合ってますーー隣のは、それが終わってからに」
コナンはそれを聞き逃さなかった。
「それと梓さん、すみませんが、音楽をクラシックにしていただけますか?」
「え?でも、インスタでは流行りの洋楽のほうがいいって…」
「お姉さん、英語圏での暮らしが長いんじゃない?」
こと、とテーブルにコップを置き、スミスは眼鏡の少年を見た。
「えぇ…そうよ……」コナンとかいったか。このガキもハーフか?と思う。
「えー?コナン君、なんでわかったのー?」ストローを咥え終わり、少女が目をきらきらさせる。
「でも明らかに、日本人じゃないですよね?」
「こんな見た目でもね、」スミスはそばかすの彼を見た。いちいち顔を赤くする。「日本国籍なのよ…だから……日本人なの」スミスはにや、と笑う。
「はー?日本人てのは黒いんだよ髪も目も!」
「元太くん…日本人がみなそうではありません」
そうか?と腹の大きい少年は首をかしげた。
「…洋楽は英語。俺ら日本人には、ほとんどなんて言ってるかわからない。BGM なんだよーーだから、カフェやいろんな場所でかかっていても、違和感がないんだ。それこそ、言葉のないクラシックとほとんど同じなんだよ。だが」
コナンがスミスを見上げる。
「英語圏での生活が長いと、きちんと言語に聞こえて、会話に聞こえるんだ。だから、集中できなくなるんだよ」
「そうなの?」と梓が身を乗り出してきたので、スミスは頭を下げた。「あ、えぇ…そうなんです…」
「それからーー」とコナンは続けた。
「さっき僕らにオレンジジュースを出すとき、透、justとどっち?って聞いてたね」
「えと、justは…」
歩実が上を向く。
「それだけ、とか。ジャストタイミング、とかのジャストですね?」
コナンはあぁ、と肩をすくめた。
「100%のオレンジジュースは、海外ではjust orangeーーそう書いてあるんだ」
「あぁ!オレンジだけ、って意味ですね?!」
「それを確認してるってことは、日本語より馴染みが深い証拠だよ」
すごーい!と沸くテーブルに、スミスは違う反応を見せた。
「…ぼうや」
間違いない。IQが高い。いちいち小さな会話を覚え、つなぎ、パズルをつなげていくーー真実にたどり着くーー
「まるで小さな…探偵だわーー」
コナンは固まった。スミスはそれをただ見つめる。
わたしが…人殺しに育てられなかったら。
ママが胡蝶蘭の後ろから笑う。スミスはふっ、と息を吸い、よろけそうになる。ぱしん、と肩に古谷の手が回っていた。
「に、兄ちゃん!エロいぞ!」
元太が言うと、今度はコナン以外が立ち上がった。
「エロい!!」「あ、歩実ちゃんまで…」
コナンはこぼれないよう、コップを持ち上げていた。
「悪いね。彼女はーー」ぐっとからだを寄せられ、スミスはおぼんを抱き直した。
「僕の…大切な人なんだ。あまり困らせないでくれるかい」
梓がお経のように、インスタが炎上…インスタが…と呟く。
「「「えーーっ!!」」」
子供たちは叫ぶ。「うそーっ!」「あ、安室さんはたしかに顔はいいですけど、でも運転は安全じゃありませんよ!」「っていうかよ、姉ちゃん。喫茶店の兄ちゃんより、石油王とかがいんじゃねぇのか?ほんとは…」
動物園だな。とスミスは目をくるりとした。だがコナンが見ていたので、すぐ表情を戻す。
なんだーーまるであの目はーー…
「さぁ、名前。サンドイッチを作ろう、あぁ、コナン君。あとでおじさんに会いに行くよ…」
名前とね…。降谷は肩を抱く力をこめた。
「きみは…」降谷はぎこちなさを隠さず言った。「何よ」きっ、とスミスは飛びかかりそうな勢いで包丁をまな板に立てた。
「包丁はパンを切る道具じゃないの」
わたしにはね。と目を細めた。
「あらあら」と梓がそれを眺めて、コップを戻す。
「まるで食パン殺人事件じゃない。そんなに力を入れて切ったら、パンが潰れ…」
「柄をしっかり握らないといけない」
叩かれても、撃たれてもーーザクッ、とまたパンの耳を落とす。
「武器は…離してはならない……」
スミスの目に映る景色が違うのは明らかだった。
「えぇ?名前さん…」苦笑する梓に、スミスははっとする。
「あ、あぁ!テレビで言ってたんですーー透が」と、ちらと肩越しに彼を見る。「日本語に慣れるには、映画を見るといいって…」「なるほどね」カチャカチャと皿を片す音と、子供たちの声の中で、「おい」どん、と肩にぶつかってきて囁かれる。
「仕方ないでしょ」
(わたしはニトロよ。忘れた?)口元だけそう動かす。
梓がぴっ、とテレビをつける。
「真下組の麻薬摘発はーー潜入捜査により、クラブの地下にあることが発覚…ですがこの捜査により、警察官2人が殉職ーー押収されたコカインは、報告の半分以下であり、潜入捜査の正当性が問われ…」
梓がまたチャンネルをまわす。
「銀座交差点の事故地点です!山本記者…」
「はい。こちら事故現場です、警察の発表では、なにかスリップするような液体をまかれたことによる玉突き事故でありーーイタズラとみて捜査を…」
「おー?姉ちゃん!ヤイバーにまわしてくれよ!」
「えぇ?他のお客さんがくるまでよ」
わーい!と子供たちが笑いあって、カウンター内は静かになった。
佐藤は手首をさすったが、目の前で事故の捜査をすすめる高木を見た。
正確には、撃たれた肩を。高木もそれに気づく。
「佐藤さん…」
「えぇ…そうよね」2人が考えたことは同じだ。我々は、殺されなかった。そんなこと、あの女には簡単にできたはずだが…。
必ず…暖かい場所でーー…
「なるほどね…」と佐藤。向こうも予想外だったわけか。
「何者なのーー」
美人さん……
「お、おいーー!」いっぺんにつけられた蛍光灯に目がくらむ。
あれはーー
「公安警察です」佐藤はすぐに理解して目の前へ飛び出ていく。
「させないわーー!」「佐藤さん!」「これは、これはマトリと所轄の合同捜査だったはずよ!公安に渡すわけには」
「きみたちは…」カチャ、と眼鏡をあげる音がして、目の奥に火が灯る。
「いつから我々に口を出す立場に?」
佐藤は唇を噛む。たしかにーー立場上では従うしかないが……
「真下組の麻薬摘発の件は、すでにマトリから押収を済ませた。我々がとりにきたのは、」
「銀座の交差点事故だっていうの?」
佐藤はますます訳がわからなくなる。
「それが、それがマトリとの合同捜査になんの関係があるっていうの!」
押さえる高木を振り払い、佐藤は叫ぶ。
「関係があるかないかはーー我々が決める…証拠品をすべて押収するーー所轄は動くな!1歩もだーー」
「くそーー!」佐藤は壁によけられる。
「佐藤さん!大丈夫ですか…」高木が駆け寄ると、佐藤は誰にも聞こえないくらいで呟く。
「高木くん…公安が動いたということは…」
「はい。単純な事故じゃない」
わらわらと動く公安部を眺め、2人は呟き続けた。
「何が裏があるわ。それに…気になってることがあるのよ」
「事故現場の遺留品である液体」上から声が聞こえて、佐藤は白鳥の手を借りて立ち上がった。
「鑑識では何かスリップしやすい液体であることには間違いなく、それこそローションのような…」
「そう、そうよ。それだけ。だけど事故被害者の話…」
高木はまた頷き、胸元からメモを取り出した。
「スリップした際に、火花が、と」
「他の被害者も同じだ」白鳥が続ける。「火が出て、爆発すると思った。と。実際、何台かは爆発し炎上していますが…」
「これも鑑識で、衝突したことによる爆発だと…」
変だわ。佐藤は素直に口にする。
「突き止めないとーー…何か……それにあの女……」
「公安に押収されたとなると、彼女の正体も、もうーー」
公安部……佐藤は口にしていた。ただ、口に。
「こっちだよ」
コナンが階段を昇る。「ここが探偵事務所」ドアを叩く。だがコナンはさらに階段をあがって、ガチャとドアを開けた。
「おかえりコナン君ーー今日は春巻きなんだけど、ソース切らしちゃっ…あら。安室さ…」
後ろから出てきたスミスは、「んっ」と鼻に皺を寄せた。わからないように。
「あ、えっと?」目の前の制服を着た彼女は、スミスを見て首をかしげた。
「名前さん。こっち、蘭ねえちゃん。空手部の主将」ぺこ、と彼女は頭を下げた。
「蘭ねえちゃん、こっち…その……」
「僕の彼女です」にこっ、と降谷は笑って、おぼんの上のサンドイッチがよく見えるようにした。
「えっ!?えぇーー!あ、こんばんは!毛利蘭です、あ、」お父さーん!と蘭は走って行く。
「あがるよ?」
「あ、うん。名前さんも」
「わ、わたしは…」
するとぬぼっとした男がよれよれの状態で顔を出したが、名前を見るなり目が開いた。
「んわぁーーっ!美しい!!」
「はっ!?」がばっ、と名前の手を握る。「かぁーーっ!なんとその整ったお顔のことっ…なにかお困り事がありましたら!このっーー毛利小五郎に!いつっでもご連絡…」
「しないよ」コナンが呆れた、とふんと息をつく。
「名前さんは安室さんの彼女なんだから。おじさんを頼りにはしな…」
「うるさいぞぼうず!このっーー」
すかっ、と捕まえる隙間を縫い、コナンは走って行く。
なんだこの茶番劇は。
「あの、名前さん?」蘭がもじもじと出てきた。
「よかったら、夕飯、食べてきませんか?わたしの料理じゃ口には合わないかもしれませんけど…」
「あ、あぁ、いえわたしは…」
「き、聞きたいなぁって」と蘭。「なにを?」素直に言うと、「あ、えと…」顔を赤くする。「ど、どうやって…あ、安室さんと付き合ったのか…」
そういうこと。名前はふーと背中に重心を預ける。
どの国の女も、女は女か。
「あ、違うんです!わたしは安室さんを好きだったわけじゃなくて…」
「僕が何かな?」
「はぁっ!」蘭は持っていたしゃもじを空中に放り投げた。
「蘭」スミスは言う。「またの機会に」と。
「家庭料理には様々な食料が使われているから」唐突に話し出す降谷の後ろを降りながら、スミスは顔をあげる。
「鼻がもげそうだったかい」
「彼女の料理はおいしいでしょうけど」
当然だ。癖は抜けない。わたしにとって、調味料は塩だけ。コンソメや何やらは自然界に存在しない。
狩った鹿を食べ、薫製にし、冬を越した。野山の山菜をとり、煮て薬にだってした。
クラブで出てくるのはーーおもにフルーツだから。
カラン、と真っ暗なカフェに戻る。
「目が覚めてきた」とスミス。
「ん?あぁ…」昼夜逆転だったなら、当然だ。と。言いながら降谷は食器を洗う。
カチャカチャ、と音がする中で、スミスは動かない。古谷は顔をあげる。
「どうしたんだ」
「…そうじゃないーーよく見えるの。夜目が利くの……」あの低い声に、降谷ははっとして咄嗟に出てきた肘に皿を投げていた。バリン、と鳴った皿を踏む、スミスの足音が聞こえるときにはすでに、彼女の顔が目の前にあるーー
あの、怒りを溶かした碧が。
「…っ!」
ガタン、と降谷は倒れて、上にはスミス。首には、手が巻き付いていた。
「どうしたのよ」
降谷は何もしない。
「君こそ…痛いじゃないか…げほ」
「お前をまだ信用できない」
「酷いな」
それは、こちらも同じだというのに…。
「国内でテロは起こらない。お前たちの仕事だからな、そうだろう。だが…わたしはわたしで動かせてもらう」
「テロを起こすつもりか?レディ」
「いや?」スミスはすっとどいた。喉を押さえて咳き込む降谷に、スミスはコップに水をくんで渡す。
「…お前はわたしを守ると言ったな。信用に足る人間か、わたしを本当に守れるか…知りたいのはそれだけなんでね…」
ふっ、と息を吸いスミスは玄関を見る。
「あのぼうずがくるーー」
「安室さーん」トントン、とドアが叩かれる。「まだいるのー?いたら、ソース買いに行きたいんだー!雨も降りそうだから車に乗せてー!」
スミスは降谷を見る。ぱんぱん、とエプロンを叩き、顎でスミスをやった。
「安室さ…」
出てきたスミスに、コナンは口を丸くする。「あ、名前さん…」「いいけど、ちょっと待ってくれるーー」スミスは豊かなアッシュの髪を振り向かせ、降谷にまた近づいていく。
コナンの前だ、何もできまい、案の定だった。
「ごめんなさい。わたしの落ち度で…怪我はない…?透…」
わかりやすく、がり、と皿の破片を踏んでみせる。
「あ、あぁ…大丈夫だ。それより君に怪我は?」
スミスは胸元に頬を寄せてきた。
これだからこの女は恐ろしいんだ。と立ち尽くすコナンを、スミスの頭越しに見て思う。
ニトロはーー。
狭心症患者の【薬】だ。舌下に入れ溶かし、経口摂取することで早く効果が出る。
だが、液体として1滴でも垂らせば…
「お皿は片付けておくわ…コナン君を送ってあげて?ハニー」
「…そうしよう」スミスは爪先をたてたので、そのまま口づけた。
目を開けたとき、彼女はすでに開けていた。