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おまる
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「先輩、この段ボール、本棚に入れていいっすか?」
「ええ、お願い……あっ、ちょっと待って!」
制止が間に合わなかった。高瀬くんが何気なく手に取ったのは
私が大切に隠し持ってきた紙のTL漫画のコレクション。
彼はその中の一冊、『エレベーターが止まったら、憧れの先輩と偽装恋人になりました』という
いかにも年上スパダリが出てきそうなタイトルの表紙をじっと見つめた。
「……先輩、やっぱ年上派なんですか?」
「ち、違……っ、くないけど…悪い!?」
奪い取るように漫画を取り返すと、私は顔が火が出るほど熱くなるのを感じた。
仕事中には絶対に見せない、余裕のない表情。
「別に悪くないっすよ。…でも、これ。年下は対象外ってことっすか?」
不意に、高瀬くんがぐいっと顔を近づけてきた。
いつもの冗談めかした雰囲気じゃない。
その瞳は、私の「好み」の本質を抉り出そうとするかのように真剣で。
「え? まあ……包容力ある人がいいなとは思うけど……。でも、好きになれたら別に関係ないわよ」
精一杯の真面目な回答。
すると彼は一瞬だけ目を見開き
その後、これ以上ないくらい嬉しそうに口角を上げた。
「……じゃ、俺にもチャンスありますよね」
心臓が跳ねる。そんな彼の「年下攻撃」を躱した。
◆◇◆◇
それから数日後の休日───
私たちは連れ立って大型書店に寄っていた。
「ちょっと見たいものがあるから」と言って
私は吸い寄せられるようにTL漫画の新刊コーナーへ。
そこで私が手に取っていたのは───
『純情なのは顔だけ。~ケダモノな絶倫後輩に、身も心も暴かれて〜』
『鉄面の女上司はコスプレ趣味を隠せない~後輩部下に弱みを握られ、甘い契約婚に溺れるまで~』
(……何やってるのよ、私)
気づけば、かつての「年上ダンディ派」の形跡はどこへやら。
買い物カゴに入っているのは、ことごとく
「年下・後輩・ギャップ萌え」というキーワードが並ぶ本ばかり。
会計を済ませて店を出ると、隣を歩く高瀬くんが袋の中を覗き込んで、不思議そうに首を傾げた。
「先輩が年下もの買うなんて珍しいっすね。あんなに年上派って言ってたのに」
「た、たまたまよ!ネットのレビューが良かっただけ!」
私はあからさまに動揺しながら、早歩きで彼を追い越そうとした。
自分でも気づきたくなかった。
私が手に取った漫画のヒーローたちが、揃いも揃って高瀬くんにどこか雰囲気が似ていること。
「大型犬のような笑顔」と「夜の独占欲」を併せ持つ彼らの姿に
無意識のうちに高瀬くんの面影を重ねてしまっていることに。
「……ふーん、たまたま、ですか」
背後から聞こえる、楽しそうな彼の声。
私の心は、あらすじを読み進めるまでもなく
もう完膚なきまでに「年下後輩」というカテゴリーに陥落していた。