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おまる
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週明けの月曜日
会社での仕事中、私のスマートフォンが震えた。
警察の担当刑事からの着信だった。
「……はい、佐藤です。…ええ、はい……」
高瀬くんが隣の席から、心配そうにこちらを伺っているのが分かる。
電話の内容は、宏太が警察の呼び出しに応じ、正式な「警告」が発せられたという報告だった。
『これで法的な拘束力が強まりました。ただ、警告を受けたことで逆上するケースも稀にあります。数日は特に気をつけてください』
「わかりました。……ありがとうございます」
電話を切ると、指先が少し冷たくなっていた。
法的な進展は一歩前進だが、それは同時に、宏太をさらに追い詰めたという事実でもある。
「……先輩? 顔色、悪いですよ」
「大丈夫、警告が出たって。……でも、数日は気をつけてって言われちゃった」
私が弱音を吐く前に、高瀬くんが素早く立ち上がり、私の背中を優しく叩いた。
「よし、今日は定時で帰りましょう。夜道は俺が完璧にガードしますから。……それに、今日は雨予報ですし」
彼の明るい声に、こわばっていた肩の力がふっと抜ける。
帰宅路、予報通り降り出した雨。
高瀬くんは「狭いですけど、これで」と言って、自分の大きな傘を私に差し出した。
一本の傘の下
肩が触れ合うほどの至近距離。
「……あの。高瀬くん?濡れてるわよ」
「いいんです。先輩が濡れないのが一番ですから。…ほら、もっとこっち寄ってください」
彼は私の肩をぐいっと引き寄せた。リハビリのおかげで
もう彼のこの強引な優しさに「ビクッ」とすることはない。
むしろ、雨の音さえ遠ざけてくれるような、彼の体温とシトラスの香りに、深い安らぎを感じていた。
高瀬くんのマンションにて
リビングのソファに座り、二人で温かいココアを飲む。
「……ねえ、高瀬くん。私、前は『警告』なんて出されたら、もっと怖くて眠れなくなってたと思う」
「……今は?」
「…今は、あなたが隣にいてくれるから。……不思議ね、あんなに怖かった夜が、今は震えもしないし…高瀬くんだと、安心するの」
私の言葉に、高瀬くんが少しだけ驚いたように目を見開いた。
「…先輩。それ、かなり嬉しいっす。……俺、凛さんにとって『怖くない男』になれてますか?」
「……ええ、怖くないわ」
私はそう言って、彼の手のひらに、自分からそっと自分の手を重ねた。
外は激しい雨が窓を叩いているけれど
この部屋の中だけは、何者も侵し得ない温かな「聖域」だった。
私はこの夜、高瀬くんの存在が
自分の生活の一部……
いや、なくてはならない「光」になっていることを、改めて実感していた。