私、蒼さん、遥さんも警察署に行き、詳しい事情をそれぞれ聞かれることになった。夜遅くに解放され、蒼さんと二人で自宅に戻った。
遥さんにお礼を伝えたかったけど
「落ち着いたらでいいよ。心の整理ができるまで仕事も大丈夫だから。有休とか使いな」
私に気を遣ってか、言葉少な目だった。
家に入るまで蒼さんにギュッと手を繋いでもらい、リビングのソファーに座る。
「お茶、淹れるから待ってて?」
蒼さんがそう言って立ち上がろうとした。
「桜?」
手を掴み、それを私が引き止める。
「どうした?」
「ごめんなさい」
ごめんなさいと言う言葉しか出てこない。
「なんで謝るの?桜は悪くないから」
蒼さんは優しく肩を抱き寄せてくれた。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい……」
マイナスな思考しか生まれてこない。涙を流す私を蒼さんはずっと抱きしめてくれる。
「蒼さん……。私のこと、嫌いになっちゃいましたか?簡単に騙されるバカで。可愛くもなくて。何もできなくて……」
怖かった、蒼さんや遥さんに嫌われることが。
「嫌いになるわけないだろ?俺があの時、桜の様子に気を遣っていれば、もしかしたら防げたかもしれない。こんな怖い目に遭わずに済んだかもしれないって後悔してるよ。守る守るって約束しておいて、また桜を泣かせた自分が嫌になる」
蒼さんの落ち着いた声が耳元で聞こえる。
どうしてそんなに優しいの?
「蒼さんは悪くないです。私が嘘をつかずに全部相談していればこんなことにならなかったのに。お金を返してもらえるって聞いて、信じて……。自分が大嫌いです」
自分の安易な判断で大切な人たちを巻き込んでしまった。最低だ。
「前に言ったよね?自分のこと卑下しないのって。桜はきっと|優人《あいつ》から金を返してもらって、それを俺たちに渡そうとしたんだろ?きっと家賃とか、生活費とか……。迷惑かけているからって。桜の性格だから、悩みながらもそんなことを考えて、俺たちに相談しなかったのかなって思うよ」
蒼さんの言葉に涙がさらに溢れる。呼吸が上手くできなくて苦しい。
「落ち着いて。ゆっくり息を吸って」
トントンと優しく肩を叩いてくれる。
「俺も姉ちゃんも桜に金を貸しているって認識は一切ないよ。俺はもう桜の彼氏だし。家賃なんてもともと一人で払ってたんだし、生活費とかだって出して当たり前だと思ってる。もしも……。例えば俺が病気とか事故で働けなくなったら、桜だって同じことしてくれるだろ?」
コクンと頷く。
そうだ、もしもそんなことが起こったら同じことしてる。
お金なんて関係ない。大好きな人を……。
蒼さんを支えるために何だってやる。
「だからお金のことは、これからも気にしなくて良いんだよ。それはわかった?」
「……。わかりました」
私は蒼さんにギュッと抱きつきながら答えた。
「あと、桜は可愛いよ。役立たずなんて言わないで?俺、桜が居なくなったらダメになるから。桜が居てくれるからいろんなこと頑張れるし。毎日が楽しいし。出逢う前は、なんとなく生きていたけど……。桜と一緒に住むことになって、毎日のご飯が楽しみで、おかえりなさないって出迎えてくれることが嬉しくて。俺と居てくれるだけで感謝してる」
蒼さんがゆっくりと話す言葉が心に響いて。
嬉しくて、また違う意味で涙が出てきた。
「あーあ。また泣いちゃったな」
ごめんごめんと背中を擦ってくれた。
「私も……。毎日が楽しいです。蒼さんが居てくれるから」
彼はフッと笑って「ありがとう」と言ってくれた。
その日の夜の記憶はそこからぼんやりとしてて覚えていない。
蒼さんの隣で寝て、次の日も彼は仕事を休んでずっと傍にいてくれた。
私がきちんと話せるようになった時、優人に襲われた日のことを彼は詳しく教えてくれた。
遥さんがタクシーに乗る優人と私を見たこと、そして蒼さんに連絡をしてくれたこと。
蒼さんは出勤予定だったけど、STARの水道が急に出なくなってしまったって連絡を受け、お店自体がお休みになったらしい。だから早く駆け付けることができたって。
「虫の知らせじゃないけど、たまたま店が休みになって良かったよ。蘭子さんに話したら、私の日頃の行いが良いからよってわけわかんないこと言ってたけど」
蒼さんはそう言って苦笑してた。
「蒼さんって本当に運動神経良いんですね?あとケンカ?も。すごくかっこ良かったです。王子様みたいです」
私がそう伝えると
「ケンカではないよ。まぁ、相手が弱かったから。一応、蘭子さんが師匠で何年も格闘技はやってたからな。役に立って良かった」
そんなことを話しながらリビングのソファーに座りながら二人の時間を過ごしていた。
ちなみに優人は恨みとかじゃなく、お金だけの目的で今回のことを計画したらしい。何に使ったかわからないけど。一緒にいた二人組も結局は警察に捕まって、優人の知り合いで同じようにお金が欲しくてやったって言っているらしい。
「ちなみに……。なんだけど……。これは姉ちゃんから秘密にしてって言われてることなんだけどさ」
「はい?」
「あの二人組、アパートの下で待っている姉ちゃんが取り押さえたんだ」
「えっ。男の人二人ですよ?遥さん、ケガとかしてないですか!?」
男性二人なんて、遥さん無理して実はケガとかしたんじゃ。
「ああ。大丈夫。俺は逆に相手が心配だったけど。姉ちゃん、実は……。蘭子さんと同じくらい強いから」
蘭子ママさんと同じくらい強い?想像がつかない。
って言っても、蘭子ママさんと同じくらい強いって、蘭子ママさんが闘っているところも見たことないしな。私の予想では、相当強そうだけど。
うーんと私が想像していると蒼さんは笑って
「桜は見たことないからよくわからないよな。そうだな、例えるなら……。蘭子さんがクマで、姉ちゃんがトラみたいな感じ。あっ、これ秘密な」
クマとトラ。絶対両方強いに違いない。
私がクマとトラの表現に笑ってしまうと
「良かった。やっとちゃんと笑ってくれた」
蒼さんはそう言って微笑んでくれた。
コメント
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最高な、彼氏さんすぎる!!