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透明な放課後。
 
 
 屋上に出た瞬間、風が吹き抜けた。
 夕日が沈みかけていて、
空が薄赤く染まっていた。
 制服の袖が風に揺れている。
きりやんは気配にきずいたのか、俺の方にゆっくりと振り返った。
 「……来ると思った。」
 それだけを言って、また前を向く。
 「きりやん…。話がある……お前、全部知ってるんだろ?」
 俺が近ずくと、きりやんはゆっくり目を伏せた
 「どうして、そう思うの?」
 「未来の”ぼく”が言ってた。
『きりやんは全てを知っている。けど、口を開かない』って」
 きりやんは小さく笑った。
 「”未来の君”って、どっちの?」
 「……どっちって?」
 「未来は1つじゃない。
君がみた”未来の自分”は、どんな目をしてた」
 俺は、思い返す。
教室の黒板の前でであった”もう一人の自分”。
 穏やかな声で、静かな笑顔。
だけど──どこか
”諦め”のやような色をしていた。
 「……優しいけど、
どこか……終わってた気がする。」
 「だよね。じゃあ、その未来はもう手遅れだった未来だよ。」
 俺の目が大きく見開かれる。
 「それ…どういう意味?」
 「”正しい未来”じゃない。
君がその未来を信じて進んだら、
全員が消える 」
「でも…じゃあ…俺はどうしたらいいの?シャークんは、選べって言った。誰かが嘘をついていて、誰を信じるか、って…」
 「それも、罠だよ。」
 きりやんの声が少しだけ強くなった。
 「”誰かを選ばなきゃいけない”って考えさせること自体が、もうプログラムの1部なんだ。」
 
 「選ばせて、分断させて、壊す。それがこの
”記憶の罠”の仕組み。」
 「…なにそれ…意味わかんないよ。じゃあ、どうしてこんなことが起きてるの?」
 「それを知ってるのが君自身なんだよ。
ただ、”君はまだそれを思い出せてない”だけ」
 俺は、足元が崩れるような感覚を覚えた。
 「……俺が、原因?」
 「違う。君”だけ”のせいじゃない。
でも、君がある選択をしたせいで、この世界は1度”壊れた”」
 「選択……?」
 「”ある子”を君は信じなかった。
その結果、あの子は…消された。」
 俺の耳元で風がなった。
鼓動が早くなる。
 「それって……だれ?」
 きりやんは目を閉じた。そして──
 「……次に消えるのはシャークん。」
 と、だけ言った。
 「え……シャークんが?でも……シャークんは、すごく協力してくれて…! 」
「だからこそ、狙われる。
きっともう、今日中に記憶から消えるよ。今のうちに”本体のこと”を聞き出した方がいい」
 「きりやん、お前は何を隠してるの?」
 「……俺は、”存在しない記憶”だけを見てきた。だから、本当のことは言えない。…俺が言った瞬間、世界がまた、壊れるから。」
 俺は、言葉を失った。
 きりやんはゆっくりと歩き出し、階段の方へ背を向ける。
 「ねぇ、きりやん…」
 きりやんの背中が止まる。
 「…もう、会えないかもしれない。もしそうなっても、忘れないで。
”名前を覚えていること”がたった一つの鍵だから」
 きりやんはそう言って屋上を去った。
 
 俺は、1人残された夕空の下で、名前を繰り返す。
 「…きんとき、スマイル、きりやん、シャークん…」
 だけどそのうち、きりやんの名前が思い出せなくなっていることに気づいた。
(うそ、今、さっきまで話してたのに…)
 俺の視界が霞む。
 ──誰かが、また記憶を消していく。
 
 
 つづく
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