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人生の汚点など全て数えれば、指が何本あっても足りないだろう。そんな中でも強いて一つだけ挙げるのであれば、それは状況を打開しようとせず受け入れ続けた自身の愚かさだろう。
地獄に慣れるために物心ついた頃から、耳を、目を、口を閉じ、外の世界を見ないようにしてきた。初めて外の世界を認識するようになったのは大きくなってからだった気がする。
白雪「名前がありんせんのか?なら…わっちが名前を主さんにつけてあげんしょう。今日から、主さんは傾と名乗るとようござりんす。 」
傾「…ありがとうございます。あの…ですが、私には母様が呼んでくださる名前がありますが…」
幼い日の自分は、白雪と名乗る化け狐にそう抗議した。自分を産んだ女が呼ぶ名前の意味を理解などせずに。
白雪「…それは主さんの名前ではありんせん。主さんの名前は傾なのだから。」
白雪姐さんはそう誤魔化すように茶化した。
記憶の中の母親「慶三郎さん。」
傾「母様。」
記憶の中の母親「慶三郎さん、言ったはずですよ。私のことは名前で呼んでくださいと。」
傾「…あぁ、そうでした。すみません、撫子さん。」
撫子「構いません。ところでその方は?浮気でしょうか、妬けてしまいますね。」
傾「違いますよ、だから妬かないでください。」
撫子「貴方がそう言うのなら…」
白雪「……。」
撫子「慶三郎さん、その…今夜は貴方の部屋に…」
傾「構いませんよ。」
母親からの要求には全て答えていた。
否定すると、目の前で泣き崩れ切腹しようとしたことがあったからだ。
その夜、部屋の中で母の足跡を待つ。
自身の部屋に母が来ること、ソレは夜伽の合図だ。正直、なんでこんなことをするのか理解に苦しんだ。気持ち悪いし、暑いし、五月蝿い。
それでも母が喜ぶから、受け入れていた。
白雪「傾も大分大きゅうなったし、もう嫁ぐのか。」
傾「もう三になりますからね。文は既に届いているんです。 」
白雪「…そう、か。」
傾「私が嫁げば、母の生活を楽にしてくれるらしいんです。」
白雪「それは…良い事でありんすね。」
傾「準備を進めませんと。…白雪姐さん。一つだけ私のお願い、聞いてもらえませんか?」
白雪「主さんの頼みなら、なんでも聞いてあげんす。」
傾「母様のこと、お願いします。」
白雪「安心して任せなんし。」
この先私は茨の道を進む。白雪姐さんが言い淀んだのは、きっとだからだったのだろう。
準備を、覚悟を決めなければならない。
本当に好きな物を何も見ぬようにして、ただ生きる為、生かす為に、女として生きる覚悟を。
白雪「だーれだ?」
傾「声でバレバレですよ、白雪姐さん。」
白雪「つれないねぇ。」
庭園の縁側で針仕事をしていると、どこからともなく目隠しをされるが、正体を言い当てる。
傾「お久しぶりです。1年ぶりでしょうか?」
白雪「本当に久しぶりでありんすね。しかし…このような雪が降る日に外で針仕事など風邪を引いたらどうするんでありんすか。」
傾「お気遣いありがとうございます。ですが寒さには強いんです。だから安心して下さい。それより…白雪姐さんこそどうやってここに? 」
白雪「1つくらい秘密があった方が良い女でありんしょう?」
傾「ふふっ、それもそうですね。」
白雪「…主さん、その腕の傷は?」
傾「隠していたつもりだったんですが…」
白雪姐さんは私の袖を捲り、腕の傷について問う。
傾「旦那様のご趣味です。それより…母はお元気ですか?」
白雪「それよりって…」
傾「私にとっては重要なことなのです。」
白雪「…元気でありんすよ。」
傾「ありがとうございます。…私は、獣人ですからあまり居場所がありません。でも生きる為にはどこかに嫁ぐしかありません。例えどんなに痛い思いをしたとして、母が幸せなら旦那様は約束を守ってくれているということです。それなら、これ以上望むことなどありません。」
嫁ぐときから理解はしていた。自分は生きているだけで幸せな方なのだと。自分は暇を潰すための道具でしかない。飽きられてしまえばぽいだ。だから高望みはしない。例え、殴られ蹴られ炙られようとも、簡単に壊れてしまいそうな脆い心の母が元気で居てくれるならそれで良かった。良かったはずだった。どんな時も笑顔で接するだけでいいのに。
傾(それだけで…いいのになぁ。)
貴女の前だと笑えなくなる。
傾「私は貴女の家族ではありません。あまり頻繁に会うのはどうかと。」
白雪「確かにわっちは主さんと血は繋がっていんせん。…しかし、わっちが大切と思う者を心配することすらも、悪いことと言うのでありんすか。」
傾(…哀れなヒト。)
ただ長く生きて尻尾が1本から9本になっただけの化け狐。人間が、勝手に神々しいとか適当に印象づけて祀って、貴女は1人の妖から、神にされてしまった。
傾「…貴方のソレは神として役目を全うしよう責任感からきているだけです。もういいんです。貴女にこの土地のヒトを守る、助ける義務なんてないんです。」
貴女がいると私は甘えてしまう。泣いてしまう。ようやく出来た覚悟が崩れてしまう。だから、私は貴女を遠ざけるために嫌な言葉を選ぶ。
傾「…神様のフリなんてやめてください。」
白雪「…どこでソレを?」
傾「…常識がない者なんて誰も貰ってくれませんから。」
白雪姐さんが何を思ったのかなんて、自分には分からない。ただ、凄く怒った顔をしていたのは覚えていた。
それからまた月日は経って、気付けば半年が経っていた。
傾(足音…?)
傾「ここには誰も来ないはず…」
殺気立った男「なんで俺が居るのに気付いたか、分からないが黙っていてくれないか?」
初めて会った貴方は、酷く殺気立っていた。
傾「…血の匂い…怪我をしているのですか?」
殺気立った男「だったらなんだ?」
傾「…私は貴方がここに居ることを、誰かに言いません。取りたいものがあるので、行かせてくれませんか?」
殺気立った男「俺が信じるとでも?」
傾(…手当したいだけなんだけど…それを言ったところで信じなそうだし…)
白雪「ゆ、鼬一郎、まっておくんなんし…!」
傾「白雪姐さん?」
白雪「ごめんなんし。この子の手当をしようとしたんでありんすが、包帯を切らしていて譲ってもらおうかと…」
傾「取りに行こうとしたんですが、止められていまして…」
殺気立った男「…アンタの身内か?」
白雪「そうでありんす。」
白雪姐さんの返答を聞き、殺気立った鼬一郎と呼ばれた男性は大きく息を吸い、そして目の前で頭を地に伏せ土下座した。
鼬一郎「本当にすいませんでした…!!」
傾「ちょ…やめ…!顔を上げてください!」
鼬一郎「命の恩人の身内さんに俺はなんてことを…!」
白雪「やめておくんなんし。傾が困っていりんしょう。」
身内という言葉に口角が上がりそうになるのを、必死に隠して私は平静を装う。
そうしていつも通り私は白雪姐さんの真意に気付かないふりをする。
傾「救急箱を取りに行きますので、少々お待ちください。」
白雪「ありがとうござりんす。 」
長身の女性「傾さん。ソレを持ってどこへ?」
ソレというのは救急箱のことだ。
傾「…雫さん。…私は獣人ですから、肌を見せて他の方を不快にさせたくないのです。」
雫「良い心がけです。獣人の触れた救急箱なんて、汚らわしいだけですから、そちらは差し上げます。」
傾「…ありがとうございます。」
私はこの人が苦手だ。他の女性と交流をするところを見たことがなく、掴みどころがないのだ。
傾「ただいま戻りました。」
白雪「ありがとうござりんす。」
鼬一郎「さっきはすいません、えーと…」
傾「傾です。」
鼬一郎「いい名前だな。俺は鼬一郎。包帯だけ貰ってく。」
傾「一人で出来ますか?」
鼬一郎「問題ないよ。それじゃあね。」
白雪「あこら!主さんさっきまで立つのも…!」
鼬一郎「もう体力戻った。お前もありがとう。」
それだけ言うと、鼬一郎さんは足早に屋敷を後にする。
白雪「全く…。」
傾「…まだやめていなかったんですね。」
白雪「…わっち自身はこれを神のフリだなんて、思ってござりんせん。ただ、わっちはヒトが好きで、やりたくてやってる…と思いんす。少なくとも主さんのことは…」
傾「白雪姐さん、どうかお願いです。その先の言葉は貴女の心の中で…」
白雪「…迷惑でありんすか?」
傾「いいえ。ただ、私の未熟さゆえに決意が揺らいでしまうのです。」
貴女と、本当の家族になれたのなら、これ以上の幸せはきっとどこにもない。そんな幸せを知ってしまえば、私は後戻りか出来ないだろう。
だから、どうか言わないでと私は貴女に頼み込んだ。
傾「…今日は一段と冷えますね。」
半月経ってそんな独り言を呟いた後、
私は固まる。 確かに何かを見た。
何かを見て固まった。
見たのに、何も覚えていない。
その先の記憶が無い。不自然な程に。
それ以降の記憶を辿ると、時折不自然に記憶が抜けていることがあった。
俺は何かの記憶がごっそりと抜けている。
人の良さそうな男性「傾ちゃんで合ってるよね?」
傾「私が傾ですが…一体なんでしょうか?」
私は、突然軽々と塀を飛び越えた男性に、驚きながらも答える。
人の良さそうな男性「よかった、合ってた!俺の名前は義左衛門。鼬一郎がお世話になったね。これお礼。 」
傾「お気持ちだけで十分です。私は包帯を渡しただけですし…それに…このようなもの私等には…」
義左衛門「ゆーちゃんも直接お礼言いなよ!全く…ゆーちゃんと合流出来て話を聞いてみたら…こんなにお世話になっておいて菓子折の1つも渡さないなんて最低!」
鼬一郎「悪かったって…」
傾「鼬一郎さん。」
鼬一郎「この前は改めてありがとう。それ団子。獣人だから、バレたら良くないでしょ?今食べちゃって。俺達が回収するから。」
義左衛門「ゆーちゃん!恩人さん、急かしちゃダメでしょ!」
傾「大丈夫ですよ。丁度お腹も空いてましたし…ありがとうございます。」
甘味なんていつぶりだろうか。
口に頬張りながら、私は鼬一郎さん達に質問をする。
傾「お二人はどういった関係なのですか?」
義左衛門&鼬一郎「仕事仲間だ。よ。」
義左衛門「仕事内容は言えないけどね。戦友っていうか仲間っていうか…。」
鼬一郎「義左衛門。」
義左衛門「あー…ごめん。言うなってさ。 」
鼬一郎「俺達のことなんざ、知らなくていい。」
その当時その言葉の意味を理解することは出来なかった。
今となっては分かる。俺にまで穢れて欲しくなかったのだと。
鼬一郎「…前に包帯を渡してくれた時、俺、すぐに治療しないと大分危険な状態でさ、だから本当に助かった。 」
傾「それは良かったです。もう今は平気なのですか?」
鼬一郎「すっかりな。傾、君は外に出れるのか?」
傾「いいえ。旦那様のお許しがない限りは…」
鼬一郎「何か聞きたいことはあるか?俺達は情勢には詳しい自負がある。 」
傾「ありがとうございます。ですが、何故教えてくれるのですか?」
鼬一郎「えぇと…」
義左衛門「ゆーちゃんが好きでやってるだけだよ。」
義左衛門さんは鼬一郎さんをちらっと見て、そのまま私と会話を続ける。
義左衛門「ねね!傾ちゃんだからけーちゃんって呼んでもいい?」
傾「え、えぇと…」
鼬一郎「そうぐいぐい行くな。」
義左衛門「はいはい、全くゆーちゃんは堅いね。 」
傾「…旦那様から聞いたことがあるのですが、外では戦が起こっていると…」
鼬一郎「起きているな。それもかなり長いこと。でもここよりずっと遠くでやってる。だから、傾に被害は無い。」
傾「いえ…母が心配で。」
義左衛門「どの辺にいるの?」
傾「灯影の町に住んでおります。」
義左衛門「なら、ここと同じで大丈夫だよ。」
傾「よかった…。」
鼬一郎「母親思いだな。」
傾「ありがとうございます。」
鼬一郎「…白雪とはどういう関係なんだ?」
傾「…母の代わりに私の面倒を見てくださっていました。時々こちらにも様子を見に来てくださるのですが…私がやめて欲しいとお願いしました。」
義左衛門「えっ…」
傾「…怖いんです。甘えてしまいそうで…」
どうしてか、鼬一郎さん達には言えなかったことが言えた。
義左衛門「甘えるの自体は悪くないと思うんだけど…」
鼬一郎「義左衛門、傾は獣人だ。生きていく為には相当な努力と覚悟がいるはずだ。傾は覚悟が揺らいでしまうかもと恐れているんだろ?」
傾「全部お見通しですね。その通りです。」
鼬一郎「そうか。」
鼬一郎さんはただ、一言そう言った。
それから義左衛門さんと会うことは少なかったが、鼬一郎さんは定期的にこちらに会いに来るようになった。
鼬一郎「ほら。」
白雪「ちょ、ちょいと待っておくんなんし。」
傾「鼬一郎さんと…白雪姐さん。」
鼬一郎「傾達はもっと会話をするべきだと思う。俺には身内が居ない。失ってから後悔するんじゃ駄目だ。だからお前達には仲良くしていて欲しい。上手く言えないが…もうちょっと自分の覚悟を信じてみても、きっと罰は当たらない。その…義左衛門なら上手く言えたのかな…。」
傾「…鼬一郎さん、ありがとうございます。」
私と白雪姐さんの離れてしまった繋がりを、元に戻したのは全く関係ないはずだった鼬一郎さんだった。
白雪「…傾。」
傾「白雪姐さん、私わがままを言ってばかりですよね。許して…くれますか?本当は貴女ともっと話をしたいんです。」
白雪「許すも何も、わっちもずっとまた話をしたかったんでありんす。」
傾(あぁ。こんな簡単な事だったんだ。)
鼬一郎さんの言う通りだった。私は、私を信じていなかったせいで、白雪姐さんとかつて別れてしまった。
傾「…鼬一郎さん、本当にありがとう。」
あれ以来は、3人で話すことが多くなった。
鼬一郎「これは?」
傾「これは旦那様のお召し物です。糸がほつれてしまったようなので、手直しをしております。」
鼬一郎「これ完成したやつ?」
傾「はい、そちらは私の分ですので自由に見て構いません。」
鼬一郎「へー…待ってこれ縫い目どこ?」
傾「?あるじゃないですかそこに。」
鼬一郎「本当に分からん…凄い上手いんだな。」
白雪「傾は苦手なものの方が少ないくらいでありんす。特に舞は格別で…」
傾「家事と娯楽だけですよ。やりたいことと言うかと違いますし…」
鼬一郎「何やりたいの?」
傾「…あの失礼にあたるかもなんですが…その…」
鼬一郎&白雪「?」
傾「鼬一郎さんの持ってる刀、格好いいなと思ってまして…その…私も扱えたらな、と。」
そう言いながら、私は鼬一郎さんの腰に携えられた刀を見る。
鼬一郎「教えてやろうか?」
傾「へっ、そ、それは…う、嬉しいんですが…その…」
白雪「ヒトが来る気配は当分なさそうでありんすよ。なんならわっちが隠してあげんしょうか?」
傾「そ、それなら…」
鼬一郎「おいで、教えるから。でもその代わり、1個だけ俺の頼み聞いてくれるか?」
傾「私にできることであれば…」
鼬一郎「俺、こんなナリだけど可愛いものが好きなんだ。何か1つ繕って欲しい。無理ならいいんだけど… 」
傾「お任せを。少し時間はかかってしまうかもしれませんが…」
鼬一郎「いいよ、ありがとう。」
そう言った貴方の笑顔はどこか寂しそうだった。その寂しげな笑顔の理由を、知らなければどれだけ楽だったんだろう。
傾「これは?」
鼬一郎「それはクナイ。それは鎖鎌。お前が扱う必要は無いよ。でも、知っておけば護身には役立つと思うよ。…近頃、物騒だから。」
傾「…戦のことですね。」
鼬一郎「ああ。最近は特に酷い。白雪も治療に追われているようで、ここ最近疲れている。今日はまだ来てないし心配だ。ところで傾、大分刀扱うの上手くなったね。」
傾「本当ですか!?」
鼬一郎「ホント。そういう努力家なところ、いいと思う。」
傾「ありがとうございます!あ、そうだ、前に頼まれたものが完成しましたので、取ってまいります。」
鼬一郎「分かった。」
自室から庭園への縁側に戻る途中、私は足を止める。私の聴覚は人間より優れている。争う声を拾ったから、私は足を止めたのだった。
義左衛門「鼬、いい加減にしなよ。」
鼬一郎「…何が。」
傾(義左衛門さんの声と鼬一郎さんの声…どちらも知ってはいるけれど…今は戻りにくい…というか、いつ義左衛門さん来たんだろう…)
義左衛門「俺達はいつ死ぬか分からないんだ。いつだって恨みを買う立場なんだから。互いに別れが辛くなるだけだ。」
鼬一郎「…それくらい分かっている。」
義左衛門「分かってるだって?冗談はよせ。分かってないから俺が今言ってるんだろ。確かに俺はしっかりお礼はしろと言ったけど…深入りしろなんて言ってない。…今夜は新月だ。」
鼬一郎「分かった。…平助は?」
義左衛門「俺に…渡して死んだ。」
鼬一郎「…悪いな。…頼んで。」
傾(急に会話が途切れ途切れになった…?というか死んだって… )
初対面の時、鼬一郎さんは酷い怪我を追っていた。それが危険な仕事をやっている結果だとしたら。
どう戻ろうか考えあぐねていると、肩にとんとんと誰かに手を置かれる。
傾「あ。」
白雪「珍しいでありんすね。主さんも居るのは。」
義左衛門「白雪様とけーちゃん。」
白雪「そこで合流してな。」
私の肩に手を置いたのは、白雪姐さんだった。
鼬一郎「悪い、急用が出来た。」
傾「そうなのですか…お付き合い下さりありがとうございます。」
鼬一郎「俺が好きでやってるだけだから。」
傾「あ、せめてこれだけでも…」
鼬一郎「俺が前に頼んだ…」
私が渡したのは鼬一郎さんに以前頼まれていた、繕い物だった。
傾「色々考えましたが、手拭いの刺繍にしてみました。」
鼬一郎「ありがとう、凄く気に入った。」
傾「…喜んでもらえたようで何よりです。」
あの時、私が引き止めていれば何かが変わったのだろうか。いやきっと、
鼬一郎「俺、お前のこと好きだな。」
義左衛門「なっ…!」
傾「私は女性のような振る舞いを意識はしていますが、男ですよ。最近は声も変わってきてしまっていますので…」
白雪(全然気づかのうござりんした…)
鼬一郎「知ってる。3日後にまた会おう。分かってるって言っただろ?」
その意味を理解しないままでいたら、こんなに苦しまずには済んだろうか。
義左衛門「…はぁ。それじゃあ慌ただしくてごめんね。本当はゆっくりお茶出来たら良かったんだけど…」
傾「構いません。」
後悔だらけの人生の中で、
きっとあれほど悔やんだのはあの時だろう。
これ以上の後悔があるとは想像したくなかった。
3日後 義左衛門さんだけが、
重症を負いながらここに逃げ込んだ。