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「嫌だ、俺、木曜から出たくない。また金曜がやってくる」「え、何の話? ループでもしてんの?」
月曜日、あいつから逃げ出したものの、今日まで結局何も話せていない。「俺たちの関係、なかったことにしない?」と呼び出して言うだけなのだが、あいつのあの、笑っていない笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
「ループだったら地獄だよ……そうか、俺は未来を変えられる!」
「なんか映画でも撮ってるの?」
不思議そうにキョロキョロするともやを置いて、俺はあいつを探した。いつもの席には、りゅうせいとしゅうとが座っている。あ、目が合った。しゅうとがめちゃくちゃ睨んでいる。こわー。
「りゅうせい、いつきくんはどこ行った?」
できるだけ睨んでいる方を視界に入れないようにして、優しい方に声をかける。
「ん、さっき女の子に手を引っ張られて連れ去られた」
「は!? 誘拐じゃん!」
「今頃、空き教室で襲われてるんじゃない?」
「いや、そんな笑い事じゃねぇだろ」
ふふ、とりゅうせいが呑気に笑う。横ではしゅうとが「女の子やったから油断した!」と叫んでダッシュで教室を飛び出していった。あいつ、いつきくんのガードマンか何かなの?
「あ、いた」
窓から校庭を覗き込み、りゅうせいが指をさす。
「……スタイル抜群の黒髪ショート。いつきくん、好きそう」
「胸ちっさい方が好きなんだって」なんて、あいつのタイプなんて聞いてねぇよ。
「……まぁ、忙しいなら今度でいいや。ありがとな」
「ん、一人になっちゃったし仲間に入れてよ」
「おう」
「きゃぁ~」と女子みたいな声を上げて、りゅうせいとともやが手を振り合っている。久々に会った女友達かよ。どういうノリなんだ。
「あ、今日行くよ、イタリアン。いっちゃんもどう?」
「は? 行くかよ。俺、パスタ苦手だし」
「え!? いっちゃん、めっちゃペペロンチーノ好きじゃん!」
「すごい! 自分にそっくりなもの好きなんだ?」
「……待て。ペペロンチーノにそっくりって何だよ」
アホみたいに二人でウケている。マジでお前らのツボがわからねぇ。
「あ、おかえりいつきくん。え~、なんか可愛いの持ってる!」
りゅうせいの視線の先、教室のドアを見る。思わず振り向いた俺と、入ってきたあいつの目が合った。一瞬、時間が止まる。
「……クッキーもらった。お土産だって」
「え~見せて~!」
おやつを見つけた大型犬みたいに、りゅうせいが椅子も直さずあいつの元へ走っていく。
「……ねぇ、なに今の間。いつきくんとなんかあったの?」
ともやの鋭い視線が痛い。
「あ、いや、何もねぇよ」
「じゃあ今日行く? さやちゃんも誘ったけど」
「行く。ます。行きます」
うさちゃんが来るなら話は別だ。
♢♢♢
「おいしぃですぅ~! しあわせぇ」
パスタを口いっぱいに頬張ったうさちゃんの、とろけるような笑顔。それを見てデレデレしている男三人と、ポツンと離れた席に座って不貞腐れているチワワが一匹。
「ねぇ、しゅうちゃんもこっちおいでよ。ここからいつきくん、めっちゃ見えるよ」
りゅうせいの誘いにも、しゅうとは頑なだ。俺のそばに座るのが死ぬほど嫌らしい。けれど、可愛いうさちゃんも気になるし、厨房でフライパンを振るいつきくんも諦めきれない。その結果、顔面1人運動会のような表情をしている。
「……俺がどっか行きゃいいんだろ?」
ホールのお姉さんが運んできてくれたペペロンチーノを受け取り、俺はしゅうとからもっと離れた席へ移動した。すると「じゃあ私も行きます」とうさちゃんが続き、当然、残りの二人もついてくる。結局、移動しただけで全員集合だ。しゅうとの孤立離脱作戦は一秒で崩壊した。
「……りゅうせい、奢るから頼むわ」
「本当? 何頼んでもいい?」
りゅうせい、お前は親友より飯を取ったな。嬉々としてメニューを指さしすぎるだろ。
「うさちゃん、どう? 思い出になった?」
「いつきくん、かっこいいよね。さやちゃんが好きになっちゃうのわかる」
「はい! 今日のいつき先輩は一段とかっこいいです。こんなに美味しいものも作れて……いつき先輩と付き合える人は、本当に幸せだなぁ」
え、待て。うさちゃん、涙目になってないか?
引っ越しを前にした切なさが溢れ出したのか。俺ら、余計なことしちゃったか……?
「……はい、これ。サービス」
その時、うさちゃんの皿の横に、コトリと小さなコーヒーカップが置かれた。
急ないつきくんの出現に、うさちゃんが固まる。
「すご! ラテアートっていうんだっけ、これ」
「すげぇじゃん、これいつきくんが描いたの?」
カップの中に描かれていたのは、あまりにも可愛らしい「うさぎ」の絵だった。
俺は思わず顔を見上げて話しかけていた。目が合った瞬間、いつきくんは分かりやすく顔を真っ赤にして、「……まぁ、そう」とだけ吐き捨てて厨房へ逃げ帰っていった。
……あ。ダメだ、俺。
いらんことをした。せっかくうさちゃんがいつきくんと喋れるチャンスだったのに、俺が先に反応してどうするんだ。
「……びっくりしすぎて、息が止まりかけました」
「え、大丈夫?」
りゅうせいが笑いながら、うさちゃんの背中を自然にさすっている。お前! 優しいふりしてどさくさに紛れて触るなよ!
一方で、しゅうともソワソワが止まらないらしい。
「お、俺も! ラテアートのやつ欲しいです!」
「リクエストはありますか?」
「同じやつで!」
にっこり笑うホールのお姉さんに、しゅうとがうさちゃんのカップを指差す。
なんだ。匂わせでもする気か、このチワワ。
「……可愛すぎて、飲めないです」
うさちゃんが大切そうにカップを見つめる横で、俺は少し伸びたペペロンチーノを口に運んだ。
……めちゃめちゃ辛い。
これ、絶対あいつ、唐辛子多めに入れただろ。