サイド キリ
お姉ちゃんの体が電車に轢かれた。
その光景はまるで白昼夢を見ているようで、それが現実だということを私はすぐに理解出来なかった。
「え…………?」
バサリ、と音を立ててお姉ちゃんが腰に巻いていたウインドブレーカーが私の足元に落ちた。
ねぇ、嘘だよね?だって、お姉ちゃんはさっきまで……。
「……お姉ちゃん?お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」
なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!
「う、ああああぁぁぁっっ!!」
「ほら、あの家の……」「あの子が男の子を突き飛ばしたんじゃね……」「そうに違いないわ!だって、」
「人殺しの娘だもの」
向こう側から、ヒソヒソと話し声が聞こえる。違うのに、何も見てないくせに!
五月蝿い五月蝿い!
「お姉ちゃん、お願いだから目を覚ましてよ。いつもみたいに、ニコって、笑ってよぉ……」
服が、姉の血で汚れるのも気にせず、私はまだ温かみのあるお姉ちゃんの手を握っていた。
ピーポー、ピーポーと今更ながら救急車のサイレンが鳴る。どう考えたって、間に合わないと、私も誰もがわかっていた。
残された私は、両手でサイズの大きいウインドブレーカーをグッと強く握り締めていた。
お姉ちゃんが亡くなって、色彩のない世界が眼前を埋め尽くしている。
だから、それを見つけたのは本当に偶然だった。
「お姉ちゃん……日記、書いてたんだ」
一週間連続かと思えば数ヶ月飛んでいる不定期で法則性のない日付け。
お姉ちゃんはあの日、あの時何を言おうとしていたのか。何気なくページを捲った先に答えがあった。
そして、私が産まれる前のお姉ちゃんの生活の全ても。
「お姉ちゃんは、“お姉ちゃん”を演じていたの……?」
日記──サイド ミヤビ
これは、私が私であるための証明。だから、必要なくなる日がいつか来ることを願って私の本心を書き記そうと思う。
今日も、何も味がしなかった。そのうち痛みすら分からなくなるのが怖い……ううん、そうなれれば楽だと思いたく無いの。
最近、先生がセクハラしてくる。両親に気づいて欲しいと思うのに、勝手に嘘をつく。……心配させたくないな。
大丈夫、とか頑張れって言葉が嫌いになった。大丈夫としか返せないし、頑張れって言われたらもっと無理しなきゃいけないから。
最近、死にたい、消えたいって考える時間が増えてる。もう限界かな?他人事みたい。
死のうとした。そしたら、妹が産まれたって連絡がきた。……もう、少しだけ、生きてみようかな。
久しぶりにこれ書くなぁ。
もしかしたらキリに嫌われたかもしれない。でも、キリには私みたいに自分を殺して欲しくない。日記(こんなもの)がなくても自分は自分だってこと、ずっと覚えていて欲しい。
キリはキリだから。
私は、キリのお姉ちゃん。それが、私。きっとその責任?立場?があるから私は私でいられる。
ずっと書かなくてごめんね。でも、多分これが最後の日記。もう、必要ないと思うから。
今までありがとう。もう一人の私。
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