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サイド キリ
日記を閉じて、大きく息を吐く。
お姉ちゃんは、きっと人格が幾つかあったんだ。
でも、それは不思議なことじゃない。人は場所や人によって違う自分を作るから。
例えば、家だと気が緩む様に。友達と話すときにテンションを合わせる様に。上司に敬語を使う様に。時々自分でも怖いくらい酷いことを考える様に。
どれが本当とかじゃなくて、全部ひっくるめて“自分”。円錐が何処から見るかで丸や三角と違うものの様に見えるだけで、本質は同じだから。
…………でも、
「私や、家族くらいには、悩んでるってこと、本当のお姉ちゃんの姿のこと、言ってくれたら良かったのに……!」
わかっている。お姉ちゃんはそんなことを言えない性格だってこと。
私も、気付けなかった。もっと、お姉ちゃんのこと見て、理解しようとすれば良かった。あんな事で口聞かなくなるんじゃなかった。
「お姉ちゃん、ごめんね…………!」
後悔ばっかりだ。あのときも、そして、今も。
キノに、あんなこと言うんじゃなかった。自分が一番ああ言われて傷ついてきたのに。それを知っていたのに。
理性が飛んで、ああ思ってしまった私が恥ずかしい。でも、あれだって自分の一部だ。
私は私として生きていく。私の個性を認めてくれる居場所を探してたのもそのためだ。だから私は、
──モンダイジ団に、入ったんだ。
キノに、みんなに謝ろう。今度は手遅れになる前に。
小さい頃の私が、過去を忘れないように戒めとして握ったお姉ちゃんの形見であるウインドブレーカーを、目覚めた私は、今を壊さない為に握り締める。
「────よ!ルネなんてもう仲間じゃねぇ!!」
キノの叫び声が聞こえる。
「…………待って!!」
お願い。
今度は、間に合いますように。