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アラームの音がして目を覚ますと、寝室のクローゼット前では、尊さんがもう着替えていた。
「おはよ。会社行けそうか?」
「ん……、はい……。寝起きにミコ」
私は目を擦って「ふわーっ」と伸びをしながら大きな欠伸をすると、モソモソと起き始めた。
旅行中、町田さんがおかずを作ってくれたので、私たちはそれをお供に白米を食べていく。
「やっぱり朝はお米ですよね」
「米は大事。ふるさと納税で届けてもらうようにしてる」
「さすミコ」
いつも通りの会話をしながらご飯を食べていたけれど、尊さんがやにわに話題を変える。
「ちょっと飯の最中に適してない話をするけど、総務部の人いただろ? ……朱里を悪く言ってた」
「あ……、はい」
私はちょっとの気まずさを覚えて頷く。
「彼女たちに処分が下る事になったから、一応伝えておこうと思って」
「あぁ……」
そういえばお手洗いで色々言われたなぁ……、と今になって思い出す。
確かに嫌な出来事ではあったけれど、色々あってすっかり忘れていた。
秘書になったあと、普段いるフロアも変わったし、お手洗いに行っても遭遇しなくなったもんな。
「呼び出して話を聞いたりしたんですか?」
「まぁな」
「どういう……、処分ですか?」
「んー、三人ともバラけて子会社に島流しだな。厳しい処分を……と思えば辞めさせる事も可能だが、泣いて縋られて、とりあえずそういう形に。子会社でもしっかりした上司のいる部署に配属させて、見張ってもらうつもりだ」
「……分かりました」
「今、七月二十二日か。盆休みを挟んで異動になるから、まぁそれで溜飲を下げてくれ」
「はい」
「それで、今日彼女たちを集めて、朱里に謝罪させたいと思ってるんだけど……、大丈夫か? それじゃないとけじめがつかない気がするんだ」
「……そうですね。あまり気が進みませんが、それで終わりになるなら」
「約束する」
尊さんは立ちあがって私の肩をポンポンと叩き、小さく笑う。
「嫌な役をさせるな。今夜、焼き肉でも食うか。それで手を打ってくれ」
「はい!」
決して食べ物につられた訳じゃないけど、尊さんは私のために動いてくれた。
彼女たちのした事は大人、社会人として度を超しているし、学生の頃なら嫌がらせ程度で済んでいた事でも、社会に出たあとは訴えられてもおかしくない事になる。
自分たちは悪い事をしたと自覚してもらい、もう二度と同じ事を繰り返さないようにしてもらえるなら、多少嫌な思いをしてでもケリをつけなければ。
「あと、第二秘書について、こっちも急だけど昼休み前に面接を受ける事になった。同席してもらえるか?」
「はい」
こっちは純粋に仕事で、私の相棒にもなる相手を決める訳だから、きちんと望まないと。
そんな感じで、私たちは食事を終えたあと出社する支度をした。
車の中で私は恵におはようメッセージを送っていた。
総務部の人たち、第二秘書の事を話したら、こう返事があった。
【しっかりケリつけて、スッキリ次にいきな。そんで美味い焼き肉でビクトリー!】
クスッと笑った私は、尊さんに尋ねる。
「ねぇ、尊さん。今夜の焼き肉、恵も一緒だったら駄目ですか?」
「ん? いいけど。奢っちゃる」
「やったー! ありがとうございます!」
喜んだ私は、恵にトトト……とメッセージを打つ。
【恵も焼き肉行かない? 尊さんの奢り】
【ラッキー! 待ってろタン塩!】
【仕事終わったら、地下駐車場に集合ね】
【ラジャ!】
私は目の前に人参……、もとい焼き肉をぶら下げて俄然やる気を出した。
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