コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私は疲れていた。どうでもいいという感情を顔に出し、
「こんな世界じゃ。あいつらがいてもいなくても大して変わらないさ」
「そんな……。今は一人でも多くの仲間がいたほうがいいでしょ。あの人たちだって私たちと同じくこの世界に迷い込んできたのよ。いい、もっと強い意志を……」
呉林が言い終わらないうちに、私に強い感情が迸りそのまま声になった。
「俺はフリーターだ! 強い意志なんて元々持っていない! 人生の目標なんてないし、これから持つこともない! 楽な仕事を一生やって、けれど一生懸命やって、そして、年金暮らしをする! そんな人生を享受したい人間なんだ! もう怖いし疲れたしここから出たいだけなんだ!」
そう言うと一瞬、私も涙ぐんだ。何故だろうか。でも、もうどうでもよかったのだ。自分が助かれば。彼らを見捨てても。こんな世界で一時間もいるのは本当に恐ろしい。
感情を爆発すると、こんな異常なところでも、頭がキリリと絞られてきた。
頭がすっきりすると、どうしようもなく、言葉に出来ない恐怖心が湧き上がる。本気で彼らを見捨ててもいいと思うと同時に、何か熱い魂が動いた。と、その時、背後ですさまじい音が鳴り響いた。
「ガアーン! ガァーン!」
と、何か重い金属で立て続けに鉄格子を殴る破壊的な音が鳴り響いた。
「囚人房の方よ!」
呉林は私に強い瞳を向ける。呉林は私の手を握ると、それと同時に元来た道を駆けだした。私は呉林の手を払いのけようとは思わなかった。
幾つもの囚人房を通り過ぎ、さすがに息切れをする。運動不足の体で呉林とともに思いきり走った。来たときの半分の時間で囚人房に着いた。私は額の汗を拭おうとしたが、手が止まった。
ここに来る時、閉めたはずの頑丈な扉が開け放たれている。
「ガァーン! ガァーン!」
更に激しく鉄格子を殴る音にくわえ、
「なんだこいつはー!」
中年男性の叫び声が響いた。
中に入ろうとすると、テレビの砂嵐の音が聞こえた。鉄格子を破壊的に殴る音はぱったりと消えている。
囚人房の中には、ハンマーを持った青い上下の作業服の大男がいた。頭には何故かテレビを被っている。こちらを向いているテレビは砂嵐が映っていた。
「気を付けて下さい! そいつはハンマーを持っているし、おかしいんです!」