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激しく打ち鳴らされたドラムの音と共に目の前が一気に明るくなる。
真っ白な世界。
歓声。
まばたきを繰り返している内に目が慣れてきて、ふと貴方のいる方に目をやると、大丈夫、というように笑顔で頷きかえしてくれる。
あぁ、これは夢だ。
まだ僕たちが出会ったばかりの頃。
鋭いアラーム音に思わず飛び起きる。冷や汗でぐっしょりになったTシャツに、何か嫌な夢をみたらしいということは分かったが、内容までは思い出せなかった。
「……はぁ」
深く息をつくと、喉がカラカラなことに気づく。そういえば、ミセスに加入したばかりの頃はステージに立つと緊張で口の中が乾ききってしまって、うまく話せなかったなと思い出した。
『ミセスのキーボードって……』
『他のメンバーは……なのに、キーボードは……』
ふと昔の記憶がよみがえってくる。それを払い除けるように慌てて頭を振った。伸ばしている髪が汗ばんだ首筋や額にはりついて気持ちが悪い。水を飲むついでにシャワーも浴びようと寝室を出た。
シャワーを済ませ、髪の毛を乾かしながらSNSをチェックしていると
『最近もっくん、ひろぱにばっかり絡みすぎじゃない??涼ちゃんに塩対応にみえる〜😭』
いつもなら平気にスルーしてしまう何気ない書き込みに思わず手が止まる。2人の方が付き合いは長いし、同い年なのもあって、元貴にそんなつもりはなくてもつい若井との絡みが多くなってしまうのは自然なことだ。さらに僕との絡みではイジリが主流なこともあって、そういう風に見えてしまうのかもしれない。
……でも、2人をみていると、時々、僕の居場所なんてないんじゃないかと思う時がある。ずっと一緒の2人だからこそ分かり合えること、2人でしか分かち合えないものもあって、この先、自分が邪魔者になったらどうしようとか、なんでも器用にこなす2人の足を引っ張ってしまうんじゃないかとか、どうしようもなく不安に駆られる時がある。そういう自分の暗いところを急に目の前に引き出されたような気がして、慌ててスマホを閉じた。 じわ、と目頭が熱くなって思わず上を向く。まずい、今日この後撮影あるんだから、泣いちゃダメだ。 必死に心を落ち着けようと深呼吸してもかえって苦しさが込み上げてくるようだった。
会場入りはメイクの関係もあって僕がいちばん早い。スタイリストさんと今日つけるアクセサリーをどんなのにしようかと話していると、
「「お疲れ様でーす」」
と元貴と若井が同時に入ってきた。
「あれ?今日2人一緒なんだね〜」
とスタイリストさんが声をかけると
「昨日元貴んちでふたりでゲームしてたんすよ〜。それで今日はそのまま」
「気がついたら3時とかだったもんね!で、今日この撮影あるから、ヤバい早く寝なきゃ〜みたいな」
「仲良い〜」
まだちょっと眠たげに目を擦る元貴をみてスタイリストさんが笑う。その光景にちくりと胸が痛んだ。嫌だな。別に珍しい事じゃないのに。僕だって元貴とも若井ともふたりでゲームしたり出かけたりすることだってあるのに、誘われてないとか何でふたりでとか少しでも考えてしまう、嫉妬してしまう自分がものすごく醜い人間に思えて嫌気がさす。そんなことを考えていたので、ぱちりと元貴と目が合った時に思わず目を逸らしてしまった。
「あれ、涼ちゃん……」
こんな事で嫉妬してるとか気づかれたらどうしよう。呆れられてしまうかも。うざったく思われるかも。 きゅ、と靴音がして、いつの間にか元貴がすぐ側にきていたことに、その時初めて気づいた。
「わっ、なに、元貴」
「涼ちゃん、なんか目ちょっと腫れてない?」
今朝、少し泣いてしまったせいだ。内心ぎくりとするも、平静を装って
「そうかな、自分じゃ気づかなかった」
と笑ってみせる。メイクさんもちょっと驚いたように声をあげた。
「え?ほんと?よく気づくねえー」
「んー、いつもみてるんで……涼ちゃん瞼なんか冷やす?あっでもメイク崩れちゃうかな」
そんな気になるほどじゃないし大丈夫だよー、と返す。気遣わしげな優しさを帯びた瞳に見つめられて、思わず鼓動が早くなる。心配をかけてしまったという後悔よりも、他の人が全然気づかないような些細なことに元貴が気づいてくれたことへの嬉しさが上回って、さっきまでのもやもやが嘘のように晴れていく。そんな自分の単純さに、ちょっとだけ、嫌気がさした。
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