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「なるほど、十メートルでござるか…… 何も見当たらないが、一応探し歩いてみるでござるか……」
言いながら善悪は持っていたペットボトルの中の水を、未だ燻(くすぶ)っていた杉の枯れ枝にタップリと掛けた。
ジュッ――っと音を立てて消火されたが、回りの石でも熱くなっていたのか、モクモクと蒸気を立てている。
その時、不意にコユキが声を発した。
「ふふふふ、ははははは、あははははは!」
段々声のボリュームを上げながら止まること無く笑い出したのである。
ギョッとした顔でコユキの方を凝視した善悪だったが、コユキは何もない空間を指差しながら大笑いをしているだけだ。
「? コユキ殿? ん、んふふふ、あははは、うあひゃひゃひゃひゃひゃ!」
コユキに話し掛けた次の瞬間、善悪までコユキ同様に声に出して笑い始めてしまったのだ。
「アハハハハハハ」
「はぁっはははは」
「むふふふふふふ」
「おほほほほほほ」
「ぐふぐふぐふふ」
「くははくははは」
スプラタマンユの面々も続けて笑い出してしまい、一人残されたシヴァは突然の事に恐怖を感じた。
自分以外の全員が、虚空(こくう)を指差しながら、大笑いをしているだけでなく、苦しいのか、眦(まなじり)に涙を湛えたりもしている。
シヴァは誰とも無く全員に向けて言うのであった。
「みんな一体どうしたのか? だ、大丈夫なのか? はっ! ま、まさかさっきの紫のキノコ、か? いや、それ以外考えられぬ! い、一体どうすれば……」
シヴァは自分だけが口にしなかった、『ムラサキアブラシメジモドキ』を原因と特定した様であった。
しかし、特定した所で自分には治癒系のスキルは無く、こんな時に頼りになるラマシュトゥはオホホホと笑いながら、呼吸困難に陥っているのだ。
破壊(シントゥリーヴィ)の力しか持たない自分の事をこれほど無力に思った事は無かった。
絶望しながら、もしこのまま全員が死ぬような事があれば、自分一人でもコユキの家族の魂を取り返して見せる、と心に誓うのであった。
「是非も無い! 再び、闘神(インドラ)と化して、ムスペルへイムに破壊の限りを齎(もたら)してくれようっ!」
自分に言い聞かせるように叫んだその時、コユキが声を掛けた。
「あーあー、笑った笑った、どうしたのよシヴァ君、中二的な事叫んじゃったりして」
「へ?」
「ふぅぅ、まあ、そういう時期なのであろ? 生暖かく見守るでござるよ」
善悪の言葉に周りを見回すと、兄弟たちも皆、生暖かい視線を自分に向けている事に気が付いた。
「あれ、これは、どういう?」
「どういうって?」
コユキが質問に質問で返した、ダメって分かっているくせに、残念なデブチンである。
しかし、シヴァはそんな失礼なコユキの質問返しに真面目に答えるのであった。
「いや、皆笑っていたでは無いですか! 私はてっきり『ムラサキ毒キノコ』にやられてしまったとばかり」
コユキが驚いた様な顔をしてシヴァを凝視し、善悪と兄弟達は揃って軽い溜め息を吐いていた。
コユキは先程まで笑いながら指差していた場所に、再び指を向けると優しい口調で言った。
「ほら、あそこ見てごらん、あの斜面の部分だけ蒸気が途切れているでしょう? 皆、あれを見て笑っていたのよ」
「?」
コユキの言う通り、数メートル先にある斜面に向かって伸びていった蒸気が、一部分だけポッカリと消え失せて、暫く(しばらく)すると又モクモクと風下に向かって流れていった。
「あれは?」
「あの部分はたぶん他の場所の景色でも映し出して偽装してあるんじゃない? 大切な入り口を隠す為とかにネ♪」
「あっ! クラック、か」
やっとシヴァにもコユキの言っている事が理解出来た、自分以外の皆は、早々にその事に気が付いて、隠匿(いんとく)の杜撰(ずさん)さを笑っていたのであろう。
「それにしても、神様とかって呼ばれている割には鈍いのね? シヴァ君て」
コユキの言葉に、他のメンバーたちがクスクス小声で笑っている。
「くっ!」
この日、古代から人々に恐怖と|畏敬《いけい》を持って|崇《あが》められてきた『破壊神シヴァ』の自尊心は案外容易く(たやすく)破壊されたのであった。