「はじめましてぇ…桜谷聖也、18歳ですっ!」
その後予定通り、俺たちのマンションにやって来たモネの従兄弟、聖也。
「桜谷…?」
お母さんサイドの従兄弟だから名字が違うのはわかるが、よく似た名字に思わず声が出た。
「うん。姉妹で桜木さんと桜谷さんになるなんて驚いたって、お母さんたちいつも言ってる」
笑顔のモネに続いてうふふ…と笑う聖也は、色白できれいな男の子、といった印象だ。
「はじめまして。綾瀬吉良です」
目元でピースをするポーズを決めた彼に、俺は冷静に挨拶を返して、手を差し出した。
「えーっ!こんなイケメンと握手なんて、僕…緊張しちゃうなぁ」
屈託のない笑顔の聖也。
不審な動きをしている…と思ったら、エイっ!という謎のかけ声と共に、なぜかふわりと抱きつかれた。
「…やだ聖也!なに急に抱きついてるのよ!」
モネが聖也の背中をパチンと叩く。
その仕草が可愛い…と思いながら、素直な感想を伝えた。
「…握手の方が、まだ緊張しないんじゃないかな?」
正直呆れたが、そんな心の内を見透かされないように言ったつもりだ。
それに男に抱きつかれるのは…あまり好まない。
…あー、そんなことを口に出したら、女性に抱きつかれるのは嬉しいのかと、モネに思われる可能性がある。
そんなことはまったくないが、彼女はまだまだ自分を過小評価していて、小さなことで眉を下げるから気を付けてやらなければならない。
「わぁ…吉良さん、ずっとモモちゃんのこと見てる」
「「…え?」」
2人同時に疑問符が出て、モネが急に俺を見上げるから、バッチリ目が合ってしまった。
俺から少し離れた聖也に、視線を追われていたらしい。
「そ、そんなこと…聖也はイチイチ見てなくていいんだから!」
みるみる顔を赤くして、俺から視線を外したモネを見ると、少し膨らんだ頬の向こうに、尖らせたピンク色の唇が見える。
可愛い…。
あいにく俺の胸には聖也がいるが、もしいなければ確実に抱き寄せる可愛さ。
「そういうわけにはいかないよぉ。大好きなモモちゃんの好きになった男の人でしょ?俺もどんな人か、ふかぁく知りたいし!」
せっかく少し距離をとってくれたのに、聖也は再び俺に抱きついてきて、胸元の匂いをクンクン嗅がれる…
「吉良さんいい匂いがするぅ!なんか香水つけてるんですか?」
「少しだけ…ね」
「へぇ…なんていう香水ですか?」
見た感じ背が高そうな聖也。俺の胸元に顔を埋めるって、結構屈まないと無理だよな。
「後でショップのURL 送るよ」
それだけで終わらせたのは、早く離れて欲しいからだ。
「うん!じゃ…お願いします!」
離れるかと思った聖也は、もう一度顔を俺の胸にグリグリ擦り付けた。
なんだよこれ。BLか。
「も…もういいでしょ。聖也、離れなさいよ!」
聖也の腕を引っ張りながら言うモネの顔つきは、確実にヤキモチだ。
まぁまぁいい気分になりつつ、そろそろ本気でモネに加勢してやろう。
「部屋に案内するから、聖也くん?」
「…じゃあ次はモモちゃんね!」
突然胸元の温もりが離れ、きゃあ…という小さな悲鳴が聞こえた。
「ちょっと…!何やってるのよ?!」
今度はモネが聖也に抱きつかれている。…というか、サイズ的に抱きしめられている、といった方がピッタリだ。
「まずは、その家の人たちとしっかりコミュニケーションを取らないとね!」
取りすぎだ…と思いながら、文句を言うわけにもいかず、俺はそのままソファに座る。
「もう…!日本人同士なんだから、コミュニケーションなんてたいしていらないでしょ?ここは日本!東京だってば!」
必死に訴えるモネの言葉を聞いて思い出した。
聖也は幼少期を海外で過ごし、高校時代の夏休みは、向こうにホームステイしていたという。
だからこんなにスキンシップしてくるのか…と納得した。
…とはいえ、目の前でモネが男に抱きしめられているのを見るのは面白くない。
それが例え、従兄弟だとしてもだ。
「…モモちゃん、ちっちゃくて可愛いなぁ…それに柔らかいし、吉良さんとは全然違う甘い匂いがする」
「聖也くん、部屋に案内するから、そろそろハグは終わろうか」
柔らかいとか甘い匂いとか…モネに対してそんな感想を抱いていいのは俺だけだ。
ソファから立ち上がり、少し険しい表情を聖也に見せつけ、モネの背中に巻き付く細い腕をぐいぐい引き剥がす。
イテテ…とか声が上がるがそんなこと知ったことではない。
「…もう。抱きつくクセは、大学入学までに直しなさいよ?」
…大学入学までに?
冗談じゃない。モネに抱きつくのはこれを最後にやめてもらいたい。
「うーん、わかったぁ。でも、たまには手をつないでよ…」
見ると首をかしげてモネを見下ろし、少し唇を突き出す表情の聖也。
…なんだそのあざと可愛い顔は。
聖也の部屋は、俺たちの寝室の目の前の部屋に決まった。
というか、空いてる部屋はそこしかないので、香里奈同様有無を言わさずそこで寝泊まりしてもらう。
「ありがとう…明日、ベッドとかいろいろ届くと思う!」
「「え…?!」」
また2人同時に疑問符が口から飛び出した。
「…家具まで届いちゃうわけ?」
「うん。お母さん、言ってなかったぁ?」
「うちのお母さんが伯母さんに頼まれたのは、一人暮らしのアパートが決まるまでのわずかな間の同居だってことだけど…」
「そうなんだけどさぁ…でも実際、アパートいつ見つかるかわかんないから送ってって言ったんだぁ」
…俺が何も言わずに無表情を貫いたのは、話が違うとモネが慌てて焦って、いろいろしなきゃと思うのを防ぐため。
そりゃ2人きりでいたいが、とりあえずモネと一緒に眠ることができるなら、そんなに慌てなくてもいいと思う。
「とりあえず、荷物を少し片付けて。そしたらシャワーでも浴びたら?」
「はい!吉良さんありがとうぉ」
俺が余裕だったのはここまで。
まさかこの聖也が、とんでもない七変化をして見せるとは、この時はさすがの俺も思っていなかった。
コメント
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聖也くん七面鳥?w 距離感バグってるし、なんか怪しい。 従兄弟って結婚出来るよね〜 吉良ティンの邪魔しそうだよ〜