「あ、なんか近いな。」
第15話:『あかん、俺……気づいてもうた。 』
放課後の教室。
夕陽が斜めに差し込んで、机の上に光の筋を描いてた。
みんな帰って、静まり返った空間に、
ひとり残った俺の靴音だけが響く。
樹の席の上に、見慣れた筆箱が転がってた。
「あいつ、忘れてったんか……」
何気なく手に取る。
角が少し擦れて、使い込まれた感触。
カチャ、と中のシャーペンが鳴った。
ただ、それだけのはずやのに──
胸の奥が、急に締めつけられる。
指先が熱い。
心臓がどくん、と鳴った。
「……なんで、こんな……」
笑顔、声、隣でふざける顔、
ぜんぶ、頭に浮かんできて、
息が詰まる。
昨日の帰り道。
隣を歩いたときの空気、
沈黙のあいだに流れてた温度。
思い出したら、胸が痛くなった。
そして──分かった。
(あかん……俺、気づいてもうた。)
喉の奥が熱くなる。
目の奥がじんわり滲む。
「……俺、樹のこと……好きなんや。」
声に出した瞬間、
心の中で、何かが静かに”確定”した。
否定したいのに、
胸の鼓動はどんどん速くなる。
“友達”でいられたら楽やったのに。
でも、もう戻れへん。
机の上に、筆箱をそっと戻す。
夕陽が沈んで、影が伸びていく。
光輝は席に座って、
顔を伏せたまま、
震える指先をぎゅっと握りしめた。
「好きって、言わんほうが……楽なんかな。」
答えは出ないまま、
教室の静けさが、心に深く染み込んだ。
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