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「あ、なんか近いな。」
第16話:『近づいたら、あかん気がして。 』
昼休みの教室。
ざわざわした声の中で、樹の笑い声が混じる。
それが聞こえただけで、胸の奥がチリチリした。
昨日、気づいてもうた。
“好き”って。
それからずっと、世界の見え方が変わった気がする。
ただの声、ただの笑顔、
ただ隣に座ってるだけ。
それ全部が、なんか特別に見えてまう。
(……あかん。こんなん、知られたら困る。)
樹が、俺をまっすぐ見るたびに、
目を逸らしてしまう。
今まで普通にできてたことが、
どうしてもできへんようになってた。
「光輝、これ見てみ、めっちゃおもろいで!」
樹がスマホを差し出してくる。
それを受け取るだけのはずやのに。
指先が触れそうになって、思わず手を引いた。
「あ、いや……今ちょっと、ノートまとめてて。 」
言い訳して、視線をノートに落とす。
心臓が痛い。
笑いながら、なんでも話してた日々が、
少し遠くに感じた。
樹は少し首を傾げて、
「…そっか。」と笑ってくれた。
その笑顔が、胸に刺さる。
(こんな顔させたくないのに……)
放課後、帰り道。
いつも一緒に歩いてたはずの道を、
今日は「部活の用事あるから。」って嘘ついて、
別々に帰った。
夕陽が沈む道をひとり歩きながら、
光輝は何度も空を見上げた。
(なぁ、樹。俺、どうしたらええんやろ。)
好きになったら、あかんのに。
友達でおる方が、絶対に楽やのに。
それでも、目を閉じれば、
浮かぶのは樹の笑顔ばっかりやった。
「近づいたら、あかん気がして……
離れたら、もっと苦しいねん。」
風が吹いて、制服の裾が揺れた。
光輝の心も、どうしようもなく揺れていた。