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春深く霞んだ平野が遠く見渡される小高い丘に、ブルファ家の代々当主が眠る場所がある。
花の香りがする柔かい風が、木々の若い緑を揺らす。
墓前に立つ現ブルファ家当主のだいだい色の髪もふわりとなびく。その後ろに控える護衛騎士二人の髪も。
「冬を乗り越えたと思ったら、風邪などひきやがって。何がひい孫を抱くまで生きる、だ。この嘘つきくそジジイ」
目にかかった前髪を鬱陶しそうにかき上げながら、アニスはここに眠る先代当主ことチャービルに悪態を吐くが、その表情は口調とは真逆のものだった。
墓前に刻まれた名をアニスは愛おしそうに撫でると、目を閉じる。
澄み渡った青空を、2羽のツバメが両の翼を広げて飛んでいく。
「…… 後のことは心配いらない。だからゆっくり眠ってくれ」
アニスがそう語りかけるのと同時に、ポタリと墓標に雫が落ちた。
*
アニスがブルファ家が統治する領地に戻り、祖父であるチャービルと再会したのは、昨年の秋──紡織師からチャービルの記憶を受け取ってすぐだった。
もちろんアニスは、紡織師であるアネモネの存在は覚えていない。
祖父や両親の記憶や願いを受け取った経緯は、都合よくそんな夢を見たというふうに記憶された。
暗殺事件については、決定的な証拠を掴むことができないのにティートが暴走してしまったという形で、これに関わった人たちの中で処理された。
でもティートは、変わらずアニスの護衛騎士として傍にいる。彼だけの護衛騎士として。
チャービルの墓は小高い丘といったが、ブルファ邸の敷地内にある。石畳で整えられた道をアニスは、ゆっくりと下る。
屋敷の屋根の上では黒い布が広げられ、窓からも同じ色の布がはためいている。追悼の意を示すために。
遠くから鐘の音が聞こえる。物悲しい響きだ。
「そろそろ、布を取り払うよう命じなければならないな」
黒い布は、このの邸宅に留まらず、領地の広範囲に広がっていた。
チャービルの死は2ヶ月前のこと。もう、とっくに葬儀を終えて、諸々の片付けすら終えている。黒い布も、通常ひと月もあれば取り払われる。
それなのにまだ黒一色に染められているということは、チャービルがそれほど領民に慕われていたということだ。
「いきなり布を取り払うのに抵抗があるなら、白い花を飾るのはいかがですか、アニス様。白花は弔いと慰めの意味もありますし」
ずっと無言で付き従っていた護衛騎士の一人── ティートの提案に、アニスは足を止めて振り返った。
「お前の口から、そんなまともなことを聞けるとはな…… おい、ソレール。これは現実か?」
アニスは視線をずらして、ティートの隣に立つもう一人の護衛騎士に目を向けた。
「現実です」
端的に答えたソレールだが、その目は「にわかに信じられないですが」と、雄弁に語っていた。
そんな二人を見て、ティートはがっくりと肩を落として脱力した。