涼さんの白いランクルの助手席に座った私は、落ち着かず膝の上で手を組む。
「カフェにでも行く? ゆっくりできる所あるかな」
ハンドルを握った涼さんは、さらに格好良く見える。
朱里が篠宮さんの車に乗った時、『駐車する時、ドキドキする』と言っていたのを聞いて、『そんなテンプレートな……』と思っていたけど、今なら気持ちが分かる。
「それともうちに来る?」
「えっ?」
ボーッとしていると涼さんの家に誘われてしまい、私は声を漏らす。
「お茶するだけ。うちのほうがゆっくりできるし、靴を脱いで過ごせるだろ」
確かに二日連続で歩き遊び、さすがにクタクタだ。
「居心地はそれなりにいいはずだから、おいで。俺が淹れるコーヒーも割と美味しいと思うよ」
「……じゃ、じゃあ……。お邪魔します」
「よし」
頷いた涼さんはアクセルを踏み、首都高湾岸線に沿って車を走らせていった。
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着いたのは六本木にある滝トラストが手がけたタワーの一つで、四十七階の建て建物だ。
駐車場から建物の中に入るとコンシェルジュがいて、その奥にあるドアを通るとすぐにエレベーターホールだ。
どうやらマンション部分は三階から二十四階らしく、涼さんの家は二十四階だそうだ。
「……タ、タワマンってデメリットありますか?」
間が持たなくて尋ねると、彼は「んー」と考えてから首を傾げて言う。
「エレベーターの待ち時間?」
「な、なるほど。メリットは?」
「んー、……セキュリティとか管理を人任せにできる所かな。俺、割と出張する他は家と会社の行き来なんだけど、嫌みな話、金さえ払ってれば家政婦さんに掃除や食事の作り置きを任せて、食べて寝るだけの生活ができるし。……あぁ、あとジムやプールもタワー内にある事とか、コンビニがある事とか? 使うにはエレベーター必須だけど」
「おお……」
金持ち発言を聞いて頷いた時、エレベーターがフロアに着いた。
黒やチョコレートブラウンなど落ち着いたトーンの廊下を進み、涼さんは角部屋のドアを開ける。
「いらっしゃい」
涼さんはニコッと笑って言い、スリッパを出してくれる。
「……ど、どうも……」
玄関から入るとすぐに広い空間になっていて、美術館みたいに絵画が幾つも飾られてあった。
絵は自然を描いたものや動物の絵が多く、なんとなく涼さんの趣味を感じる。
すぐ右手にはシューズクローゼットがあって、彼はそこに靴をポンと入れると中に入って行った。
「わぁ……!」
ギャラリーホールの奥にあるスライドドアを開けると、五十畳以上はあるだだっ広い区間が広がり、コーナー窓からは東京タワーが見えた。
「適当に座ってて。今、コーヒーとお菓子の用意するから」
涼さんは荷物を置くと、隣の部屋に向かう。
「あ、……あの、見てても?」
「いいよ」
彼について行くと、八人ぐらい座れるダイニングテーブルの向こうにキッチンがあった。
台所なのに二十畳はありそうなそこにはアイランドキッチンが完備され、オーブンに巨大冷蔵庫、ワインセラーにサブ冷蔵庫、冷凍庫とあらゆる物が揃っている。
キッチンからも絶景が望めるので、ここで料理をしたらさぞ気持ちいいだろうなと思った。
「……料理もプロ並みですか?」
「まさか。料理はプロに任せてるよ。俺自身、できない訳じゃないけど」
「あ……、そっか」
先ほどの話を失念していた自分に溜め息をついた時、涼さんが「コーヒーの好みある?」と尋ねてきた。
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