まもなく夜が訪れようとする時間。
夕日の影がいっそう濃くなって、
暗闇がやってくる。
夜の帳は降りて、
より深く。
「あの星はカシオペア座だね」
僕は目の前にいる男性に話しかける。
「え?あ、俺に話しかけてる?」
僕は頷く。
「だってこの部屋にいるのは、君だけでしょ」
大きなテーブルにぽつんとひとりぼっち。
椅子に腰かけて、晩酌している男性。
それは君だけだ。
「といってもさ、俺はもう星のことは大半忘れてる。それにほら、今テレビ見てるからさ俺」
彼の顔を照らす画面の光。
僕の話そっちのけでテレビに食いついている。
「今の時期は、冬の大三角形が見物です。特に冬時期は空が特に澄んでいて……」
「うんうん、今は冬の大三角形も見えるよね。ほら、すぐ隣にペルセウス座もある」
画面の向こうから、僕と話が合いそうな人が話をしてくれてる。
タイミングばっちりだ。
ほら、テレビばっか見てないで、星を見てごらん、 てね。
それを聞いた彼は、すごく都合の悪そうな顔をした。
「もう、タイミング悪いって……」
小声で呟くと、彼はチャンネルを変えた。
有名な芸能人のお笑い番組に切り替わる。
辺りに大袈裟な笑い声が落ちる。
「ねぇ、そんなにテレビが見たいなら電気ぐらい付けたらどう?」
もう空は暗かった。
テレビの光で手元が見える程度。
僕はそろそろお風呂に入る時間だ。
「電気付けなくても、テレビ見れてるからいいのさ」
晩酌の刺し身を味わう間もなく、ビールで流し込む。
「くぅー!たまんねぇ」
そう言ってまた1口。
静かに大根のつまが机に落ちている事にも、
気付いていないみたい。
僕は思う。
あんな大人にはなりたくないって。
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