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植物園に行く週末の朝、私はお弁当を作っていた。
千愛の好きなハンバーグ、夫の好きなから揚げは先日と少し違う味付けで。
「千愛―、もうすぐ出るぞ」
え…?
二階から聞こえた声に、私のおにぎりを握る手が止まる。
もうすぐって…まだお弁当は出来ていないし、冷ます間にメイクをするから、まだすっぴんなんだけど?
タタタタッ……
階段を下りてきた夫が、ダイニングテーブルにあった千愛の水筒を掴むのを見て
「まだ出られないけど…?」
と、まだ詰めていないままの、お皿にあるおかずを指差してみる。
「俺が千愛を連れて行くんだから、関係ない」
「……どういう意味?二人で植物園に行くってこと?」
「植物園?」
まさか忘れていた?お弁当を見ても思い出さないレベルで?
「違うの?」
「美容室。人気店で週末はこの時間のひと枠だけしか空いてなかったから、千愛のカットだけ、なんとか予約出来てよかった」
「……植物園忘れて予約?お弁当作ったんだけど…
「弁当は家で食べてもいいよな。そんな押しつけがましく、恩着せがましく言わなくたって。いつだって作れるものだろ?」
タタタタッ……
「お、千愛。行こうか。水筒だけ持ったからな」
「うん。ママ、いってきまーす。楽しみぃ」
「パパも千愛がどんなに可愛くなるのか楽しみだ」
キャッキャ、ウフフ……と、ウキウキ出掛けた二人の気配がなくなった家の中がやけに静かに感じる。
ぽつり……
……ポツン……
全く動かない空間で、酷い孤独を感じた瞬間
ドンドン…ドンドンッ……
私は音を立てて階段を駆け上がった。
そして、出掛けるつもりで締め切ったままだった部屋の窓を次々と全開にし、外の空気を家中に取り込む。
そうして孤独な空間が柔らかく動き始めたとき
「直美、そっちの荷物も持つわ。重いやろ」
「えぇ、飲み物もお弁当も全部やで?ハルくん、ええの?」
と、表からの声が舞い上がって来る。