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「ええよ。美味しい弁当を作ってくれた直美は、公園に着くまで休憩な」
「こーえん、こーえんっ」
「ありがとう、ハルくん。亜優、いつもの公園とちゃうで?今日は電車で行く、大きな公園」
窓から見えるのは、可愛い帽子をかぶった亜優ちゃんが直美さんの手を引っ張るように歩く姿。
その直美さんは、小さなポーチを肩から斜めかけにしているようだ。
最後に見えた中西さんは、大きなリュックを背負い、左肩に保冷バッグを掛け、右手を直美さんの腰に回した。
そして…その右手は彼女の腰を優しくさすっているようで………毎日毎日のスキンシップがあるがゆえの手。
羨ましい気持ちしかない…家族でのお出掛けも、女として愛されることも。
ただただ、直美さんが羨ましい。
湧き上がる嫉妬や羨望を振り払うように、一度終わっていた洗濯機に布団のシーツを放り込む。
洗面台を磨き、トイレ掃除をして……お昼になっても、夫と千愛は帰って来ない。
……カットだけなら終わっていると思うのだけれど
少し待ってみてもまだ帰って来ない夫に電話をしてみたけれど、すぐに留守電になる。
家に向かって運転中なのだろう、そう思った私は、それがまたしても虚しい期待だったと知る。
「ただいま~ママ~見て~」
玄関から千愛の弾んだ声がしたのは、すでに14時半を過ぎた頃だった。
「おかえり、千愛……お腹すいたでしょ?」
「おいおい、千愛が見てって、ママに髪を見せているのは無視か?」
千愛の後ろから入って来た夫の声は気にならない様子で、千愛は鏡を見に行った。
「遅かったわね……だから、お腹すいたと思って」
「美容師さんがいい洋食屋を教えてくれたから、食べて来た」
「ええぇぇ…っ…?」
ご機嫌な夫の声に応えた自分の声があまりにも滑稽で、今日何度目かの虚しさを覚える。