テラーノベル
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砕け散った窓から、新宿の冷気が一気に組長室へと流れ込む。
地上数百メートル
宝石を散りばめたような夜景が眼下に広がるが、今の俺にはそれが地獄の業火に見えた。
「黒嵜!正気か!」
志摩が叫ぶが、俺は止まらない。
親父のデスクからスマートフォンを奪い取り
志摩がハッキングで構築した秘匿サーバーへ、帳簿のデータを次々とアップロードしていく。
「志摩、あんたが言った通りだ。法じゃ裁けねえなら、この街の『目』に裁かせてやるよ!」
エンターキーを叩いた瞬間、中臣代議士と武器商人の密約、そして警察上層部の買収リストが
SNSや動画サイトを通じて世界中へ拡散され始めた。
新宿、渋谷、銀座……
街中の巨大スクリーンが、国家の嘘を暴く真実の記録で埋め尽くされていく。
「な…馬鹿な! 私のキャリアが、私の国が……ッ!」
無線機から漏れ聞こえる中臣の絶叫。
それと同時に、ビルの外ではさらなる異変が起きていた。
データの拡散を見た市民や、中臣に切り捨てられてきた野良犬たちが
怒りの咆哮を上げながら榊原ビルを取り囲む警察の包囲網へと押し寄せたのだ。
混沌が混沌を呼び、新宿の街は一夜にして戦場と化した。
「……やりやがったな、黒嵜」
志摩が力なく笑い、地面に落ちた自分の銃を拾い上げた。
「これで俺の警察官人生も、お前の極道人生も、本当におしまいだ。……なのに、気分は悪くない」
「はっ……気が合うな、志摩」
扉を蹴り破り、中臣の私設部隊がなだれ込んでくる。
だが、今の俺たちに迷いはない。
志摩が正確な射撃で敵の足を止め、俺は親父から受け継いだ二振りのドスを振るい、銃弾の間を縫って肉を裂く。
水浸しの絨毯の上で、血と飛沫が舞う。
俺は一人の男の喉元を切り裂き、そのまま窓際へ追い詰めたリーダー格の男の胸ぐらを掴んだ。
「お前らの雇い主に伝えろ。……黒嵜和貴は、まだ死んじゃいねえってな!」
男を突き飛ばし、俺は志摩と視線を交わした。
ビルの下からは、怒号とサイレン、そして何かが爆発する音が響いてくる。
一人の極道と、一人の汚職警官が放った火種は、ついにこの国の根幹を焼き払い始めた。
俺の左肩の傷が、また激しく疼きだした。
だが、その痛みこそが、俺がまだ「人間」として生きている唯一の証だった。
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