テラーノベル
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榊原ビルから吐き出された俺と志摩は、混乱の極みに達した新宿の路上へと降り立った。
巨大スクリーンには依然として中臣の裏帳簿が映し出され
それを背景に、機動隊と怒れる群衆が衝突を繰り返している。
雪と催涙ガスが入り混じり、視界は最悪だ。
「……ハッ、まるで世界の終わりだな」
志摩が血混じりの唾を吐き、足を引きずりながら路地裏へと俺を誘う。
「終わりじゃねえよ、志摩。まだ中臣の息の根は止まってねえ」
俺はスマホの画面を睨みつけた。
拡散したデータは決定打になるはずだが
あのような怪物は、トカゲの尻尾切りで生き延びる術をいくらでも持っている。
事実、警察の上層部はすでに「データの真偽を精査中」という声明を出し、時間を稼ぎ始めていた。
「黒嵜、あそこを見ろ」
志摩が指差す先、裏通りの暗がりに、見覚えのある黒いセダンが数台停まっていた。
榊原組の紋章ではない。
中臣が飼っている、民間の軍事会社の車両だ。
奴らは群衆に紛れ、中臣を連れて都心からの脱出を図ろうとしている。
「……逃がすかよ。拓海の、親父の……そして俺の人生を狂わせた代償、まだ払いきってねえだろ」
俺は親父のドスを握り直した。
その時、背後から数人の男たちが現れた。
山城を筆頭とした、榊原組の生き残りだ。
「黒嵜の兄貴……!街中がパニックです。警察も組員も関係なく、みんな殺気立ってやがる」
「山城。…お前に最後の命令だ。あの黒いセダンを包囲しろ。中臣を外に出すな」
山城は一瞬、俺の「鬼」のような形相にたじろいだが、すぐに覚悟を決めたように頷いた。
「……分かりました。どうせ、もう行く場所なんてねえんだ。最後くらい、俺の意地、見せてやりますよ」
山城たちが路地を駆け抜けていく。
俺と志摩も、逆方向からセダンを挟み撃ちにするべく、雪の積もるゴミ捨て場の影を潜り抜けた。
冷たい風が、俺の火照った傷口を撫でる。
新宿の街が燃えている。
俺たちの欲望も、悲しみも、すべてを飲み込むような巨大な炎となって。
「行くぞ、志摩…地獄の門が閉まる前に、あの男を引きずり込む」
俺たちは、国家という巨大な壁に、最後の風穴を開けるべく走り出した。
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