コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「かしこまりました。ではお休みなさいませ、マスター」
恭しく一礼して部屋を出ていく彼女を見送る。私はまだ半分夢の中にいながら、ぼそりと呟いた。
「おやすみ」
◆ この世界は魔法が当たり前に存在する。そしてこの家も例外ではなく、代々伝わる魔法の杖によって炎や水を出すことが出来る。
しかし私の家は代々続く魔法使いの家系でありながらも、魔力を持つ者は産まれなかった。故に私は落ちこぼれとして育てられてきたのだ。
家族からは罵倒され、同年代の子達からも虐められた。それが辛くて、私はこの家から逃げ出した。
それから数ヶ月後、私は森の中で遭難し、死にかけていたところを一人の男性に助けられた。彼は私の命の恩人であり、同時に魔法の師匠でもあった。
彼は私に魔法を教えてくれた。だけど、私が使えるようになった魔法は、たった一つだけ。それも小さな火を起こす程度の、ささやかなものだった。
それでも私は嬉しかった。彼に褒められた時、私は生まれて初めて、心の底から喜んだ。そして決めたんだ。この人の役に立ちたいって。この人を守れるくらい強くなりたいって。
そして私は旅に出た。彼が教えてくれた知識を活かして、冒険者として生計を立てながら、私は強くなった。剣の腕も、魔法の腕もメキメキ上達していった。
そして遂に、その日が来た。彼は私をパーティに入れてくれたのだ。
「俺達はこれから魔王を倒す旅に出る。お前の力が必要だ」
そう言って私に手を差し伸べた彼の顔は、今でも忘れられない。
それから私は、ずっと彼の隣にいた。彼との旅はとても楽しかった。彼の役に立てることが嬉しかった。彼の笑顔を見るだけで幸せだった。
そしていつしか、私の心は彼に囚われていた。私は彼を愛してしまっていた。
けれど、それは許されない恋だ。私はランプの魔神で、彼は勇者なのだから。私はこの想いを隠し続けなければならない。それが私の使命だと思っていたから。そう思っていたはずなのに、いつの間にか、その気持ちは隠せなくなっていた。私の想いは膨れ上がり、溢れ出しそうになる。
だからもう、限界だった。私は彼を呼び出して、告げたのだ。
「私を好きにならないで」
私の正体がバレたら、私はきっと消されてしまうだろう。私だけじゃない。この世界そのものが。
そして何より、私が消えてしまうことが怖かった。この世界が消えることも、彼が私の前からいなくなることも。
彼に嫌われたくなかった。
彼の記憶の中に残りたかった。
それでも、彼の幸せを考えたら、この方がいいんだ。だからこれで良かったんだよ。