羅依に抱きしめられながらも眠れない夜を過ごした私は、翌日、指定されたホテルの部屋へ羅依とタクと一緒に行った。
ここに父たちは宿泊していたのだろうか。
「才花、押せ」
手を繋ぐ羅依は、私に部屋のベルを押すように言う。
私は……繋がれていない方の手でゆっくりとベルを押した。
カチャ………
「ぁ…」
部屋の中からドアを開けた人………それはあの夜、私を送迎してくれた男性だった。
「驚かせて悪いですが、一歩入って頂いても?」
男性の声に羅依が私の腰を抱き、ドアの内側へと入る。
ぐるぐると考える頭の中で、バッタ…ン………ゆっくりとドアの閉まる音が重く響いた。
羅依たちの悪友で親友で、女の人を派遣する会社をやっていて、調べものの得意な人のはず…よね?
私は左膝にサポーターが巻きやすいようにレギンスを履き、その上からしっかりとサポーターを巻いている。
そして緑のシャツワンピはサポーターを隠しきれない長さだ。
意味もなくボタンを確認するように眺めてから
「……羅依…お友達でしょ?」
羅依の靴の先を見つめ、確かめるように声を発した。
「そうだ。小松一樹」
「こまつ…かずき…小松?」
「はい、小松一樹と申します」
その声に顔を上げると
「先日は名乗れずに申し訳ありませんでした」
彼は深く…深く……腰を折った。
「…私だと…わかっていて…羅依のところ…」
「中で話をさせて頂けますか?父もおりますので」
黒シャツと黒スラックスの男性にタクが
「一樹、緊張すんなよ。大丈夫だって」
と肩から体当たりしてから
「失礼しまぁす。ご無沙汰してます、小松さん」
と小走りに奥へ進んだ。
「拓史も一緒だったか。相変わらず通る声だな」
「一樹がなかなか会ってくれないんですよね。だからこうして会えるのはテンション上がる」
どちらかと言えば、いつも上がってるよ…タク。
そして、相手の声は高くもなく、低くもなく、柔らかい声に感じる。
そう思いながら、左膝への荷重を間違えないようにゆっくりと前へ進む。
「何割、かけても大丈夫なくらいですか?」
男性はケガも知っているのだろう。
私の足取りを見ながら言葉を選ぶ様子で聞いてきた。
「…7、8割は…真上からなら普通に全部乗せても大丈夫です」
「歩くとか、膝を使った体重移動を伴えば7、8割ということですね?」
その通りだと頷いたとき広い部屋へ到着し、4人の視線を一斉に感じた。
「はじめまして、才花さん。小松です。どうぞ、掛けて。羅依も」
「はい。お久しぶりです、小松さん」
「こんな風に会うなんて、一樹や羅依たちが好き勝手してた頃には思いもよらずってやつだな。いや…ついこの間までも想像出来なかったよ」
小松さんは目尻のシワを深くして私を見た。
「会えて嬉しい。来てくれてありがとう。会いたいと思ってくれた父親とは違うかもしれないが…今日のこの時間に感謝する」
コメント
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お兄ちゃんだったんだ…だからあの夜才花ちゃんを自宅に送った後もしばらく留まって、部屋に入るまで見守ってたんだ…🥺 そしてお父さん…羅依達は知っているけど久しぶりでこんな風に会うとは思ってなかったって、そして思ってくれた父親とは違うかもしれないって、それは雰囲気?お兄ちゃんは黒シャツに黒のスラックス… とにかくお父さんは才花ちゃんと会えたこの時間に感謝するって言ってくれてるから、ほんとに嬉しいんだね🥹時間が許す限りたくさん話そう!