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#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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午後に斎野神社の社務所にみんなで集まるとのことで、行ったらずいぶんたくさん人がいた。俺が連絡した狭山さんや緑さんや佐和さんや南さんだけじゃなくて、かなり年いった人々が険しい顔で揃っている。
狭山さんが俺を席に案内してくれた。
「情報共有は済ませてます、あとは和泉さんの心臓の術式がどうか見てもらうだけです」
「あ、ありがとうございます」
知らないおばあさんが、立ち上がって一歩前に出た。狭山さんが耳打ちしてくれた。
「峰家当主の峰紅さんです、この場で一番術式に詳しいです」
「あ、どうも、こんにちは、和泉豊と申します」
俺はおばあさんに頭を下げた。おばあさんは「この度は本当にすまない」と俺に頭を下げた。
「怨霊の守り刀に欠陥があったから、今回の事態を招いた。できるだけのことはする」
「よろしくお願いいたします。それで、私の心臓どうでしょうか?」
「悪いが、上だけ裸になってくれないか。そのほうがよく見える」
「あ、はい」
上だけとは言え、人前で服を脱ぐのは少し気後れしたが、検診みたいなもんだ。俺は半袖ワイシャツを脱いで、下着も脱いだ。
「…………」
峰紅さんは無言だったが、顔がみるみる青ざめ、額に脂汗が吹き始めた。
「……現状、考えられる限りで最高峰の術式だ……これは、これはとても……」
「……無理ですか?」
「……すまない……」
峰紅さんはうなだれた。そうか……。
俺は、努めて動揺を顔に出さないようにして、言った。
「すみません、服着直していいですか?」
「すまない、本当にすまない……」
峰紅さんはただひたすら謝り続け、俺は服を着直しつつどうしようかと迷った。あ、そうだ。
「あの、千歳の守り刀に欠陥があるってことなら、そっちは直せませんか?」
「それは、それならできる。多少時間はかかるが、追加の術式を持っていって仕込むだけでいい」
峰紅さんは頷いた。ふーん、修正パッチみたいなもんか。
「じゃあ、それをお願いできませんか。千歳に私のこと隠しきれても、和束ハルが緑さんとか、千歳の他の友だちの星野さんとか同じように狙ったら、守り刀の欠陥が治らない限り、えらいことになりますし」
「……わかった」
峰紅さんが返事をした時、「そんなの……」と狭山さんの声がした。
狭山さんは真っ青な顔で怒鳴った。
「そんなのってないですよ!! 和泉さん、全部千歳さんに秘密にして、いちばん大事な人に全部秘密にして、それで死んじゃうなんてそんなのないですよ!! 和泉さん、やけになって全部千歳さんにぶちまけてぐちゃぐちゃにすることもできるのに!! なんでこんなにしてくれる人を、こんなあっさり、あっさり何もできないっていうんですか!! なんで!?」
狭山さんの咆哮に、しかし誰も答えなかった。老いも若きも、みな、どうしようもない、という顔で、俯いたり険しい顔をしたりしていた。
俺は狭山さんに怒って欲しくなくて、「いや、狭山さん……」と何か言おうとしたが、緑さんが狭山さんの肩を掴んだ。
「落ち着いて、この場にいる人で何もできないってだけだから! 来れなかった人とか、関西勢にも連絡取ってみるから!」
「…………」
狭山さんは黙ったが、峰紅さんが「……あまり、期待はできない」とうめいた。
「関西勢で術式に一番明るいのは和束家だが……あそこ含め、関西の質の高い術式は、おそらく全て和束ハルのものだ。筆跡もそうだが……天才的な術式の組み立て方が、今見たのと全く同じだ」
そんなに出来る人だったのか、和束ハル……。
狭山さんはすがるように言った。
「で、でも、それなら和束ハルを捕まえて、和束ハルに解かせれば」
緑さんが苦しそうに言った。
「もちろん探してる! もっと人投入して探す! でも、峰さんに歯が立たない術式を書ける人が、自分を隠すための術式に漏れがあるかって言うと……」
「そんな……」
狭山さんは呆然とし、緑さんはいたたまれない顔をして俺に言った。
「できるだけのことをします、力を借りられる神仏にも、術式を解けないか相談してみます、でも、絶対助けられる、とは言い切れません……」
緑さんは深く頭を下げ、「……ごめんなさい」と沈痛な声を出した。
「……いや、いいんです」
自分でも、驚くほど穏やかな声が出た。
「一番やらなきゃいけないのは、千歳に隠し切ることですから。私は何もなかったみたいに、千歳の前で普通の生活をします。まあ死なずに済んだら嬉しいですけど、期待はできないという理解でいます」
「ごめんなさい……」
緑さんは、頭を下げ続けたままだった。
「顔上げてください。それですみませんが、私がいなくなっても千歳と友達でいてあげてくれませんか」
緑さんがそろそろと頭を上げたので、俺は社務所の一同にも向けて話しかけた。
「みなさんも、私がいなくなっても、なるべく千歳に優しくしてあげてくれませんか。千歳、割と人当たりいいほうだし、ちゃんと話せばわかってくれるので。平成と令和四年までの知識がごっそりないから、たまに変なことするかもしれませんが、悪意はありませんので」
俺は頭を下げた。
「どうか、千歳のことをよろしくお願いします」
一同から、わずかにざわめきが起き、「いや、そんな、できるだけのことをしますから」「和束ハルをなんとかして探しますから」と聞こえた。俺は言葉を続けた。
「もちろん、死なずに済めばそれに越したことはないんですけど、でも千歳に核爆発級の被害を出させないことのほうが大事なので。それと、私がいなくなっても千歳に優しくしてくれる人を確保しておきたいんです、よろしくお願いします」
俺はもう一度、深く頭を下げた。狭山さんの、「和泉さん……」という泣きそうな声がした。 俺は頭を上げて、狭山さんをしっかり見て、「怒ってくれてありがとうございます」とお礼を言った。
「唐和開港綺譚の漢方監修やってくれそうな人、探しておきますから。一ヶ月の間に、私が話せることは話しておきますし」
「そんな、そういう問題じゃないんです、僕は、僕は」
「……わかってます、怒ってくれて本当に嬉しかったです。でも、私にはもうそれくらいしかできません」
俺は狭山さんに、深く頭を下げた。
わかってる。狭山さんが、友達として、俺を失うのが悲しいって言いたいのはわかってる。
でも、もう、俺には今言ったことくらいしか、できない。
コメント
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うわあ……読んでて胸がぎゅっとなりました。和泉さんの「死なずに済んだら嬉しいですけど、期待はできないという理解でいます」って台詞、あまりに冷静で逆に痛い。身内に知られたくないからって全部一人で抱え込もうとするスタンス、設定の整合性がしっかりしてるからこそ余計に切ない。狭山さんが怒ってくれたところ、あれは読者代表の叫びでしたね。千歳を守るための選択が、自分を犠牲にする選択と一直線になってしまっているのが本当に辛い。続き、どうなりますか……。