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『砂の狙撃線 ― 2キロの向こうから届いた弾』
◆ 新たな任務、最悪の地形
また一人で仕事を受けた。
地図もろくに載らない高地の岩場。
風は読めず、遮蔽物は少なく、
“狙撃に向かない”と教科書に書きたくなるような場所だ。
情報屋は言った。
「敵に、一流の狙撃手がいる。
奴は“影なし(ラ・ソンブラ)”と呼ばれている」
嫌なあだ名だ。
足跡も、気配も残さないって意味らしい。
俺はM16A4を肩に掛け、
砂を吐き出す風のなかに身を潜めた。
「上等だ。どんな奴でも、俺の邪魔はさせねぇ」
そう呟き、標高の高い稜線へ進んだ。
◆静寂を裂いた一発
敵の補給地点が見えた瞬間だった。
──パンッ。
空気が破れた感触と、砂が跳ねる音。
たった一発で理解した。
“位置はもうバレてる”
「チッ。速ぇな。もう見つけたのかよ」
俺は岩陰に飛び込み、M16A4で反撃のための隙を探る。
だが、敵は姿を見せない。
ただ、風が泣くような静けさのなかに、
確かな“意志”だけが漂っていた。
──また一発。
岩の端が弾け飛ぶ。
俺はすぐに理解した。
相手は俺の“動きを読む”タイプの狙撃手だ。
厄介すぎる。
◆ 膠着、そして利き腕を奪われる
にらみ合いは三十分以上続いた。
身じろぎ一つするだけで狙われる。
呼吸すら読まれている気がした。
俺は、M16A4のMROサイトで、
景色の揺らぎから敵の位置を探るがいない。
まるで空気の中に溶けている。
「ちっ…どこだ。」
風が変わった、その瞬間だった。
──ガッ!!
右腕に衝撃。
熱と痛みが同時に走る。
「ぐッ!」
利き腕だ。
撃たれた位置は致命傷じゃない。
だが、銃をしっかり支えられない。
敵は腕狙い。
殺す気ではなく、“機能を奪う”つもりだ。
こいつ、本物だ。
汗が背中を伝う。
視界が揺れる。
そして──
最悪の事態。
弾倉を確認すると、残りは数発。
予備も少ない。
「マジかよ」
◆ 限界、そして被弾
敵は撃つ。
俺は避ける。
だが、動くたびに腕が痛む。
M9を抜こうとした瞬間─
バスッ!!
胸に鈍い衝撃。
空気が一瞬抜けたみたいな感覚。
俺は膝を崩し、砂に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ…くそ」
視界が霞む。
音が遠ざかっていく。
砂の上をゆっくり歩く足音。
敵スナイパーがこちらへ近づいてくる。
黒い影。
冷たい視線。
銃口が俺に向けられた。
終わりだ。
その瞬間──
◆ 世界を切り裂く“あの音”
──バァンッ!!
大地が震えるほどの重い音。
風を裂く衝撃波が俺の頬を打った。
敵スナイパーの頭が弾かれ、鮮血が、吹き出し 吹き飛んだ。
俺は反射的に見上げる。
この音は。
バレットM82?
だが…発射地点は遠い。
相当遠い。
「まさか…お前」
次の瞬間、
砂丘の向こうから走ってくる影が見えた。
長い銃身を肩に担ぎ、
2キロ先から撃ったとは思えない余裕のある足取りで──
マリアが現れた。
◆砂丘の女神、再び現る
「陽菜ァァァァァ!! 大丈夫!!」
マリアは息を切らしながらも、
俺のそばに膝をついた。
「アホか! 2キロ先から撃つ奴がいるかよ…!!」
「いる! 私!!」
マリアは怒ってるのか泣いてるのか分からない顔で続ける。
「何回言わせるの!?
一人で突っ込むなって!!」
俺は苦笑した。
「悪い。やられた」
「見れば分かるっ!
利き腕撃たれて、胸まで撃たれて……!」
マリアは震える手で俺の傷を押さえ、
深呼吸してから言った。
「間に合ってよかったほんとに…」
俺はその手を掴んで、かすれた声で言った。
「来てくれて、助かった」
マリアは涙を拭き、少し笑った。
「当たり前でしょ。
陽菜のピンチに来ない理由なんて、ないわよ」
◆ 救出と絆
マリアは俺を背負い、
ゆっくりと安全圏まで運んでいく。
「まったく…重いよ、陽菜!」
「それは悪かったな」
「いいよ。何度でも運ぶから」
砂漠の風が静かに吹いた。
痛みはある。
息も苦しい。
でも、なぜか心は落ち着いていた。
マリアがそばにいるというだけで、
まだ戦える気がした。
俺は一人でいい。
そう思っていた。
でも、あいつが来ると少しだけ…悪くねぇ。
砂の上に、二つの影が長く伸びていく。
新たな夜とともに。
『マリアの2キロ向こうからの狙撃 』
◆2キロの向こうへ ― 常識外れの判断
マリアは陽菜の絶体絶命を遠方で感じ取った。
風の向き、銃声の反響、砂の流れ…
すべてがベテラン狙撃手の“危険の感覚”を刺激していた。
「こんな状況のなかで敵の狙撃手を撃つとか、バカ。
陽菜、無茶しすぎよ。」
彼女が立っていた丘から、陽菜の位置まではおよそ2,000メートル。
狙撃の限界ともいえる超遠距離。
普通は諦める。
計算は追いつかず、狙う前に射線は乱れる。
だが、マリアは迷わなかった。
「撃つ陽菜が死ぬ前に」
TAC-338では届かない。
弾速も威力も限界がある。
だからこそ、肩に担いでいた。
陽菜のために。
バレットM82A1を。
◆ 狙撃手マリアの“異常性
― 風を“数字”ではなく、“音”で読む女
マリアが天才と呼ばれる理由は、
単に技術が高いからではない。
彼女は“風を聞く”ことができる。
普通のスナイパーが風速計や射撃表を使う距離でも、
マリアは瞼を閉じ、砂の音だけで修正値を決められる。
音の高低で粒のぶつかる勢いを感じ、
舞い散る砂の軌跡で風の層を読む。
数値化しない。感覚で補正する。
それは訓練で身につくものではなく、
もはや才能そのものだった。
「風速6、上層は西風。
砂の跳ね方湿度が低い。
なら着弾はここ」
マリアはつぶやきながら銃身を固定し、
足を深く砂に埋めて姿勢を固めた。
◆ 2km狙撃の裏側
計算、準備、そして“覚悟”
2,000m狙撃はただ当てるだけではない。
着弾までの時間は約3秒。
その間に
陽菜が動く可能性もある。
敵が陽菜を撃つまでの“タイムリミット”。
風の変化。
熱で揺れる空気。
砂漠特有の“ミラージュ(陽炎)。
マリアはすべてを一瞬で計算した。
「行ける。
陽菜、死なせない」
バレットを肩に構えた瞬間、
心臓の鼓動が静かに落ち着いた。
引き金を引くまでに
彼女が行ったことはたった一つ。
陽菜を思い浮かべたこと。
あの無茶な女傭兵の顔を。
◆ 発射
“神業”の正体
呼吸が止まる。
時間が伸びる。
風の音だけが聞こえる。
マリアはわずかに頬を緩めて言った。
「当たれ。
陽菜を、返せ」
──バァンッ!!
砂が跳ね、空気が裂ける。
2kmを超える大気を一直線に切り裂く50口径の弾丸。
その間、マリアは一切動かない。
着弾の衝撃音が丘に返ってきた瞬間
「よし」
それだけ言い、走り出した。
◆ マリアが陽菜を助けた“本当の理由”
後に陽菜は聞いた。
「なんで2km先から撃てたんだよ。無茶すぎる」
マリアは肩をすくめて、
砂丘に座りながら言った。
「陽菜が死ぬの、イヤだったから」
「理由が軽れぇな」
「軽くないよ! 本気だよ!」
陽菜は笑うしかなかった。
だが、そのあとマリアは真顔で続けた。
「私ね
昔、相棒を助けられなくてね。
あと1秒早ければ、生きてた。
風を読むのに時間がかかった。
“撃てば間に合う距離”だったのに─撃てなかった」
声が震えた。
「だから誓ったの。
二度と大事な仲間を失わない。
どんな距離でも、可能性があるなら撃つって」
陽菜は黙って聞いた。
マリアは視線を落とし、続ける。
「陽菜あなたが死にかけてるって分かった瞬間、
頭が真っ白になった。
“間に合わない”って、あの時と同じ気持ちになった」
「だから撃った。
考える前に、身体が動いてた」
その言葉を聞き、陽菜は静かに息をついた。
「そっか。
お前、本当にすごいよ」
マリアは照れ笑いをした。
「陽菜に言われると、なんか嬉しい」
◆ 二人だけの秘密
陽菜はふと真剣な顔で言った。
「なぁ、マリア。
あの2km狙撃、他の奴には言うなよ」
「なんで?」
「お前が化け物だってバレる。
仕事が増えるぞ。
嫌だろ、めんどくせぇの」
マリアは声を上げて笑った。
「ふふっ!
陽菜こそ、そんな風に心配してくれるなんて。
かわいいんだから!」
「かわいいって言うな」
「かわいいよ?」
「やめろって!」
二人の笑い声が、砂漠に溶けていった。
誰も知らない。
2km彼方から命を救った狙撃は、
マリアがたった一人の傭兵を助けるためだけに撃った、
“秘密の一発”だということを。
『再び単独任務 ― 砂漠の亡霊作戦』
◆ 新たなオファー
砂漠の夜。
無線のノイズが止んだあと、エージェントの声が陽菜の耳に残った。
「標的は“カーター戦闘団”の補給拠点だ。
位置は山脈の裂け目にある洞窟。
内部には最低20名。
侵入は困難。回避も困難。
任務遂行はお前しかいない」
陽菜は短く返す。
「了解。俺がやる」
久々に感じる、背中を押されるような緊張。
誰にも頼らない。
誰も守ってくれない。
これが俺の本来の形だ。
M16A4カスタムを背負い、M9をホルスターに収め、
陽菜は月の下、砂を踏みしめた。
◆ 洞窟までの50時間
任務地は遠い。
車両では近づけない。
陽菜は50時間以上の徒歩潜入を選んだ。
夜だけ進み、昼は岩陰に潜む。
眠りは15分ずつ、計4回。
体温を奪う風を避けるため、砂をかけて保温する。
単独行動そのものが戦いだ。
マリアがいれば、風の情報が共有できた。
エミリーがいれば、体調の変化に気づいてくれた。
だが今は
全部自分でやる。
「悪くねぇな。静かで」
陽菜はわずかに笑った。
◆ 偵察 ― “亡霊”の目
陽菜は洞窟の1km手前で伏せ、
双眼鏡で警戒パターンを読み取った。
見張りは4交代。
2名が洞窟前、3名が車両周辺、1名が高台。
動線に乱れはない。
指揮が取れている。
つまり、厄介。
陽菜はつぶやく。
「真正面からは無理だな。なら──」
風向き、砂の硬さ、岩の崩れやすさ、
すべてを読み取っていく。
単独 infiltrator(潜入者)としての“本能”が働く。
陽菜は殺気を消すのが異常にうまい。
動物ですら気づかないほど静かに動ける。
陽菜は砂に這い、
まるで地面と同化するように前進した。
◆ 最初の交戦
丘の影から現れた敵斥候。
悪いタイミングだった。
陽菜は息を止め、
M9のスライドに指先だけ触れ撃たない。
音が出れば、全てが終わる。
敵が近づいた瞬間、
陽菜は砂を巻き上げ、斥候を地面に倒す。
咽喉に一撃。
音は出ない。
そのまま砂に埋め、死体を隠した。
「一番面倒なのが、運悪い時に出てくる奴だよな」
小声で吐き捨て、前進する。
◆ 深部潜入 ― “陽菜らしいやり方”
洞窟の入口付近、陽菜はM16A4を構えない。
代わりに投げたのは──
火炎瓶だ。
敵の死角に正確に落とし、
燃え広げて混乱を生む。
別方向から回り込み、
陽菜は影から影へ移動する。
派手に見えて、実は陽菜の火炎瓶戦術は“音を消すため”のもの。
叫び声は出るが、発砲音よりは警戒が散る。
炎に追われた敵が出てきた瞬間
サプレッサー付きM16A4が静かに二度咆哮した。
パシュッ、パシュッ。
「こっち来るなよ。面倒くせぇ」
陽菜は淡々と処理していく。
◆ 補給拠点の“核”へ
洞窟の奥に大きな部屋があった。
箱、燃料、銃器、通信装置。
ここを破壊すれば、敵はしばらく身動きが取れない。
陽菜は見つからぬよう、
起爆剤を7箇所に設置。
M9で最後の見張りを無音で仕留める。
全てが完了した瞬間、陽菜の無線が鳴る。
「陽菜、状況は?」
「完了。俺はもう消える」
◆ 破壊と脱出
陽菜は洞窟を出て150m離れた位置まで走り、
風下に潜る。
「点火」
スイッチを押す。
振動が砂を揺らし、
洞窟の奥から巨大な爆炎が吹き出した。
カーター戦闘団の補給拠点は、
完全に沈黙した。
「よし。完璧だ」
陽菜は静かに呟いた。
◆ 帰路 ― 誰も知らない勝利
陽菜は一度も振り返らず、砂漠を歩いた。
誰も助けない。
誰にも助けられない。
それで良い。
単独の戦いは孤独だが、
陽菜にとっては“安定”そのもの。
マリアの援護があった日々、
エミリーの声がそばにあった任務。
どれも悪くなかった。
けれど
「俺はやっぱ、一人が楽だわ」
風が砂をさらい、
陽菜の足跡をすぐに消していく。
砂漠に残るのは、
ただ“亡霊”のように消えた陽菜の存在だけだった。
◆ 任務明けの静寂
任務を終えてから三日。
陽菜は砂漠の端にある小さな補給拠点で補給を済ませた。
誰もいない。
風の音だけが耳に残る。
「フン、珍しく静かだな。
たまには休んでもバチは当たらねぇだろ」
陽菜はそうつぶやき、荷物に視線を移す。
視界の端に──
マリアからもらった“とある袋”があった。
中身は、ビキニ。
あの日──
砂漠の真ん中で“全く無警戒に日光浴”していたマリアが、
笑いながら陽菜に押しつけてきたものだ。
『陽菜もやってみなよ!砂漠でのんびりするの最高だよ?』
「はぁ、あいつ、どんな神経してんだよ」
だが
任務明けの陽菜の心は、少しだけその気になっていた。
◆ 砂丘の上の決断
陽菜は砂丘を登り、頂上で足を止めた。
風が心地よい。
日差しは強いが、砂漠独特の解放感がある。
「…ま、いっか。
誰も見ちゃいねぇし」
陽菜はバッグを置き、
マリアのビキニをゆっくり広げた。
「俺が…こんなもんを着る日が来るとはなぁ」
ため息
混じりに言いながらも、
陽菜はなぜか笑っていた。
マリアの“自由さ”が羨ましかったのだ。
◆ ビキニ姿の陽菜、砂漠に寝転ぶ
陽菜は砂の上にタオルを敷き、
ゆっくりと横になった。
風の音。
遠くの砂嵐の低い唸り。
目を閉じると──
任務も、過去も、血の匂いも消えていく。
「あー…気持ちいい
くそ、マリアの言う通りだわ。」
陽菜の顔には、珍しく柔らかい表情が浮かんでいた。
◆ マリアの影
陽菜はまぶたを閉じたまま思い出す。
砂漠のど真ん中で、
ビキニ姿で手を振っていたマリア。
『陽菜もやってみてよー!気持ちいいんだから!』
あの能天気な笑顔。
任務のときとは別人のような軽さ。
陽菜はふっと苦笑した。
「…あいつ、ほんと自由すぎんだよ。
でも」
胸の奥が少しだけ温かくなる。
「悪くねぇんだよな、あの感じ」
陽菜は自分でも驚いた。
マリアに影響されている。明らかに。
◆ 自分に呆れる陽菜
日光浴を満喫しながら、陽菜はぼそっとつぶやく。
「って…俺、何してんだろな。」
ビキニ姿の自分。
砂漠の真ん中で寝そべる自分。
普段なら“ありえない”。
「単独行動が好きだの、他人の真似はしねぇだの…
言ってたくせにこれかよ。」
陽菜は顔を手で覆う。
「…俺、影響されすぎじゃねぇ?」
風が静かに吹き抜ける。
砂丘の上にいるのは陽菜だけ。
その孤独が、なぜか今日は悪くない。
◆ それでも、陽菜は陽菜
しばらく経った後、陽菜はゆっくり起き上がる。
空は高い。
砂は温かい。
風は優しい。
陽菜は深呼吸をして呟いた。
「まぁ、たまにはいいか。
マリアみたいに生きるのも。
でも─」
そこで笑う。
「俺は俺だ。
真似しても、マリアにはなれねぇし、なる気もねぇ」
陽菜はビキニを脱ぎ、
再び戦闘服をしっかり着込んだ。
M9を腰に、
カスタムM16A4を背にかける。
一瞬だけ見せた“ゆるい陽菜”を閉じ込めて、
また“傭兵・黒崎陽菜”に戻った。
◆ 帰路での独り言
砂漠を歩きながら、陽菜は独りぐちる。
「でもよ。
もしまたマリアに会ったら、
絶対言われるんだろうな─」
声色を真似して言う。
『ほらね!陽菜も日光浴好きなんじゃん!』
「クソ。
あいつにだけはバレたくねぇ」
陽菜は苦笑いしながら、
遠く続く砂丘へ歩き出した。
誰も見ていない場所で、
たった一日だけの“マリアの真似”。
それは陽菜にとって、
ほんの少しだけ──
心を軽くしてくれる出来事だった。
「変人スナイパー、マリア再び」
黒崎陽菜・任務行動記録
砂漠の熱風が吹きつける。
俺は喉の奥まで砂を噛んだまま、M16A4を胸に抱えて高台を進んでいた。
新たな任務は単独潜入。
武装輸送隊のルートを特定し、位置情報をクライアントに渡すだけのはずだった。
だが、俺は知っている。
“はずだった”任務ほど、ロクな事にならない。
■ 異様な気配
双眼鏡を覗きながら、俺は眉をひそめた。
「なんだ、あれ」
遠くの砂丘の上。
黒い点のようなものが、ありえない奇妙な動きをしている。
最初は敵のスナイパーかと思った。
しかし、よく見ると—
逆立ちしていた。
それも、ヨガの“逆転のポーズ”みたいな形で。
「いや、待て。逆立ち…砂漠で?」
陽炎で揺れながら、シルエットは静止している。
人間の姿に見えるが、動きが静かすぎる。
俺は慎重に距離を詰めた。
■ 再会
その人物は、逆立ちの姿勢のまま片足をゆっくりと伸ばし、もう片足を折り曲げ——
ひたすら静かに呼吸をしている。
淡い砂色のスポーツウェア。
腰にM45A1。
近くには巨大なスナイパーライフル、TAC-338が砂の上に鎮座している。
「マリア?」
逆立ちのまま、ピクリと動いた。
「Hola〜、Hina〜。調子はどう〜?」
逆立ちを解除すると、マリアはにっこり笑って手を振った。
「なんで砂漠のど真ん中でヨガなんだよ、あんたは」
「リラックス、大事。任務の前には心を整えるのがプロってものよ。ほら、太陽の下でやると身体が伸びるの。おすすめよ〜?」
「いや、勧められても困るんだけど」
■ 陽菜、任務中断を知らされる
「でさ、Hina。何の任務?」
「輸送隊のルートを把握——」
言い終わる前に、マリアは指を立てて止めた。
「知ってるわよ。もう片付けたから」
「は?」
「だってあの輸送隊、私を撃ったことあるの。ムカついたから先に潰したわ」
さらっと、恐ろしいことを言う。
「あの〜…俺の任務なんだが?」
「気にしない気にしない〜。まだ敵の残党いるわよ? 一緒に倒す?」
「別に一緒じゃなくていい」
「え、冷たい〜」
■ 突然の襲撃
俺がため息をついた瞬間、遠方から銃声がした。
砂地が弾け飛ぶ。
「っ、敵か!」
俺は即座に遮蔽物へ滑り込む。
マリアは何故か—
ヨガマットを巻いていた。
「おい! 逃げろ!」
「大丈夫よ〜。ちょっと待って、マットが飛ばされるの嫌なの」
「命の心配しろ!」
敵の伏兵が3方向から撃ってくる。
最悪の挟み撃ちだ。
俺はM16A4のMROサイトを覗いて応戦するが、砂嵐と距離で当てづらい。
しかし、次の瞬間
TAC-338の破裂音が砂漠に轟いた。
敵の一人が頭ごと吹き飛ぶ。
「Hina〜、左側あと二人!」
「了解!」
俺とマリアは、息を合わせるわけでもなく、それぞれ勝手に撃った。
だが結果は完璧だった。
わずか十数秒で戦闘は終わる。
■ ヨガ再開
銃声が止むと、マリアは鼻歌をうたいながらTAC-338を肩にかけ—
またヨガを始めた。
「いやいやいや。なんで続けるんだよ」
「大事よ〜。さっき途中だったの。ほら、Hinaもやろ?」
「やらねぇよ」
「身体硬くなるよ〜?」
「任務中だ!」
「私も任務中よ〜?」
任務の概念が違う気がする。
■ 妙に温かい再会
マリアはヨガのポーズを続けながら、片目だけこちらに向ける。
「でも、会えて嬉しいわよ。Hinaと会うと、砂漠でも楽しいの」
ほんの一瞬だけ、俺は返す言葉を失った。
「勝手な奴だな、ほんとに」
「Sí〜。私は自由人だからね!」
笑って
逆立ちするマリア。
変人で、天才で、面倒なスナイパー。
だけど
どこか安心する。
■ 砂漠に奇妙なコンビの影が落ちる
俺はため息をつき、M16A4を肩にかけた。
「さて、残党掃除するか。あんたは来るのか?」
「もちろん! ヨガ終わったらね!」
「何分だ?」
「30分〜」
「長いわ!!」
こうしてまた、奇妙なスナイパーとの再会が始まった。
砂漠に沈む太陽の下、
息が合ってるようで合ってない、
でもなぜか噛み合う二人の影が、長く伸びていた—。
■新たな単独任務
砂漠の夜は冷たい。
吐く息が白くなるほど冷え込む時間帯、俺は砂丘の陰でM16A4を点検しながら、無線機を切った。
今回の任務はシンプルだ。
違法兵器を運ぶ小規模武装組織の拠点を特定し、データを奪い、必要なら殲滅する。
もちろん単独で。
任務の量は多いが、俺にとっては馴染んだ仕事だ。
「さて、始めるか」
MROサイトを覗きながら、俺はターゲットの拠点を遠巻きに観察した。
砂の迷路のように立てられた土壁の奥に、目的の倉庫がある。
入口の見張りは四人。
距離はおよそ300メートル。
まずは静かに。
俺は砂の上に腹ばいになり、息を整えた。
M16A4の引き金が軽くなる瞬間
夜の静寂を破らない程度に、二発の抑えた弾丸が放たれた。
「よし」
見張りの二人が同時に崩れ落ちる。
残りの二人は異変に気づいていない。
俺は砂を蹴り、側面へ回り込み、ナイフで二人を沈めた。
■拠点潜入
倉庫の中には、弾薬箱と違法パーツが積み上がっている。
だが本命は奥にあるデータ端末だ。
暗闇に紛れながら進み、俺は端末へUSBを差し込んだ。
ダウンロードが始まる。
残り時間は1分27秒。
「長ぇな」
その間に敵の足音が近づいてきた。
俺はM9を抜き、影が入ってきた瞬間に二発。
続く三人目は手榴弾で吹き飛ばした。
爆発で砂埃が舞う。
端末のダウンロードは残り3秒。
完了。
俺は引き返す。
出口に到達した瞬間、残っていた敵十数人が一斉に撃ってきた。
「ちっ…!」
だが、俺は無駄な射撃はしない。
壁の裏へ飛び込み、レーザーサイトを点灯させ、短時間で三人を撃ち抜く。
残りの敵は恐怖で動きが鈍くなった。
そこを一気に突破し、砂丘の陰へと飛び込む。
「任務完了。依頼主にデータ送付っと。」
無線は送信後すぐ切る。
俺はいつも仕事が終わると、すぐに現場から消えるタイプだからだ。
■任務完了後
砂漠の夜が明けはじめ、赤い朝日が砂を染めた。
俺は立ち止まり、水筒の水をひと口飲む。
「よし、帰るか」
そう言った瞬間だった。
「Hinaーーーー!!」
砂漠の向こうから、手をブンブン振りながら走ってくる影があった。
嫌な予感しかしない。
「はぁ。なんでここにいる」
近づいてきたのは、いつもの—
いや、いつも以上にテンションがおかしい顔のマリアだった。
「Hina! ひっさしぶり〜〜!!!」
「なんで俺の行く先々にいるんだ、お前」
「偶然よ〜。偶然♪」
その言葉に説得力がなくなって久しい。
マリアはTAC-338を背負い、腰のM45A1を揺らしながら俺の前にドンと立つ。
そして、いきなり拳を突き出した。
「まさかとは思うけど…任務完了した?」
「ああ。単独で」
「やっぱりー! Hinaならできると思った!」
満面の笑み。
俺はなぜか気恥ずかしくなり、わざとそっぽを向いた。
「で? 何しに来たんだ。まさかまた
ヨガじゃないだろうな」
「違うわよ〜今日は
宝探しよ!」
宝探し?
■変人スナイパーの新遊び
「宝探しって…子どもじゃあるまいし」
「子どもじゃないわ。これは歴史的ロマンよ〜!」
マリアが取り出したのは、古びた地図。
砂で汚れ、端が破れている。
「この砂漠のどこかに埋まってるらしいの。何百年前の金貨とか、宝石とか、なにかすごいもの!」
「なんだその曖昧さ」
「曖昧なものほどワクワクするでしょ?」
俺は頭を抱えた。
「俺は帰る。任務は終わったんだ」
「え〜! 手伝ってよ、Hina〜!」
「やだ」
「じゃ、これ見る?」
マリアが差し出したのは、小さな金の指輪。
「さっき見つけた。掘ってみたら出てきたの〜。まだまだありそう!」
「え?マジかよ」
俺の足が止まった。
砂漠のど真ん中で金が出るなんて聞いたことがない。
でも、マリアの目は本気で輝いてる。
「一時間だけ付き合えば? ね、ね?」
くそ。弱いんだよな、こういうの。
「一時間だけだぞ」
「やったー!!」
マリアは全力で喜び、TAC-338を肩にかけながら、砂を掘り始めた。
「Hinaも早く掘って!」
「俺はシャベル持ってねぇよ」
「じゃ、これあげる!」
マリアは腰の後ろから、小さな折りたたみスコップを取り出した。
「なんで持ってんだよ!!」
「宝探しの必需品に決まってるでしょ!」
俺が呆れているのか、笑っているのか、自分でもよく分からなくなる。
■砂漠の宝探し開始
俺たちは、朝日が昇りきるまで砂を掘り続けた。
金の欠片らしきもの、古い銀の装飾品、謎の陶器の破片
そして、マリアは
時折
本気で嬉しそうに笑った。
任務より危険はない。
敵もいない。
ただ、砂漠で宝を掘る。
それがやけに平和で、妙に心地よかった。
「Hina〜、また一緒にどこか行こ!」
「気が向いたらな」
「えー! 絶対また来てよ!」
「気が向いたら、だ」
マリアは嬉しそうに笑い、俺はため息をつきながらスコップを握る。
砂漠の風が吹き抜ける。
ただの騒がしい
変人スナイパーの
宝探しなのに
なぜか、悪くないと思えてしまう。
「灼熱の突破戦」
■幕開け
砂漠の空気は、息を吸うだけで肺が焼けそうだった。
俺は砂丘の陰に身を沈め、双眼鏡でタゲットを確認する。
今回の任務はこれまで以上に厄介だ。
国境付近を牛耳る武装勢力の本拠地を調査し、指揮官クラスを排除しろ。
敵は重武装、勢力規模は中隊級。
単独潜入で、確実に仕留めること。
依頼文には簡単に書いてあったが…
実態はほぼ戦争の火種みたいな案件だ。
「ったく
単独の俺にこんな任務任せるとか、正気かよ」
文句を言っても始まらない。
俺はM16A4のボルトを引き、装填を確認した。
MROサイト、レーザーサイト、フォアグリップ。
いつもの俺の相棒だ。
「行くか」
灼熱の砂丘を滑り降り、俺は敵基地に向かって駆け出した。
■基地外周、銃撃の嵐
外周の見張りは五人。
夜まで待つ余裕はない。
今回は“急襲”で行く。
俺は砂丘の影から姿を現した瞬間、三点バーストで二人を倒す。
残り三人が一斉に反撃し、砂煙が舞い上がる。
「くそっ、数が多いな!」
俺は近くの岩の裏へ飛び込み、反撃の隙を探した。
敵は連射の嵐を浴びせつつ近づいてくる。
一人が横から回り込もうとしていた
そこをM9で一発、頭部に沈める。
残り二人は怯んだ。
「遅いんだよ!」
俺は岩から飛び出し、低い姿勢でダッシュ。
フォアグリップを握り直し、胸と首を正確に撃ち抜く。
銃声が静まった瞬間—
基地内がざわつき始めた。
「バレたな」
まだ入口にも着いてないのに、すでに激戦。
胸が高鳴る。
こういう任務の方が血が騒ぐ。
■基地内部、地獄の銃撃戦
金網フェンスを乗り越えた瞬間、
左右から同時に十人近い武装兵が襲いかかった。
その銃撃量はまさに“壁”だった。
「派手に来るじゃねぇか!」
俺は転がり込みながら
手榴弾を二つ投げる。
爆音。
砂塵。
敵の叫び声。
その隙に一気に中央倉庫へ突進した。
倉庫の扉を蹴破ると、中にはさらに十数人の敵が陣取っていて、
俺を確認した瞬間、集中砲火が襲いかかった。
一瞬でも動きを誤れば肉片になる。
俺は横に転がり、コンテナの裏へ飛び込んだ。
弾丸が鋼鉄を叩く耳障りな音が響く。
「数が多すぎる!」
俺は息を整え、M16A4の弾倉を交換した。
コンテナの上に跳び乗り、上空から奇襲。
「おらぁッ!」
MROサイトで素早く狙い、
頭・胸・喉を正確に撃ち抜き、六人を瞬時に沈める。
残りがパニックに陥った瞬間、
俺はレーザーサイト点灯のローライトモードに切り替え、
煙と砂塵の中を縫うように移動しながら撃ちまくった。
動きが止まる頃には、倉庫の床は静まり返っていた。
「ふぅ。これで半分くらいか」
まだ指揮官は見つかっていない。
■敵指揮官との直接対決
基地中央の管制室。
そこに指揮官がいる。
ドアの前まで来た時には、すでに警備が固まっていた。
重武装の兵が八人。
一斉に発砲。
俺は柱の陰に飛び込み、弾丸の雨をやり過ごした。
「ハッ…重武装だろうが何だろうが、数の暴力は飽きたっての」
俺は深呼吸し、柱の陰から飛び出した。
フルオート射撃。
反動をフォアグリップで抑え込みながら、
MROサイトで一点ずつ射線を通していく。
二人、三人、四人…
最後の一人をM9で仕留め、弾倉を落とす。
「さて…大将、出てこいよ」
扉を蹴り破ると、
指揮官がショットガンを構えていた。
間髪入れずにフロアに撃ち込まれ、壁に穴が開く。
「くそっ!」
俺は倒れ込むように避け、
床を転がりながらレーザーサイトで敵の膝を撃ち抜く。
指揮官が叫び声を上げて崩れ落ちた。
その瞬間、俺は即座に距離を詰め、
ショットガンを蹴り飛ばし、
M9を額に突きつける。
「終わりだ。情報を吐け」
十秒後、指揮官は全てを喋った。
そして、一発で沈めた。
■脱出、追撃、そして突破
基地の外へ出ると、
すでに増援部隊が次々と押し寄せていた。
車両、重機関銃、RPGまである。
「マジで中隊規模だな。やれやれ」
俺は砂丘へ向かって走り出した。
RPGが後方で爆発、熱風が背中を押す。
銃弾が砂を巻き上げ、皮膚を掠める。
呼吸が荒い。
汗が目に入りそうになる。
でも、止まれない。
止まったら死ぬだけだ。
砂丘を越えた瞬間、
俺は後ろを振り返り、レーザーを照準し、
追撃の車両のタイヤを撃ち抜く。
「よっしゃ!」
車両が横転し、後ろの敵が混乱する。
その隙に、俺はさらに走り、
砂丘の影へ身を投げた。
息が荒い。
腕が震える。
背中から血が流れている気がする。
「死ぬかと思った」
しばらく砂の中で息を整えた後、
俺は無線をつけた。
『任務完了。回収地点まで移動する』
返事を聞く前に無線を切り、
俺は再び歩き出した。
独りきりの砂漠を。
■その夜
夜の砂漠は冷たく、
星が驚くほど近く感じた。
俺は焚き火もつけず、
ただ膝を抱えて休む。
全身が痛む。
でも——
「まぁ…悪くねぇな。こういう戦いも」
静寂だけが相棒だ。
砂の風が鳴る。
そして、その静けさが俺には心地よかった。
■任務指令
砂漠の風が吹く、乾いた午後。
俺は依頼主からの暗号通信を受け取った。
任務内容は“敵補給路の破壊と、指揮官の排除”。
またも単独任務だ。
「まぁ、慣れっこだな」
俺はM16A4の点検をし、砂の上に座りながら作戦ルートを確認した。
MROサイト良し。
レーザーサイトも問題なし。
M9はホルスターで静かに眠っている。
「よし、行くか」
灼熱の砂漠を、俺はひとり歩き出した。
■補給路への攻撃
標的となる補給路は谷間にあり、
常に数台の車両が巡回している。
俺は高台から敵の隊列を観察した。
「車両三台…装甲車一台
少し面倒だな」
だがやることは変わらない。
俺は手榴弾を二つまとめてくくりつけ、
タイミングを計りながら隊列の中心へ投げた。
爆発。
砂煙。
悲鳴。
俺はその混乱の中を走り、
M16A4を連射しながら敵を一人ずつ処理していく。
弾丸が砂を削り、弾丸が閃き、
俺の呼吸音だけが耳の奥で響く。
装甲車から射手が身を乗り出した瞬間—
俺はM9を抜き、一発で眉間を撃ち抜いた。
「次は指揮官だな」
■指揮官のアジトへ突入
アジトとなる小屋は、谷の奥に隠すように建てられていた。
周囲には見張りが五人。
俺は距離100mから静かに対処した。
胸、喉、額。
一発一殺。
小屋を蹴破ると、指揮官が資料を抱えながら逃げようとしていた。
「待てよ」
俺は彼の足元にM16A4を向けて撃つ。
足を撃たれた指揮官が倒れ込む。
「情報だけ置いていけ。命はいらねぇ」
指揮官は震えながら資料データを差し出し、
俺は受け取った瞬間にM9を向けた。
指揮官が怯えて悲鳴を上げる。
「安心しろ。今回は生きてていいって依頼だ」
M9を下げると、指揮官は安堵のあまり泣き崩れた。
「さて帰るかな」
■任務完了、そして
回収地点へ向かう途中。
遠くから奇妙な声が聞こえた。
「ケケッ…ケヒャッ!」
「ん? なんだ、この声」
砂丘の影に近づくと——
マリアが、ロープを持ってハイエナを追いかけていた。
「待ちなさい〜! ペットになるのよ〜!!」
「は?」
俺は言葉を失った。
ハイエナは砂煙を上げながら必死で逃げ、
マリアは全力で追っていた。
腰にはM45A1、背中にはTAC-338。
その装備でハイエナを追いかける傭兵、他にいるか?
「おい、マリア。何してんだ?」
俺が声をかけると、マリアが手を振った。
「Hinaーー!! ちょっと待ってて!! 今ハイエナ捕まえるから!!」
「捕まえるなアホ!!」
俺の叫びにハイエナがビクッと反応し、
さらに全力で逃げ始める。
それでも、マリアは本気の顔で追っていた。
「こいつ、懐きそうだったのよ! 目が合ったの!!」
「それは威嚇だ」
「違うわ! 愛よ!」
「ねぇよ!」
数分後——
ハイエナは砂丘の向こうへ消えた。
マリアは肩で息をしながら、俺の前に戻ってくる。
「はぁ、逃げちゃった」
「当たり前だろ。肉食獣だぞ、お前」
「でも…かわいかったのよ?」
「マリアに懐く動物なんているか?」
「いるもん!!」
ムキになって言い返す姿に、
俺は呆れながらも笑いそうになった。
■久しぶりの再会
マリアは砂に座り込み、TAC-338を下ろした。
「Hina、また一人で任務やってたの?」
「ああ。敵の補給路と指揮官を潰してきた」
「さすがねぇ
やっぱりHinaはひとりでも最強だわ」
「お前も大概だろ」
マリアは笑い、俺の肩を軽く叩いた。
「また会えて嬉しいわ」
俺は一瞬だけ目を逸らした。
「まぁ、悪くねぇよ」
風が吹き、砂がサラサラと音を立てる。
マリアの
ケラケラ笑う声が、その風に混じる。
そして俺は少しだけ思った。
誰かが側にいる時間ってのも、悪くないかもしれない。
すぐにその考えを振り払ったけどな。
■そして夜へ
その日の夜、俺たちは焚き火を囲みながら座った。
マリアはハイエナ捕獲作戦の反省会(?)を勝手に始め、
俺は相槌を打つふりをして
聞き流した。
「次は餌を用意するべきね。肉とか!」
「やめてくれ。マジで」
「懐いたら一緒に旅できるのに〜!」
「ハイエナに懐かれる傭兵なんて聞いたことねぇよ」
「じゃあ私が第一号よ!」
こいつ、やっぱり変人だ。
でも、その変人っぷりが妙に安心する自分もいた。
砂漠に沈む夕日が二人を照らす。
その光景は、戦場に似つかわしくないほど穏やかだった。
■回収地点へ向かう途中の異音
任務を終えて拠点に帰還する途中。
砂丘の向こうから奇妙な声が聞こえた。
「ケヒャッ……ケケッ……!!」
「デジャブか?」
前にもこんな声を聞いた気がする。
嫌な予感しかしない。
砂丘を越えると、案の定そこには
ハイエナ vs マリア(第2ラウンド)
マリアはロープを片手に、前回と全く同じフォームで走っていた。
しかし
今回は明らかにギアを上げている。
「待ちなさーーい!!今日は捕まえるわよーー!!」
ハイエナは全力疾走しながら、
「やめろよこの変な人!」と言わんばかりに振り返る。
俺は額に手を当てた。
「もう、何してんだよお前」
今回のマリアは“本気”だった
マリアの背中にはTAC-338、腰にはM45A1。
完全武装のまま野生動物を追いかけるスナイパー。
この状況を誰が説明できる?
「マリアァァ!!やめとけって!!懲りてねぇのか!!」
「今回は餌も用意したのよ!!」
「餌?」
と見ると、マリアのポーチには
干し肉が30本くらい詰め込まれていた。
「お前、それ遠足じゃねぇんだぞ」
「これだけあれば懐くわ!!」
言いながら干し肉を一本投げる。
ハイエナ、ちょっとだけ立ち止まる。
マリア、ニヤリ。
「ほら見なさい!ほら!食べたわ!!」
「それ、ただ食われただけだろ」
次の瞬間
ハイエナは干し肉を咥えたまま
時速70kmで逃げた。
「待ちなさいぃぃーー!!!お腹いっぱいになるまで面倒見るからぁぁーー!!!」
「なんで
親目線なんだよ!!」
砂漠にマリアの悲鳴だけが響き、
5分後、彼女は砂に倒れ込んだ。
「また逃げられた」
「そりゃそうだ」
俺は水筒を渡す。
マリアは寝転びながら受け取った。
「くそぉ…絶対ペットにできると思ったのに」
「ペット計画は
永遠に無理だと思うぞ」
■突然のサボテン料理会
マリアが息を整えると、
今度は目の前の巨大なサボテンを見て目を輝かせた。
「あっ。Hina!!今日はサボテンあるわよ!」
「は?」
「サボテンよ!!サ・ボ・テ・ン!!」
「見りゃわかる」
「ステーキにしましょう!!」
「しねぇよ!!」
だがマリアは止まらない。
腰のナイフを抜き、慣れた手つきでサボテンを切り落とし始めた。
皮を剥ぎ、薄くスライスし、
小型コンロと鉄板を取り出した。
「お前…サボテン料理慣れてるのか?」
「これ食べるとね、翌日めっちゃ調子良いのよ!」
「嘘つけ」
「本当よ。砂漠の妖精が作った食材なんだから!」
「幻想かよ」
そんな俺のツッコミを無視して、鉄板が温まる。
ジューーーッ!!
サボテンの切り身が焼け、
なんとも言えない香ばしい匂いが漂ってきた。
「ほら、出来たわよ!」
「いらねぇ」
「遠慮しなくていいのよ!」
「遠慮じゃねぇ!!」
マリアは俺の脇腹を掴み、
強引に口へ突っ込んだ。
「おい無理やり食わすなっ…!!」
一口、噛んだ。
……。
…………。
…あれ?
「うま」
「ね!?言ったでしょ!」
「いや…普通に……めちゃくちゃうまいんだけど?」
サボテンとは思えないほど柔らかく、
肉より軽いのに旨味が濃い。
「なんか…肉とアスパラの間みたいな…もしかして」
「中毒になるわよ!!」
「言い方よ」
■陽菜、敗北する
俺は
気付けば二切れ目、三切れ目を食べていた。
「ちょっとこれ…うますぎない?」
「ふふん。マリアシェフ特製よ」
「悔しいが…認めざるを得ない」
マリアは胸を張る。
「ハイエナは捕まえられなかったけど、
サボテンは捕まえたわ!!」
「意味わかんねぇよ!!」
「今日の収穫は大成功ね!」
その“成功”の基準がわからない。
でも不思議なことに、
マリアの横で食べる食事は、なぜか悪くなかった。
■夕暮れの砂漠で
焚き火が揺れ、砂漠の空が赤く染まる。
マリアはサボテンステーキを頬張りながら言った。
「ねぇHina…明日も
ハイエナ探さない?」
「絶対にやだ」
「ケチね!」
「お前の命が
いくつあっても足りねぇよ」
「じゃあ…サボテンステーキ
もっと作るわ!」
「え、それはちょっと嬉しい」
「素直ね!」
「うるせぇ!!」
風が吹く砂漠で、
俺はまたひとつ、マリアの奇行に巻き込まれた。
でも——まぁ悪くはない。
変人スナイパー・マリアと過ごす砂漠の1日は、
いつも笑いとカオスでできている。
■任務後のまったり時間に突如
任務を無事終え、回収地点へ向かう途中。
砂丘を歩いていると、
「にゃふっ」
と、砂漠には似つかわしくない小さな声が聞こえた。
俺は思わず足を止めた。
「…猫?」
だが猫ではなかった。
砂色の毛に、丸い目、ちっこい耳。
スナネコ。
砂漠の天使とも呼ばれる、あの激かわ生物が、
砂の上でぽてぽて歩いていた。
「なんだあれ…反則だろ」
その瞬間—
「HINAAAA!!見た!?見たでしょ!?ペットチャンスきたぁぁ!!」
マリアが叫んだ。
すでに
ロープを構えている。
「マリア。待て。頼むから待て。殺しちゃだめだぞ」
「ペットよ!今回は絶対成功する!!」
「いやだからお前の“絶対”は信用ならねぇ!!」
しかし遅かった。
■マリア vs スナネコ大追走劇
スナネコが「にゃっ!?」と飛び上がり、全力で走った。
マリアも全力。
砂漠に響く謎の追いかけっこ。
「わぁぁぁ待ちなさーーーい!!砂の妖精ちゃーーーん!!」
「にゃふぅぅ!!」
(※絶対逃げたい声)
俺は
頭痛を覚えながらも走った。
「マリア!!捕まえんな!!スナネコは野生の生き物だ!!」
「知ってるわよ!!でも可愛いんだもの!!!」
「理由…それだけ?」
スナネコは体を小さく折り畳むようにして方向転換し、
マリアはその勢いで砂にダイブした。
「ぎゃっ!!」
「お前…学ばねぇな」
スナネコは振り返って「にゃぁ」と叫び、
勝ち誇ったように小さく尾を振った。
■陽菜、砂漠の天使に撃ち抜かれる
マリアが砂に顔を埋めている間に、
スナネコは俺の足元にちょこんと座った。
「にゃ?」
「う」
俺は息を飲んだ。
う…か…かわ
ちょ、無理だこれは反則。
その丸い目で見つめられた瞬間、
胸の奥を 7.62mm弾
で貫かれたみたいだった。
「お、お前、なんでそんな…。」
俺は
自然にしゃがみ、手を伸ばした。
スナネコは逃げなかった。
ちょん、と鼻先で俺の指をつついた。
「好きだ。」
「ちょっとHina!!!?」
マリアの驚愕の声が飛んできた。
■マリアの爆笑タイム
マリアは口元を押さえながら肩を震わせた。
「Hina…まさか」
「いや違う…これは…その」
「スナネコに惚れたのねっ!!」
「惚れてねぇ!!いやちょっと惚れた!!」
「自白したわ!?」
スナネコは俺とマリアのやり取りを見て
「にゃにゃっ」と笑っているようだった。
マリアは横から肘でつついてきた。
「ねぇねぇ。スナネコに恋した傭兵って初めて見たわよ?」
「うるせぇ!!恋じゃねぇ!!可愛いだけだ!!」
「頬赤いけど?」
「焼けたんだよ!!」
「砂漠で赤くなる頬じゃないけど?」
「黙れ!!」
マリアは爆笑して砂の上を転げ回った。
■スナネコ、自然に帰る
しばらく触れ合っていると、
スナネコは俺の靴先をくんくん嗅ぎ、
そのままトコトコと砂丘の向こうへ歩き出した。
振り返って「にゃ」と一声。
「またな」
俺は思わず手を振った。
すると横でマリアが言った。
「完全に恋じゃない」
「違う」
「じゃあ何?」
「推しだ」
「推しって言った!!」
マリアは腹を抱えて笑い続けた。
■その後のマリアの煽りが酷い
日暮れ、拠点に向かう途中。
「ねぇHina。スナネコに会ったら告白するの?」
「するか!!」
「“俺、お前の丸い耳が好きだ” とか?」
「言わねぇ!!」
「“にゃふって鳴くとこが可愛い”?」
「言わねぇ!!」
「スナネコとデートするならどこ行くの?」
「砂漠しかねぇだろ!!」
「もうデートプラン考えてるじゃない!!」
俺は
本気で砂に埋まりたくなった。
■スナネコは罪深い
マリアはニヤニヤし続けている。
「でもよかったじゃない。
私ばっかり変人扱いされてたけど、
今日でHinaも変人の仲間入りね!」
「俺は違う!!」
「スナネコに惚れる時点で充分よ」
「ちっ…」
しかし
胸の内では否定しきれなかった。
だって—
あのスナネコは、本当に天使みたいだった。
不覚だ。砂漠の生き物に惚れるなんて。
だが、それも悪くない。
■新たな任務発令
砂漠拠点の通信室で、俺はブリーフィングを受けていた。
標的は武器密輸組織の中核。
砂漠地帯にある隠し拠点を潰す。
「また単独か。まぁ慣れたもんだが」
任務内容を聞き、俺は装備を確認する。
愛銃M16A4カスタム、サイドアームはM9。
弾薬、ナイフ、医療キット
問題なし。
完璧だ。
だが
そこで問題が起きた。
■嫌な予感しかしない足音
「Hinaーーーーーーーーっ!!」
砂漠の乾いた空気を切り裂いて、
マリアのうるさすぎる声が
響いた。
「なんだよ。任務前なんだが」
マリアは満面の笑顔で走ってくる。
そして、手には…なぜか
猫耳。
ふわっ
ふわの砂色、丸くて小さくて、
どう見てもスナネコ。
俺は全力で嫌な予感を覚えた。
「マリア。お前、それ」
「ふふふふふ…似合うと思ってぇ」
やべぇ。
この女、完全にやる気満々だ。
■マリア、自作スナネコ耳の説明会を始める
「これ見てHina!ほら!!」
マリアは猫耳を掲げて興奮していた。
「スナネコモデルなの!!色も質感も研究したの!!」
「研究って…お前は、何してんだよ」
「だってHina、スナネコ好きでしょ?」
「好きじゃねぇ!!…いや、ちょっと好きだけど!!」
自爆した。
案の定マリアはポンッと手を叩いて喜んだ。
「ほらぁぁ
やっぱり好きじゃない!!
だったらこれ付けて任務行きなさいよ!!」
「絶対つけねぇ!!」
「似合うのに!!」
「似合わなくていい!!」
マリアは俺の腕を掴んだ。
「いや似合う!!むしろ義務!!」
「なんで義務なんだよ!!」
■マリア、強制実行モードへ
俺が拒否していると、マリアはニヤリと笑った。
その顔は“もう言い訳しても無駄よ”の顔だ。
「Hina。観念しなさい」
「おい…やめろ…来るなよ。」
「スナネコの可愛さを!お前にも装備させる!!」
「装備って言うな!!」
抵抗する暇もなく、
マリアは俺の頭をガシッと掴んだ。
「よいしょっ!」
フワッ。
砂色の猫耳が、俺の頭に乗った。
■陽菜、キレる
「…マリア」
「えへへ、ほら、鏡鏡〜!」
マリアが差し出したポータブルミラー。
俺は渋々覗き込んだ。
似合ってる。
クソッ。
予想の100倍似合ってる。
砂漠色の猫耳が、
俺の黒髪にやけにしっくり馴染んで…
というか、思った以上に可愛いじゃねぇか。
「マリアァァァァァァァッ!!!!」
「ひぃ!?な、なんで怒るのよ!!似合うのに!!」
「だから怒ってんだよ!!
似合ってるって言わせようとしてんじゃねぇ!!」
「言ってないのに自分で気付いたじゃない!!」
「うるせぇ!!」
怒鳴ったが、ミラーに映る自分の姿を見て、
さらに腹が立つ。
なんで
こんなに似合ってんだよ俺!!
ふざけんな!!
■マリアの追撃が止まらない
マリアは爆笑しながら言った。
「任務コードネーム:スナネコHina!!」
「やめろ!!」
「かわいい可愛い可愛い!!天使〜!!」
「殺すぞ!!」
「猫耳着けてキレてるHinaも可愛い〜!」
「近寄んな!!」
マリアは転げ回りながら笑っている。
俺は真顔で言った。
「任務前に殺すぞ」
「やだよ!そんな可愛い顔で言わないで!!」
「言ってねぇ!!」
■思わぬところで“効果”を発揮
その時、指令官がこちらへやって来た。
「黒崎、準備は済んで——」
視線が俺の猫耳で止まる。
「…………」
「…………」
マリアはニヤニヤ。
俺は地面を見つめながら言った。
「…違うんです」
「い、いやその…黒崎」
指令官は咳払いし、
「似合ってるな」
「言うなああああああああああっ!!!!!」
拠点中に俺の絶叫が響いた。
■出撃直前、陽菜の諦め
結局、マリアがどうしても外させてくれないので、
俺は猫耳を外してポーチに突っ込んだ。
「Hina…付けたまま行けばいいのに」
「行くかボケ!!」
「じゃあ任務成功したらまた付けてね?」
「絶対つけねぇ!!」
「約束〜!」
「してねぇ!!」
だが、心のどこかで思っていた。
まぁ、悪くはなかった。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ。
でもマリアには絶対言わない。
■出撃
俺はM16A4を肩にかけて、任務に向かった。
ポーチの中で、
ふわふわのスナネコ耳が揺れているのを感じながら。
「クソ…なんで似合うんだよ」
自分に呆れながら、
砂漠へと歩き出した。
夕暮れの作戦ブリーフィングルーム。
古いプロジェクターの光が壁を照らし、その前に立つクライアント――白髪まじりの民間軍事顧問レヴィンが、俺に淡々と資料を渡した。
「ターゲットは《Valkyrie Gate(ヴァルキリー・ゲート)》という新興武装組織だ。まだ表に情報は出ていない。だが国家級の脅威に成長しつつある」
俺は腕を組んだまま、資料をめくる。
「聞いたことねぇな」
「当然だ。こいつらは自分たちの存在を隠すことに全力を注いでいる。情報統制が異常に徹底している」
曰く――
連中は旧軍基地跡の地下施設を乗っ取り、秘密裏にミサイル誘導システムを構築。さらに近隣国家で盗まれた核物質が流れているとの噂もある。
レヴィンは俺の目を真っすぐに見て言った。
「陽菜、今回お前には“偵察兼破壊工作”をやってもらう。敵はまだ、お前の存在を一切知らない。それが最大の強みだ」
「また単独かよ。まあ、いつも通りだが」
「単独でないと成立しない作戦だ」
俺は資料を閉じた。
「了解だ。やるよ」
潜入
夜の砂漠に、ひときわ冷たい空気が流れていた。
俺は身を低くし、廃れた通信塔の裏から施設を望む。
M16A4のMROサイトを覗き、見張りの動線を確認する。
レーザーサイトは当然オフ。
フォアグリップを握り直し、呼吸を整える。
(敵はまだ俺の存在を知らない)
その条件は、潜入任務では何より大きい。
俺は闇に紛れ、施設の外壁に接近した。
斥候が一人、煙草を吸いながら巡回している。
距離23メートル。
M9での無音制圧も考えたが、周囲の反響を考慮すれば、ナイフで仕留めるのが最良。
俺は背後に滑るように近づき、コンバットナイフで喉を的確に切断。
男は声を上げることなく地面に沈んだ。
(悪いな。仕事だ)
死体を物陰に引きずり、内部へ向かう。
地下施設の罠
地下階段に足を踏み入れた瞬間、俺は違和感に気づいた。
足元に、わずかな“膨らみ”。
対人地雷だ。
(マジかよ。警戒心強すぎるだろ、こいつら)
俺は工具で慎重にワイヤーを外し、地雷を解除。
さらに三つ、四つと解除が続く。
この時点で俺は確信した。
(ヴァルキリー・ゲートは、ただの民兵集団じゃねぇな。プロの軍人が運営してる)
奥から二人の話し声が近づいてくる。
俺は壁の陰に溶け込み、M16A4を構える。
パスッ、パスッ。
サプレッサー越しにくぐもった二発。
男たちは崩れ落ち、床を赤く染めた。
メイン制御室に到達した瞬間、警報が鳴り響いた。
(クソッ、死体を誰かに見られたか)
十数名の武装兵が雪崩のように押し寄せてくる。
俺は即座にM16A4で迎撃。
サイト越しに頭を狙い、叩き抜く。
次の瞬間、RPGが天井を砕いた。
爆風で吹き飛ばされ、俺は転がる。
「ぐっ……!」
耳鳴りを振り切りながら、俺は柱の影に飛び込んだ。
弾倉を交換し、即座に反撃の準備を整える。
敵の一人が叫ぶ。
「侵入者は女だ! 黒髪の東洋系――!」
(これで俺の情報は敵に知られた。戻れねぇな)
だが、そんなことはどうでもいい。
生きて帰る。それだけだ。
制御室奪取
俺は飛び出し、三点バーストで敵を倒しながら前進。
M16A4のフォアグリップが反動を抑えてくれるから、動きながらの射撃でも安定する。
ひとりがグレネードを投げようと腕を振り上げた。
俺はM9を抜き、二発で手首を撃ち抜く。
落としたグレネードが敵陣側で爆発し、数名が吹き飛んだ。
(やっぱりM9は扱いやすい)
俺は制御端末に爆薬を設置し、起爆タイマーをセットした。
カウントダウンは120秒。
脱出
警報がさらに激しくなり、スピーカーから怒号が流れる。
「侵入者、南口へ向かった! 殺せ!」
(あいにく、俺は南にも北にも行かねぇよ)
俺は逆方向、最も警戒が薄い空調ダクトを蹴破り、上階へ。
背後で爆発が鳴り響き、制御室全体が吹き飛んだ。
衝撃で建物が揺れ、コンクリ片が降り注ぐ。
出口にたどり着くと、スポットライトが俺を照らした。
視界には五人の武装兵。
だが―彼らの照準が
一瞬泳いだ。
俺が自分の体で影を作り、眩光で敵の照準を乱す角度で出てきたのを理解していない。
その一瞬で十分だ。
俺はM16A4で二人を撃ち抜き、残り三人を転がりながらM9で制圧した。
砂漠の夜へ
施設から距離を取ったところで、巨大な爆発が夜空を照らした。
ヴァルキリー・ゲートの地下拠点は、完全に吹き飛んだ。
レヴィンに通信を入れる。
「任務完了だ。あとは分析班に任せろ。俺は戻る」
『よくやった。敵組織にお前の存在は知られたが
それも作戦のうちだ。これで奴らは警戒を強める。その分、尻尾を出す』
「どっちでもいい。終わったなら、次の仕事を持ってこい」
『相変わらずだな。休む気はないのか?』
「仕事のない傭兵は、ただの厄介者だろ」
通信を切り、俺はM16A4の砂を払い落とした。
(さて次はどんな地獄が待ってるかね)
砂漠の風が吹き、夜の冷気が肌を刺した。
だが俺はその感覚が嫌いじゃなかった。