テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『ずっと好きなのに、私じゃないんだね。』第5話「明日でもいいかな?」
夜、23時48分。
スマホの画面には、及川さんからのメッセージ。
及川徹:さっき、ごめん
及川徹:今、電話できる?
及川徹:……声、聞きたい
「…………」
ずるいよ。
ほんとに、ずるい。
そんなこと言われたら、嬉しくなっちゃうじゃん。
彼女がいるってわかってるのに。
私のことなんて、ただの幼なじみとしか思ってないかもしれないのに。
それでも、及川さんからの「声、聞きたい」の一言が、どうしようもなく嬉しかった。
……でも。
もう、期待したくない。
これ以上、優しくされたら。
きっと私は、また勘違いしてしまう。
私はスマホを握りしめ、何度も文章を打っては消した。
『ごめん、今日は無理』
……冷たすぎるかな。
『どうしたの?』
……これじゃ、電話したいって言ってるみたい。
『彼女さんと電話しなくていいの?』
……そんな嫌味、言いたくない。
そして、しばらく悩んだ末。
私は、なるべくいつも通りの明るい文章を送った。
○○:ごめん明日でもいいかな!明日日直で早いんだ💦
送信。
「…………はぁ」
スマホを枕元に置く。
断っちゃった。
本当は、声が聞きたかった。
すごく、すごく聞きたかった。
だって、好きな人から電話しようって言われたんだよ?
嬉しくないわけないじゃん。
でも、今電話したら、きっと泣いてしまう。
及川さんの声を聞いたら、また好きだって言いたくなってしまう。
だから、今日はこれでいい。
「……おやすみ、及川さん」
誰にも聞こえない声で呟いて、布団をかぶった。
そのとき。
♪♪♪
スマホが震えた。
*及川徹 side*
「…………え?」
ベッドの上。
及川は届いたメッセージを見つめていた。
○○:ごめん明日でもいいかな!明日日直で早いんだ💦
「……明日?」
思わず声が漏れた。
断られたわけじゃない。
明日ならいい、と言ってくれている。
それなのに。
「…………」
どうしてだろう。
なんだか、すごく遠く感じた。
いつもなら。
『いいよー! 今から電話しよ!』
なんて、気軽に返してくれていたのに。
眠い日だって、次の日が早い日だって、少しだけならと話してくれた。
くだらない話をして、笑って。
気づいたら日付が変わっていて。
『及川さん、もう寝なよ!』
『えー、○○が切ってくれないんじゃん!』
『及川さんが話し続けるからでしょ!』
そんなやり取りが、当たり前だった。
なのに。
今は、明日じゃないと話せない。
「……そっか」
及川はスマホを見つめたまま、小さく笑った。
「……明日、日直かぁ」
君は何も悪くない。
本当に、明日が早いのかもしれない。
疲れているのかもしれない。
それなのに。
どうしてこんなに、寂しいんだろう。
及川は返信を打った。
及川徹:あ、そっか!ごめんね、遅い時間に笑
及川徹:日直頑張ってね〜!
送信。
……これでいい。
君が無理をする必要なんてない。
そう思ってスマホを置こうとした。
けれど。
もう一度、画面を開いてしまう。
君のアイコンを見つめる。
さっきまで、ライブで笑っていた君。
泣きそうな顔で「勝手に好きなだけだから」と言った君。
そして、今日の夕方。
松川と楽しそうに話していた君。
「…………はぁ」
及川は片手で顔を覆った。
「……俺、何やってんだろ」
彼女がいる。
自分で選んだんだ。
なのに、どうして君のことばかり考えてしまうんだろう。
君に好きだと言われて。
嬉しかった。
正直、すごく嬉しかった。
ずっと自分の隣にいてくれた君が、自分を好きだった。
それが嬉しくないわけがなかった。
でも。
君が泣いているのを見たとき、初めて気づいた。
君はずっと、自分の気持ちを隠していたんだ。
自分が彼女の話をするたびに。
君は笑ってくれていた。
本当は、苦しかったはずなのに。
「……ごめん」
誰もいない部屋で、及川は呟いた。
今さら謝ったって、遅いのに。
それでも、明日。
君の声が聞きたい。
君がいつもみたいに笑ってくれるのか、確かめたい。
……いや。
本当は。
もう一度、自分のことを好きだと言ってほしかった。
「…………最低だな、俺」
彼女がいるくせに。
そんな自分の気持ちに、まだ名前をつけられずにいた。
*翌朝 7:12*
「……眠い」
私は鏡の前で髪を整えながら、あくびをした。
昨日、いろいろ考えすぎて、寝るのが遅くなってしまった。
今日は日直。
いつもより早く登校しなきゃいけない。
「よし……頑張ろ」
スマホを手に取る。
及川さんからの返信が来ていた。
及川徹:あ、そっか!ごめんね、遅い時間に笑
及川徹:日直頑張ってね〜!
「…………」
優しい。
いつも通りの及川さんだ。
私の都合を気にしてくれて、頑張ってねって言ってくれる。
たったそれだけなのに、胸が苦しくなる。
「……ありがとう」
画面に向かって小さく呟いた。
返信しようとして、手が止まる。
『うん!ありがとう!』
それだけ送ればいい。
今までだって、そうしてきた。
なのに。
○○:ありがとう!及川さんも部活頑張ってね☺️
結局、いつも通りの言葉を送った。
そしてスマホをしまい、家を出た。
今日も、普通に過ごそう。
及川さんのことを考えすぎないようにしよう。
そう決めていたのに。
学校に着いて、教室の扉を開けた瞬間。
「おはよ、○○」
聞き慣れた声がした。
「…………え?」
窓際に立っていたのは、及川さんだった。
「……お、おはよう、及川さん」
及川さんは、いつもの笑顔で近づいてくる。
「早いねー! 今日、日直なんでしょ?」
「う、うん……」
「ふーん。ちゃんと早起きしたんだ? えらいえらい」
ぽん、と頭を撫でられた。
「……っ!」
やめて。
そんなことされたら。
昨日、あんなに我慢した意味がなくなっちゃう。
私は慌てて一歩下がった。
すると、及川さんの手が止まった。
「…………」
一瞬、気まずい沈黙が流れる。
「あ、ごめん……」
思わず謝ると、及川さんはゆっくり手を下ろした。
「……いや、いいよ」
笑っている。
でも、その笑顔が少しだけ寂しそうに見えた。
「……ねえ、○○」
「……なに?」
及川さんは、私の目を見た。
「今日、部活終わったら……少し時間ある?」
心臓が跳ねた。
「……え?」
「昨日の電話。今日なら、話せるでしょ?」
「…………」
覚えてたんだ。
私が、明日ならいいって言ったこと。
「……うん。少しなら」
そう答えると、及川さんはほっとしたように笑った。
「……よかった」
その顔を見た瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。
ねえ、及川さん。
あなたは何を話したいの?
私の気持ちを、断るため?
それとも。
ほんの少しだけでも、私のことを考えてくれたの?
聞きたい。
でも、聞くのが怖い。
だって、もしも。
もしも、また優しくされたら。
私はきっと、諦められなくなるから。
——つづく。♡
523
はむ
61
101
30
コメント
1件
ああ……もう、心臓がぎゅうぎゅうに締めつけられました。 深夜のメッセージ、互いに「声を聞きたい」と思いながら遠慮し合うもどかしさ。及川さんが自分の気持ちに気づき始めて「最低だな」と呟くところ、すごく刺さりました。そして翌朝の教室、頭を撫でようとしてヒロインが一歩下がる——あの一拍の沈黙が切なくて。 yuna🌸さんの心理描写、本当に繊細です。お互いを想えば想うほどすれ違う距離感が、読むほどに胸に迫ってきました。続き、楽しみにしています。次のエピソード、待ってますね🌷