テラーノベル
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先程まで高峰とルクス東山の先生の元でひと通り自身の実力を披露していた。世界レベルにも通用するであろう滑りに驚いていたが、もっと驚いたのは夜鷹が司の指導を始めたこと。指導とも言い難い無理難題を押し付けているだけのそれに振り落とされることなく食らいつき、見る見るうちに上達していくので先生たちは息を呑んでいた。
そして、これまでの練習法やスケートについて勉強したことを聞かれて、ひとりでやっていたと答え、それはもう2人に撫でくりまわされ褒められまくり、顔を真っ赤にした司を夜鷹が威嚇するような目付きで取り返し。それを先生たちにからかわれながら時は過ぎた。
そうして夕方に差し掛かったため、解散──────────とはならず。
「純さーん」
「………………」
「離してくれませんかー」
「………………」
現在進行形で夜鷹純の膝の上で拘束されています、明浦路司(12)です。かれこれ30分くらいこうしてます。誰か助けて。
空が薄暗くなって来ており、中学生は部活から帰る時間だ。先生たちは夕方からレッスンのため貸切だったリンクを解放し、司と夜鷹は解散することになったわけだが、そそくさと帰ろうとした司を夜鷹がひっ捕らえた。離してくれと言っても聞かないので、激しめに抵抗したら足を地面から離され逃げられないようにされてしまい、そのままベンチに座って膝の上で抱え込まれている。顔が見えないが、背中に額を押し当てられているのはわかった。
そこから進展無し。声をかけても返事は無く、ちょっと動くと逃がさんとばかりにキツく締め付けてくる。どうしろと言うのか。
とは言え、何から話せばいいのか分からないと言うのが本音か。夜鷹もそうなのだろう。
「純さん、とりあえず確認しますね」
「………………」
「俺は、死んだんですか」
このままでは埒が明かない。そう思い、司は事実確認からいこうと夜鷹に問いかけた。
自身が死んだかどうかは司にはわからなかった。夜鷹が居るからこそ聞けることをとりあえず片っ端から聞いていこう。そう思って問いかけた。
背中の頭が頷く気配がした。次いで、腹に回されている腕が少し強ばる。
「……僕が殺した」
「え?」
「僕が君を……殺したんだ」
「……んん〜?」
すると意外なことに返事が来た。消え入りそうな声で僕が殺した、なんて物騒なことを言うものだから、そうだっけ?と死に際を思い出す。あの場に夜鷹は居なかったはずだが。
わかっていない司の様子に、呑気だねと小さく聞こえた。馬鹿にされていることはわかるので司はムッとした。
「どう言う意味ですか?」
「そのままの意味。君は僕にあんな仕打ちを受けてるのに何でそんな呑気なの」
「貴方がそれ言います?だったら離してくださいよ」
「………………」
「もう、また黙り……とりあえず、俺はやっぱり死んだんですね」
やはり司は死んだらしい。そして、夜鷹が殺したと言う意味も何となくわかっている。それをあえて無視して、司は続けた。
「俺は死んだ後、目が覚めたら小学校に居たんですよ!もうビックリ!」
「………………」
「過去に戻ってるなんて、漫画じゃあるまいし夢じゃないかなって思ってたんですけど……この夢、中々覚めなくて。そしたら初めて俺と同じ記憶を持ってる人が現れました。ここまでが俺の話です」
貴方は?と司は背中の圧迫感を押し返す。夜鷹は少しの間考えてからボソボソと呟くように話した。
「オリンピックの会場で君を見かけてから徐々に思い出してた」
「やっぱり目が合ってたんだアレ…」
「最近まで名前が分からなかったけど、動画見たら鮮明に思い出したんだ。僕のプロを滑ってる子どもが居るって高峰先生に見せてもらった」
「なるほど」
「だから……会いに来た」
会いに。飽きたと捨てた俺に?と口から出そうになった司はそれを呑み込む。そんな意地の悪いことを言うのは司も嫌だったし、夜鷹を傷つけたいわけでもない。恐らく夜鷹は罪悪感と言うものを感じているのだろう。それに漬け込むようなことをしたくなかった。
夜鷹が司を死に追いやった原因の一部であることは確かだ。だからと言って恨んでなど居ない。もっと言えば普通に前方不注意の自身の行いが悪いと思っている。
貴方のせいではないよ、などと言うつもりは無い。ただ、もう終わって過ぎたことなのだ。あの世界での明浦路司はもう終わった。だからこの世界が夢では無い以上、もう割り切って生きる方が楽だろう。
「……純さん」
「………………」
「確かに、貴方の言う通り俺は貴方に殺されたかもしれません。でも、別にもう気にしてません」
努めて優しい声で司は言う。正直に言うと気まずいからお互い他人で居ようと言うことなのだが、夜鷹が自身のことを負い目に感じているならばそれを撤回してやりたかった。
何より、司はもう振られた身だ。夜鷹も人の心があるならば距離を置いてくれないだろうか。そもそも、飽きた自分に付き合わせるのは気が引けた。
「純さんがそれを負い目に感じているなら、許します。死んだのは半分俺の自業自得です。貴方を恨んでもいません。だから、お互い忘れましょう」
司への罪悪感でこの場に居るなら、それこそもう大丈夫だと伝えたかった。スケーターとしての夜鷹純の迷惑になりたくないし、これから先もこの界隈で顔を合わせる時にそんなことに振り回されるのは嫌だろう。
「もう新しい人生みたいなものですし。お互い記憶がある者同士、何か困った時に助け合って行けたらいいなって思うんですけど……」
「……………………」
「周りには俺たちの関係はお友達ってことにしましょう!俺も貴方もその方がスケートに支障が出ませんし、楽じゃないですか」
それでも、一応2人はこの世で唯一同じ記憶を共有する者だ。だから過去のことは水に流して、出来る範囲で良い、持ちつ持たれずの関係になろう。
司の提案に、夜鷹からの返事は無い。何か、寒気がするような気がした。早く話を終わらせたい。そう思い、振り返ろうとする。
「だから……その…夜鷹さ────ッ!?」
突然視界が勢いよく回り、ガンッ!!!とけたたましい音と共に壁伝いに肌に衝撃が伝わって来た。反射的に目を瞑ってしまう。薄く目を開けると、顔の横スレスレにあの夜鷹純の足が。どうやら体をひっくり返され壁に押し付けられたかと思うと、そのまま壁を蹴りつけたらしい。選手ならもっと足を大事にしてくれと思う。足もそうだが壁は無事だろうか。
すると、胸ぐらを掴まれ引き寄せられた眼前に氷上の如く冷たい目が迫った。怒っているのがひと目でわかる。何で!?と司は混乱した。
「なに勝手に話を進めてるの」
「え……?」
「なに?許すって。忘れろって、なに?」
なに、と言われても。言った通りの意味ですが、としか言いようが無い。何に怒っているのかわからない。今は体が未完成で力でも敵わないことを本能で理解しているのか、普通に怖い。
だが前の人生でも度々このような癇癪を見ている司からして見れば可愛いものだ。そもそも俺が怒るのは道理だけど何でこの人にキレられなきゃならんのだ。そう思いつつも暴力は振るわれたことは無いので、ここは夜鷹を信じてとりあえず答えるしかない。
「いや、だから……」
「……………………」
「何でこんなことするんですか…俺たちもう終わってるでしょう」
そう言うと、夜鷹は呆然としているようだった。掴まれていた手から力が抜けている。今のうちだと司は下から抜け出てバッグを手に持った。
あ、と夜鷹がいつになく鈍い反応で司の方を向くと、司は苦笑して大丈夫ですよ、と言う。今出来る精一杯の笑顔だった。
「前の人生のことで振り回されても仕方ないじゃないですか。今の俺たちは何の接点も無いただの他人同士です」
「司、」
「俺のこと、嫌いでもいいので、どうか先生方の前だけでも仲良くしていただけると助かります。それじゃあ、もし会うことがあるならまた練習で」
夜鷹の反応が鈍いのを良いことに、司は逃げるように駆け足で言い切ると背を向けて走り出す。あの時も、今も、夜鷹が追ってくることは無かった。
そこから約半年。怒涛の中学生活真っ只中である。
司は両親を説得(ゴリ押し)し、部活には入らずスケートセンターに通っている。来たるシーズンに向けて自身より歳下の生徒たちに混ざり、バッジテストをこなす日々だ。
この歳でスケートを始めると言うことで、最初は浮かれまくっていたが、持ち前のコミュ力と実力でどこかからの移籍選手じゃないかと勘違いされた。違うよと言うと驚かれるまでがワンセット。そんな流れで今ではすっかり溶け込んでいた。
ちなみに。正式なコーチはルクス東山のヘッドコーチだが、月に数回、高峰がやって来て夜にリンクを貸切にしてレッスンをしてくれた。と言うのも、それには理由がある。
今日も高峰が来てくれる日。そして、そのレッスンには決まって夜鷹も来ていた。
夜鷹は今話題真っ只中のメダリスト。そんな大スターが真昼のリンクなんかに来れば大騒ぎ野次馬待ったナシなのは言わずもがな。普段は高峰と共に神奈川のリンクで一般開放が終わった夜に貸切をしているらしい。それの出張版とでも言ったところか。夕方に司を見に来ると言っていたのを、夜鷹も行くと言って聞かなかったため、渋々貸切なのだそうだ。贅沢だ〜と司は思いながらもそれにあやかれる幸運に感謝した。
そんなわけで、夜。
「こんばんは、夜鷹さん」
「………………」
無視。出会った時とは打って変わって、夜鷹は司に構わなくなった。しかし司はいつも通りニコニコと一方的に挨拶をして、各々リンクに滑り出す。
高峰がどうしたんだと聞いてきたが、これから同じ氷上えで戦う好敵手なのであまりベタベタしないように言いましたと言うと、何だか可哀想なものを見る目をしていた。
何か問題があっただろうか。あのままだと公の場でもとんでもない距離感で接してきて、世界の夜鷹純へのイメージがフランクなものになってしまう。前の人生で瞳の現役最後の大会を残念な結果で終わらせてしまったように、自身が彼の積み上げてきたものを壊してしまうのだけは嫌だった。司は首を傾げながらも、高峰の指導を受ける。
すると、夜鷹が飛んだ。4回転Lzだ。相変わらず鋭いキレのある回転、タイミングばっちりの軽やかな着氷、ブレない美しい姿勢。それを、司は見る。懐かしい感覚だ。前の人生でも散々見せてもらって、やって、って無茶ぶりされて。
そんなことを考えていると、ジッとこちらを見る夜鷹と目が合った。
「見た?やって」
同じこと考えてた、と思わずクスクス笑いながら滑り出す。何を勝手にと高峰が口出ししようとしたが、それに構わず夜鷹の前を通り過ぎ、氷を蹴った。夜鷹の線をそのままなぞったかのようなジャンプ。着氷。どうですかと言う意味で視線を送ると、相変わらず感情が読めない目と目が合った。
「おお…!」
「…………もう少し高さ余裕もって、開くのも少し遅い」
「はい!」
「次行くよ」
「あ、純!司もだ!お前らハイペース過ぎだ!」
高峰の言葉を無視して2人はリンクを滑る。交わす言葉は無い。夜鷹の動きを凄まじい集中力で観察し、世界最高峰の手本を忠実に再現する。何度も、何度も。
こりゃもう無理だと高峰は見守ることにした。何より、司が笑っている向こうで、夜鷹も少し、微笑んでいる気がした。スケートを楽しんでいる訳でもない、ただ氷上しか息が出来ないからその邪魔をする者を寄せ付けない滑りをしていた教え子が、共に滑ることを楽しんでいたのだ。
全く何者なんだよ、あのチビは。夜鷹の後を追う小さな背中が、高峰にはとても大きく見えた。
「ハァ、ハァ……ッ!」
「いくよ」
夜鷹に導かれるように滑り、隣に並ぶ。この時をどれほど夢見ただろうか。やっぱり夢なのかなと少しの不安と、目の前の憧れを間近に感じる高揚感。息がついつい上がってしまう。前では貴方の傍に行けなかったからと、つい嬉しさに笑みがこぼれる。
その笑みに、夜鷹は何を思っているのか。何も思っていないのか。司を一瞥して、また飛んだ。
しかし、夜鷹の体力に今の司がついていけるわけもなく。ズダン!!と激しい音に夜鷹が振り返ると、氷上に倒れる司が居た。
「ぅ、てて……」
「司!!馬鹿が、オーバーワークだ!純もやめろ!こいつはまだ12だぞ、お前の体力に着いてけるわけないだろ!」
「す、みま、せ…ひゅ、ぅ、はく、」
慌てて高峰がリンクに滑り出て司の元へ駆け寄ってくる。揺らぐ視界の中、立とうと思っても足が痙攣して上手く立てなかった。肺が酸素を求めて激しく呼吸を繰り返し、心臓もはち切れそうだ。そんな中でも司は、あんなハードな練習でも汗ひとつかかない夜鷹純ってやっぱりすごいやと感心していた。その間に、何やら高峰と夜鷹が言い合っているのを感じたが上手く聞き取れない。
すると、ふわりと体が浮く。持ち上げられたと認識した時には目の前に夜鷹の顔があった。どこか鬼気迫る雰囲気で、そんな顔初めて見たと他人事のように思う。スイスイと景色が変わっていき、リンクサイドに上がるとベンチに下ろされた。その頃には息も整ってきて、視界もハッキリしてきた。
「今日はもう練習は終わりだ。足を痛めたら練習の意味がねえ」
「すみません……」
「純もだ、俺が居るのに勝手に指導始めんな」
「……乗ってきたのは司です」
「煽る方も悪いに決まってるだろ!ったく、お前ら揃ってスケート馬鹿だよホントに。保護者に連絡してくるから待ってろ」
高峰がぶつくさ言っているのを聞いてまた笑う。夜鷹からは呆れたような視線をもらい、だって、と司は言う。
「嬉しいなぁって……夢みたいだ、純さんと一緒にたくさん滑れて……」
夜鷹の目が丸くなる。満月のようにまん丸だ。
「今度は…見てるだけじゃなく…て……一緒、に…………」
体力の限界まで滑っていた反動がやってきた。凄まじい眠気に子どもの体は抗えなくて、そのまま瞼が落ちていく。
体から力が抜けて倒れる瞬間、冷たい温もりに包まれた気がして、その心地良さに意識を手放した。
「お前ら本当に何があったんだよ」
「………………」
「言いたくないなら、いいけどよ。だがさっきみてぇなこと、外ではするなよ?」
「………………」
「返事」
「………………………………はい」
「今の間は何だこら」
高峰が倒れた司の元へ駆け寄った時、立てない様子に抱えて移動しようと手を伸ばすとそれを勢いよく弾かれた。夜鷹によって。何をするのかと夜鷹に顔を向ければ、司に触れるなと言わんばかりに鋭く睨まれ、そのまま夜鷹が抱き上げてリンクサイドに駆け込んだ。
壊れ物を扱うかのように司の容態を確認するその表情はどこか青ざめていて、落ち着けと思わず声をかけたほどだ。好敵手になったから距離を取ったと聞いていたが、やはり夜鷹にとっては大事な存在なのだろう。
しばらく様子を見ていると、電池切れ故に寝落ちした司の体がぐらりと傾き倒れそうになった。すぐに夜鷹が肩を掴んで抱き寄せたため、幸せそうに夢の中らしい。
その間に靴を脱がせ、怪我の有無をチェックし、軽いマッサージをして、荷物をまとめ、上着を着せる。あまりの甲斐甲斐しさに相変わらず司の前だと様子がおかしい姿で高峰は微妙な顔だ。明日は雹が降るのではないか。そんなことを思っていると、どこへ行くのか歩き出したので慌てて呼び止めた。
「おいどこ行くんだ!」
「家に…」
「……落ち着け。今保護者に連絡したから司は迎えが来る。その後お前は俺と車で帰るんだよ」
「…はい」
「目が覚めるまで一緒に居てやれ」
驚くことに、夜鷹はかなり動揺している。こんなに無表情でも。高峰の言葉に静かに頷くと司を横抱きにしたままベンチに座った。眠る司の顔をジッと見ながら、動揺から不安げな表情に変わっている気がした。もっと言えば恐怖しているような。表情は無くとも、その目はユラユラと揺れていた。
これは夜鷹も練習は無理そうだとため息をつく。今日はこのまま全て切り上げて帰ろう。精神的に不安定な夜鷹なんて初めてで、調子が狂うのだ。
司と出会ってからそんなことばかり。感情の起伏も少なく、スケート以外に興味を持つことも無く、他人なんて眼中に無い。氷上でしか生きられないことを自覚してからは、その頂点に君臨し続けることで自身の価値を証明してきた。
高峰の元から離れて、ひとりで。
「…………なぁ、純」
「………………」
「良かったな、司と会えて」
そう言うと、夜鷹は頷くことはなかった。否定もしなかった。ただただ迷い子のような目で、太陽の目覚めを待っていた。
また時は経ち。
バッジテストを超特急でストレート合格し、司は初出場全国ノービスにて金メダルをとった。とれてしまったのである。
こ、こんな呆気なく……!?と思ってしまうのは仕方がない。前の人生では初級止まりで大会も数える程しか出ておらず、しかも残念な結果で終わっていたため未だに実感が湧かない。
あれだけのプレッシャーに耐えてやり切る教え子たちの頑張りが身に染みてわかり、偉すぎるよと元コーチの心が泣いた。
何より、加護夫婦も大会当日には会場で見てくれていた。メダルを持って真っ先に2人の元へ向かうと号泣しながら迎えてくれたのを今でも覚えている。その時になってようやく司も泣きながら優勝を喜べた。
「司、お前もわかってると思うが、めちゃくちゃ注目されてる」
「ヴッ」
「そりゃそうだろ。半年前から始めた初心者が優勝なんて早々ない。地方ブロックならともかく全国だしな。そもそも中部ブロック自体、激戦区なのに」
「……そうですけど…」
「その自信の無ささえなけりゃなぁ」
「そうは言われましても…っ」
恒例、夜のリンクにて。謙遜を通り越して怯えた顔の司は大会のことを振り返る。
まずは中部ブロック大会。ルクス東山でノービスAに挑むのは司しかおらず、周りは司のことなど知らない者たちばかりなものだから誰アレと遠巻きにされ、ひとりポツンと孤立してしまっていた。声をかけたりしてみたが、残念ながら男子には女子ほどの社交性は見込めず、自身の教え子もこんな中で頑張っていたのかと司は心の涙が止まらなかった。
だが、これまでの挫折に比べれば挑戦すると言う状況は何とも可能性に満ちている。失敗よりもこの舞台に挑戦出来る喜びの方が、司には溢れていた。
そして、滑り終わった後に周りの視線は一変する。卓越されたスケーティングはもちろん、最後に3回転lz+3回転Loの高難易度コンビネーションを余裕ある着氷で魅せた。未来に生まれる天才少女の名を広めた技でもある。
ザワつく会場。あれは何者だと警戒心、好奇心、そんな目に囲まれた。
そうして噂はすぐに駆け巡り、迎えた全日本ノービス。
この日は匠も駆け付けてくれて、夜鷹も中継を見ていると教えてくれた。司のやる気が5000万くらい上がった。
中部ブロック1位通過と言うこともあり、司は開会式で多くのライバルたちに声をかけられた。半年前に始めたばかりと言う情報も出回っており、警戒されることもあったが、司の持ち前のコミュ力ですぐに打ち解けることが出来た。コーチだった身としてはあれだけのプレッシャーに耐えてやり切る教え子たちの頑張りが身に染みてわかり、偉すぎるよとひとりひとり褒めまくったり演技の印象などを褒めたりしていたら高峰に回収された。曰く、後で怖いからとかなんとか。何が怖いんだろうかと首を傾げた。
そのまま優勝。4回転Lzを降りた時の歓声とどよめきは凄まじかったらしいが、司は演技に夢中であまり覚えていなかった。曲が終わるとスタンディングオベーション、会場が拍手で埋め尽くされたのだけは覚えている。
まるで夢。やはり夢なのではないか。そう思って頬を引っ張っても痛いだけ。それでも実感が湧かない。
「あの動画もお前じゃないかって何人か勘づいてるぞ」
「ひぇ…」
夜鷹純のオリンピックのプログラムを見事に再現したあの動画。あれは結局、耕一に頼んで取り下げてもらった。加護夫婦は不服そうだったが。
どうやらあの動画はフィギュアスケート界隈でかなり話題になり、何者なのか、どこのクラブに所属しているのか、全く分からないことから噂に尾ひれがつきまくっていたらしい。
一応、固定カメラで撮っていたためある程度距離があり、顔も認識できるほど近付くとモザイクを掛けてくれていた。なので身バレのようなことは特に気にしなかったが(選手となれば嫌でもわかるし)、4回転が飛べる中学生は滅多に居ない。加えてとても中学生には見えない表現力が年齢を読みづらくさせていたのが幸いしてか、司があの動画の人間だと言うことを他人から言い当てられたことは無い。
とは言え、見る人が見れば司ではないかと当たりをつけてくる者も居るだろう。その視線が痛い。コーチが情報戦も兼ねているのは司もよくわかっていたから尚のこと。
幼い頃からの英才教育式のスケート界に突如現れた中学生。嫌な意味で注目されるのも仕方ないことだ。
そんなこんなで今に至る。
「君は相変わらず周りを気にするね」
「夜鷹さん」
「そう言うのを金メダルで黙らせてけばいいんだよ。この世界はそう言うものだ」
「そうですけど…」
「外野の言うことに振り回されるだけ馬鹿を見る」
すい〜、と一緒に滑っていた夜鷹が背後に立ち、頭に顎を載せる。成長期に入るのは高校生になってからだったので、未だに頭ひとつ分の身長差があった。
この体格差も実感が湧かない。数年後にひっくり返るのを知っているので今をそれなりに楽しんでいた。そんな考えが伝わったのか、いつの間にか冷たい感覚が腹部に伝わってきてちょっと、と司は夜鷹に物申す。
「さりげなく服に手を突っ込まないでください」
「あったかい」
「カイロとかでいいでしょう?」
「やだ」
「もぉー」
そのまま手を引かれスルスルとリンクの中央に滑っていく。いつの間にか手を取り合ってアイスダンスのような振りを適当に当たりをつけてやり、離れてはくっ付きを繰り返して揃って4回転を飛んだ。揃って着氷すると、やったー!と司が夜鷹に笑いかけ、夜鷹も普段の無表情が少しだけ和らいでいた。
こいつら、ベタベタするのやめるって言ってなかったか?あと俺が居るの忘れてないか?と高峰が思うのも仕方がない。あんな大技、大会でも見たこと無いぞと言うことを簡単にやってのけるのにリンクがお花畑に見えるのは気の所為だろうかと遠い目をしていた。少し目を離すとすぐこんな感じだ。大会よりも夜鷹相手にあれだけ無邪気に素直に明るく振る舞える方が凄くないか。
そもそも司は言うほど大会でも狼狽えて居なかったし雰囲気に負けるような緊張の仕方もしていなかった。ただ他の選手に影響が出ないように立ち振る舞いに気を遣っていただけ。
まるでその場の雰囲気を知っているかのように滑走になるまでの勝手に迷わなかったし、受付や控え室の対応も自分ひとりで全て行っていた。
ルクス東山のヘッドコーチも一度言っただけで全て覚えてくれるからと感心していたのを思い出す。単に記憶力が良いだけではあんな堂々とした態度で居られないはずなのに。
「夜鷹さん、もう一回!」
「いいよ」
「やったー!」
次はジュニア選手権だ。もう既に強化選手に選ばれていることは司も知っていて、出会った半年前まで初心者だったのが信じられない。
無邪気に世界王者と戯れてるのに変なところで後ろ向き。とても礼儀正しく人当たりもよく、少し暑苦しいが冷めているよりずっとマシだ。まるで太陽のように眩しく、その並々ならぬ執念でスケート界に現れた。一種の天才である。
しかし、だからこそ少し高峰は心配になる。まるで大人を相手にしているように感じる時があるのだ。同年代の子どものよりずっと余裕のある雰囲気は、全く手のかからないこともあって異質に見えた。
何より、その技術はただ陸でトレーニングをしていただけで備わるものとは到底思えなくて。
指導することも、課題となることも少なく、夜鷹とはまた違った、少し目を離せば全く別の遠くで輝いているような、そんな雰囲気。
「そう言えば、前の大会で色んな地方の選手と友達になったんです!みんな本当にスケート頑張ってて、俺も見習わなきゃって」
「……………………」
「〇〇くんからスピンのコツ教わったんです!見てもらっていいですか?」
「おう、やってみろ」
「……………………」
「純、顔」
うーーーーん、やっぱり夜鷹とは似てないかも!と高峰は隣で不機嫌な顔をする夜鷹にため息を着く。この根っからの陽属性は夜鷹には無いものだ。
クラブに入った時も年齢が高めなだけあって浮いていたが、今では子どもたちには大人気だし、保護者にも礼儀正しく、同年代から歳上の先輩は少なめなこともあってかとても可愛がられている。人たらしと言うやつだ。そして一番最初にたらしこまれているのがこの界隈の頂点に立っている男と言うのがまた、運命と言うかなんと言うか。
「全然ダメ」
「えー!!」
「見てて」
スピンをひと通り終えた司に容赦なくダメ出しする夜鷹が、手本として自ら回る。高峰には先程の司のスピンも普通に綺麗だと思ったが、夜鷹の言う『ダメ』はそうではない。
「見た?やって」
お決まりとなったその指導法に、司は文句も言わず体を動かす。そしてお手本通りのスピンに夜鷹は満足そうに頷いた。
出来は別に大差無い、と言うより、どちらもとても上手い。ただ、回り方の癖や仕草が違うだけだ。だが、それこそが夜鷹の言う『ダメ』なのだ。
「お前なぁ……」
「何ですか」
「……束縛すると嫌われるぞ」
どう見てもただの後輩に向ける態度では無いそれに、高峰は大丈夫かなぁと眩しく笑う司の未来が少し心配になった。
それからまた時が過ぎて2年後。
司は14歳になり、ジュニアグランプリ、世界ジュニア選手権で優勝した。その頃にはすっかりスケート界で突如現れた新星と話題持ちきりとなり、世界から大注目される存在となっていた。
そして、嬉しい出来事はこれだけではない。
金メダルを持ち帰ると真っ先に向かったのはもちろん加護夫婦の元で、その際にお知らせがありますと言われ、それから更に約1年後、現在。
「うぅ、ぐすっ、ひぇ……っ、」
「うふふ、司くんたら。泣かないで」
「や、柔らかいです…!」
「写真撮ろう、写真!」
待ってたよ、と司は泣きながら腕の中で小さく息をする新たな命に微笑みかける。
「名前は羊ちゃん!可愛いでしょ?」
「はい、はい……!はじめまして、羊さん……!」
加護羊が誕生した。
天使とは正に彼女のことなのだろう。それくらいにそれはそれはもう、可愛くて。まだ目がちょっとしか開いていないが、司を映して不思議そうに見上げている。
芽衣子から授かりものをしたと聞いた時も泣いたのに、いざ産まれてみると更に涙が込み上げてくるのだ。命の誕生とは何故こんなにも神秘的で温かいものなのだろう。
「なんか司くん、抱っこに慣れてない?」
「俺、下に弟2人居るので!でも、女の子の赤ちゃんは初めてです!可愛いです〜…!」
「羊にとって司はお兄ちゃんだね!」
「金メダリストのお兄ちゃん!すごいわ〜!」
「えへへ……」
上手く誤魔化したが、何だったらこの子がご飯飽き性なのもくせ毛なのも知ってます。めちゃくちゃ苦労してました。と、思いつつも頬が緩む。二度目の出会いはそろそろ慣れてきたが、こんなにも嬉しい出会いをもう一度体験出来るとは。
今度も仲良くしてねと顔を寄せて覗き込むと、ぱちぱちと瞬きする。まるで猫の挨拶だ。
すると、パシャリとシャッター音がして、そちらを向くと幸せそうに頬を緩ませる芽衣子と耕一が居た。
「さあ、笑ってお兄ちゃん!」
「可愛いぞ、2人とも〜!」
ああ、幸せだ。また涙が零れてしまって、泣かないの、と2人が苦笑しながら拭ってくれた。
「ってことがあって〜!見てください可愛いですよね〜!将来絶対美人さんになります!」
「もう何回も見てるし聞いてるんだけど」
「あ、すみません、あまりにも可愛くて」
「はぁ……もういい?練習に集中してよ」
「はい!」
緩みきった顔で写真を見せてくる司と、うんざりとした雰囲気で離れていく夜鷹。その様子を大丈夫かなぁと遠い目で見守る高峰。
ジュニア選手権が終わり、いつものリンクに戻ってきたわけだが。久しぶりに会った司がデレデレとした顔で妹(みたいな存在)を可愛い可愛いとずっと言っており、高峰も娘が居た時同じようになったので気持ちはわかるが、とドス黒いオーラを放つ夜鷹を見る。最悪のご機嫌らしい。周りの空気が明らかに冷えている。相変わらず司のことに関しては心が狭い。
「司、今年も合宿と海外遠征あるから日程把握しとけよ」
「はい!」
「……………僕と練習した方が有意義でしょ」
「お前もシーズンだろーが」
「……」
「最近司に構いすぎだ」
あ、あれ。なんか空気悪い?と司はようやく気付いた。なぜだか2人の仲が険悪に見える。
確かに最近、夜鷹の機嫌が悪いことが多い気がすると司は思っていた。会う頻度は月に一度会うか会わないかなのだが、ここ最近は大会で忙しく会っていなかったのでいつからこんな空気なのかはわからない。ただ、目が合っても逸らされるし、いつも通り練習も会話もするが、少し冷たい気がした。
そもそも。夜鷹とは最初に会った時以降、お友達として仲良くしているつもりだ。否、仲良くしてもらっているのだろうと司は思っている。それでいいのだ。夜鷹はただの憧れの人で、自分は可愛がってもらっている後輩。その関係であれば、冷たくされても、飽きられても、まあ仕方ないかで終われるから。
「かまってない」
「かまってるだろ。毎回名古屋来る時に着いてくるじゃねーか」
「リンク貸切だからです」
「向こうでも貸し切ってるだろうが」
なのに、少し胸が苦しい。自分もまだまだ未練がましいなと自嘲して、先程から喧嘩している夜鷹と高峰を見る。険悪ではあったが、それは2人の仲だからこそ。仲良いな、と他人事のように思った。羨ましいだなんて思ってない。
「あと慎一郎くんが心配してたぞ。最近お前、また食事抜いてんだろ」
「慎一郎くんは関係ないでしょ」
「……し……鴗鳥選手ですか?」
そんな中で、聞こえた単語に司が反応する。慎一郎と言えば1人しか居ない、鴗鳥慎一郎だ。夜鷹が唯一心を許している親友にして、執念の銀メダリスト。それはまだ未来でのことだが。
この世界ではテレビ越しでしか見たことが無いため、前の人生でも大変お世話になった人でもあるのでその名を聞いて少しソワソワしてしまう。
「ああ、そういや司は会ったこと無いか。選手としては知ってるだろう」
「はい。鴗鳥選手のジャンプ、好きなんです!」
「………………」
「確か名港ウィンドですよね。いつかサイン貰えないかな……」
「………………」
まずいすっごい純から凶悪なオーラ出てる!!気付け司!!と言う高峰の願いも虚しく、司はモジモジと可愛らしい様子で慎一郎のことを褒める。
「演技が豪快でエネルギッシュで、すごくカッコいいですよね……!オリンピックの時に初めて生で見たんですけど、衣装がシックでとっても似合ってて、」
「ねえ、僕は」
「へ?」
夜鷹の目が何だか怖いような。司は少したじろぐ。
「僕のことはもちろん見てたよね」
「もちろん!あの鬼のようなプログラムを滑れるの貴方くらいですよ。動画で滑った時あまりに体力使い過ぎて大変だったんですから」
「……他には」
「はい?他に?」
「他にないの。感想」
感想。
夜鷹はすっかり忘れている。司が夜鷹純の大ファンであることを。前の人生では酔った司にふとそんなニュアンスのことを聞いて、深夜まで動画と『夜鷹純のここがスゴイ!』と書かれたホワイトボードの解説付きで自身のことを語られたことがあったはずなのに、忘れてしまっていた。その時は夜が明ける前にベッドに押し倒して強制終了させた気がする。
そして感想、その言葉は地雷であることも。
「……良いんですか」
「なにが」
「俺は貴方のプログラムだったら2時間は余裕で語れますよ」
「……………………………………」
見たこともないほど表情が抜け落ちた真顔で言われた夜鷹は、嫌な予感がして少し考えた後に、ようやく思い出した。すぐに踵を返し、やっぱいいと言ってリンクに滑り出た。
懸命な判断である。ここで下手に語らせると切り上げようとしてもその隙すら与えられないマシンガントークが始まる。司の言語化能力が高いが故の弊害であった。
今のやり取りの詳細はわからずとも、高峰はホッと胸を撫で下ろす。夜鷹の機嫌が下がったままだと帰りの車が非常に気まずい空気になるのだ。
「お前なぁ、鈍感もいい加減にしてくれよ……」
「す、すみません…?」
「あいつももうすぐ世界選手権だってのに機嫌悪くしやがって……それに、さっきも言ったが体調管理が心許ない。あいつに限って怠るなんてことは無いと思うが、相変わらず食うのに苦労してっからなぁ……22なんてまだまだ食べ盛りのはずなのに」
「ええ、そうで…………」
確かに、と頷きかけて、司は気付く。
夜鷹純が、引退していない。
あれ?と思い返す。前の世界で夜鷹は20歳で引退したはずだ。自身のことで忙しくすっかり忘れていたが、夜鷹はまだ引退していない。何故今まで気づかなかったのだろう。
歴史が変わった。夜鷹くらいのビッグネームとなればそう評しても良いだろう。小さな選択肢の変化は数多くあれど、この変化はかなり大きなものだ。
「…………………もしかして……」
俺が、ここに居るからか。
司はわからなくなる。夜鷹は確かに、司が氷上に居ればと言った。それは司がコーチをしていること、まだ滑れるのに諦めたことを知っていて、傷つけるために言ってきたものだと思っていた。
だが、実際にこうして隣に並び立ち、金メダルを得て気付いたことがある。
頂きに立つのは1人。それは大変名誉であり誇りであり、とても孤独だ。自分が上に行けば必ず涙を流し悔しい思いに歯を食いしばる人が居る。
それがもし教え子だったいのりや理凰だったら、コーチとして優しく声をかけてやりたいし、一緒に頑張ろうと元気づけたい。
しかし、金メダリストと言う立場はそれは許されない。
勝者は毅然とした態度で、堂々としていなければならない。どの年代でも、敗北による感情の縺れは付き物なわけで、敵意や悪意ある視線を受け止めることも、勝者の運命。少しの情けも、敗者に恥をかかせるだけなのだから。その事実を、司は身をもって体験している最中だった。
ずっとその立場に居た夜鷹の心情を、想像したことがあっただろうか。自身の実力証明を完了し、表舞台から降りたはずなのに、今ここに居るのは何故か。前の世界と大きく違うのは、司の存在。
ただでさえ普段から何を考えているか分からなくて、こちらが何を言ったって鉄のようにビクともしないような人だと勝手に思っていた。恐ろしく不器用で口下手なのだから余計に分からなくて。
でも、その心はちゃんと存在している。司に触れる手、見つめる眼差し、向けられる表情は、氷の上で生きていても温かくて、時にはびっくりするくらい熱を持つ。司はそれを、誰よりもわかっている関係だったはずなのに。今はその関係になる前よりも遠い場所に居る気がした。
「司?どうした」
「……先生。やっぱりオリンピックの金メダリストともなれば、周りの人たちも警戒しなければならないですか」
高峰は少し目を見開き、司に勢いよく振り返った。その目は少し険しくなり、心配の色を滲ませる。
「誰かに何かされたのか」
「俺は大丈夫です」
「……嘘はついてないな」
「はい。ただ、夜鷹さんはどうだったのかなって」
少し聞き方を間違えたが、やはりコーチとしては外せない問題なのだろう。
いのりのコーチをしていた時も、ある程度周りの視線や態度に対して注意するように言ったことはある。幸いにもいのりには愛される才能があり、司や瞳だけでなく色々な人たちから守られていた。
だが、夜鷹は。
「お前も知っている通り、純にコーチと言う存在は…必要無いものだ。コーチだけじゃねぇ。何もかもを寄せ付けないから、誰もあいつに近寄ることも出来なかった。全ての金メダルを掻っ攫ってくだけあって、良くない思いをぶつけそうな奴も居た。そう言う奴から守るのがコーチの仕事だってのに……あいつはそうはさせてくれなかった」
「………………」
「だからな、お前が居てくれて少し安心してんだ」
「……俺?」
「あいつが他人に対して興味持ってるの見たことねぇよ。あっても慎一郎くんくらいだが……リンクの上で楽しそうにしてるとこはお前と滑ってる時に初めて見たんだ」
高峰が言うことに、胸が締め付けられるような感覚になる。
もし、あの時言っていたことが氷上でしか生きられない彼の本心ならば、その言葉の意味を取り違えていないか?そう考えて。司を傷つけるために言ったのではなくて、ただただ、一緒の氷の上で出会いたかったと言う意味で言っていたのだとしたら。
あれは夜鷹の心からの、小さなSOSだったのではないか。
「……なんで、いまさら…」
「ん?」
「いえ。何でも。俺も負けられないですから。レッスンお願いします!」
「あ、ああ。お前も自分のことがある。あんま気負うなよ」
「はい!」
何で今更そんなことを思うのか。痛い心臓は、見ないふりをした。
桜は青葉に変わり、陽射しが強くなってきた初夏の頃。司は中学3年生となり、受験も視野に入れる歳になった。
この頃には司の実力が周囲に知られ、ジュニア選手権へ向けて連覇のためにリンクのある高校を勧められたり、強いクラブから勧誘などが絶えなかった。
しかし、司はルクス東山で頂点に立ちたいと思っていた。もちろん金銭的な面で助けられているのもあるが、一番最初にスケートを始めた場所だから大切にしたかった。自身が金メダルを持って帰ればルクス東山に入る人も増えて、いつか専用のリンクを持てるかもしれない。そのお手伝いが出来ればと言った時はヘッドコーチは号泣していた。
学校でもかなり目立つ存在になっていた。司は中身は既に義務教育を終えている上に大人の時の経験もあって基本的勉強で躓くことは少なかった。これが幸いして学業を疎かにしている印象を持たれること無くスケートに一生懸命な好青年として爆モテしているが本人は知らない。
その一方で、世界選手権は夜鷹の金メダルで幕を閉じた。
当然と言えば当然だが、夜鷹自身がかなり減量をしているのを知っている司は、その細さと顔色の悪さが心配になった。
ここから見る夜鷹は自身の知らない夜鷹だ。引退しなかった世界線とでも言おうか。春休みとは言え海外での開催に駆け付けるのは難しかったのでテレビで見ていたが、22歳の夜鷹純の滑りは確かに素晴らしかった。
しかし、どこか違和感がある。
『……お前だから言う。純に転倒が増えたらしい』
「え!?」
そしてそれは当たっていたらしい。学校からスケートセンターに向かうまでの間にかかってきた電話の向こうの高峰の声色は険しく、その深刻さを物語っている。
世界選手権が閉幕して以降、夜鷹に会っていなかった。もう数ヶ月も顔を合わせていない。あと少しで半年になる。最後に見たのが世界選手権の1ヶ月前の一緒に練習した時で、その時も何だか様子がおかしかった気がする。どこか上の空と言うか、珍しく集中出来ていないような。
『不調でもノーミス叩き出すあたりさすがだが、司も見ただろう、あいつの演技』
「……はい。画面越しでしたが、かなり……こう、余裕無さげでした。ジャンプは相変わらずでしたが、ステップが少し雑で、夜鷹さんらしくない」
『ああ。世界選手権の後の練習で転倒が多くなって、今は休養をとってるらしい。ただ、それもちょっと問題があるらしくてな』
「問題?」
高峰が少し言い淀む。休養を取るのは絶対に必要だが、何故問題が起こるのか。だって休むだけだろう。そりゃあ、アスリートの休息は色々意識しなければならないことも多いだろうけども。司は何故?と首を傾げて匠の答えを待つ。
『いやお前……わかるだろ。純が不調の時に自分の世話出来るかっての』
「あ」
司は前の人生を思い出す。元アスリートとは思えない不摂生な生活環境を。部屋は汚いわけではないが生活した痕跡が見られない冷たさがあったのを覚えている。司が度々行ってはカーテンを開けて日差しを取り込み、生まれた日向で昼寝をしていたっけ、と穏やかな記憶を辿る。今はそれどころではないが。
『ただでさえ減量で飯を受け付けないらしい。下手したら摂食障害になりかねん。加えて本人も久しぶりのスランプだ、ご機嫌がサイクロンで現コーチも迂闊に手を出せんと俺に泣きついてきたんだよ。家には居るっぽいんだけどな』
「な、なるほど……いや、じゃあ何で俺にその話を」
『おう、そこでだ』
嫌な予感がする。司は切っていいですかと言いたかったがそれより先に高峰がねじ込んできた。
『純の家にちょっと突撃かましてくれねぇか』
「切りますね」
『待て待て待て!』
「ちゃんと病院に連れてってお医者さんの意見とかを取り入れた方が、」
『本人が拒んだら意味無いだろ、そこからなんだよあいつは』
それは確かに覚えがありすぎる。無理に連れて行こうとして暴れられれば怪我をさせてしまうかもしれない。これが子どもや猫ちゃんならばハイハイと流しながら連れて行けたかもしれないが、残念ながら成人男性である。金メダリストの体を傷付けてしまえば、なんて想像もしたくない。人間の意思と体は必ずしも連動している訳では無いのだ。
となれば、説得しかない。しかし相手はあの夜鷹純。無理ゲーが過ぎないかと遠い目をした。例え今の仲が良好だとしても、自信を持って説得出来るなどと言えるわけが無い。現在はただの先輩後輩なだけなのだから。
「…………まずは電話とかで話すとかは、」
『あいつの怒りの矛先が真っ先にスマホに向くの忘れたのか』
「もう金メダリストじゃなくて赤ちゃんて呼んだ方がいいのでは?」
通知音もしくは振動による他人の干渉を察知し、その鍛え上げた体で破壊されたスマホは数しれず。何故破壊にそこまで躊躇いが無いのか甚だ疑問であるが、一応人に向かないだけ偉い!と前の人生で諦めの境地に居た司は前向きにとらえていた。
だが今はただの後輩。その矛先、本当に人間に向かないと言い切れるのだろうか。そもそもこんな責任を伴う危ないことを子どもに頼むか普通。
そんなことを思うも、普通の子どもはコーチとこんな会話をしないことに司が気付くことは無かった。完全に保護者同士の会話である。
『もちろん俺も一緒に行くし、あいつが暴れたらその時は俺が何とかする』
「っ、」
『子どものお前に頼むことじゃないのはわかっている……ただ、出来れば無理強いみたいなことはしたくないんだ』
「……………………」
ここで司が本当に中学生の子どもならばここまで話は発展してないし、子どもと言われたことにカチンときてやります!と子どもならではの後先考えないお返事があったかもしれない。
しかし残念ながら中身は三十路手前だ。体の年齢に多少引っ張られることはあるが、恩師に頭を下げられている状況の深刻さを正確に把握している大人としての思考が憎い。
そして何より、体の不調や精神的負担等、同じようなことで悩む生徒たちを見てきたからこそ、夜鷹をこのままひとりにさせたくないと言う思いが出てしまう。ひとりにさせていたら、嫌な予感がするのだ。
「……わかりました」
『悪いな……もうすぐ夏休みだろ?夏休み入ったら連絡入れる』
「それまで無事で居てくれますかね。次の土日行きますよ」
『……お前と話してると子どもと言うより優秀な部下を持った気分になるよ』
「褒めてます?それ」
『どうだかな……まぁ、わかった。こっちもすぐに日程調整するから、夜にまた連絡する』
「お願いします」
電話を切ると、そりゃな、と司は思う。
氷の上で幼少期から人生を賭けてきた人間に比べて、司はかなり社会経験をしている方だった。加護の会社でバイトをしていた時に上下関係はそこで学んだし、取り引き先やお客との話術も(バイトなので深くはしてないが)持ち前の元気と若さで失敗しながらも学ぶことは多くあった。
そんな中身のため、高峰と話していると会話がどうも大人寄りになってしまう。物分りが良すぎると言われたこともあった。こればかりは仕方がない。
まあ、それはともかく。
「はぁ〜……もう、何やってんですか純さん……」
やっぱり前とは違う人生だからだろうか。あの夜鷹が、と思うが、元々氷から降りれば不器用な人だ。今までコーチが居ない時はどうしていたのだろうか。
「……ひとり、かぁ」
孤独。この前もこんなことを考えたなと司は考えながら歩き出す。
夜鷹純は、司にとって憧れで、目標で、先輩。それは飽くまで今の司。前の司なら────────そこまで考えて、いいやと首を横に振る。
もう終わった。終わったことにしたじゃないか。自身も、夜鷹も、前の人生に縛られずに生きていこうと。だからあの時追いかけてこなかったんだろう。
胸の奥が痛い。何で今更こんな痛みがするのだと焦りが出る。気付きたくない。自覚してはいけない。でも、夜鷹を放っておくことなんて出来ない。それはもう、そう言うことだろうと認めたくない。
「あ〜っ、もう!!」
あの人のことで悩んでばかり。これじゃあ前の人生と変わらないじゃないかと頭を抱えた。それでも行くけども。
そんなわけで、数日後。
電車に乗って向かった先は東京。夜鷹は現在そこに居るらしく、世界選手権の時は横浜だったがまたコーチを変えて移籍したのかとぼんやり思った。歴代コーチは全員知っている司だが、20歳以降は誰も知らない。自身のことで忙しいし、夜鷹のファンではあるが前のように熱心に追ってはいないからだ。
名古屋も都会の部類だが、東京はその更に上を行く大都会だ。人も車も凄い数。駅はその最たる例で、迷路のように入り組んだ建物と人の波をかき分け、目的の駅で高峰と待ち合わせていた。
「こっちだ、司」
「!、お待たせしました!」
「大丈夫だ。悪いな、休みの日だってのに」
「いえ。心配ですから」
高峰と合流して駅を出てタクシーに乗り込む。しばらく走ると高級住宅街のような、俗に言うタワマンと呼ばれるビルの群れのエリアに入っていた。さすがはオリンピアン、住むところもそれなりだ。
目的の場所で降りると、随分広いエントランスに瞠目しながら高峰の後を着いていく。まるで高級ホテルのような内装に住む世界が違い過ぎると萎縮してしまう。セキュリティも厳しいのだろう、警備員やコンシェルジュを何人も見かけた。
受け付けで話は一応通っているのかロックを解除して貰えたらしい。高峰によると、こう言う時のために信用出来る相手にだけは鍵を開ける許可を出しているのだとか。扱いが完全に保護者である。
「ここだ」
「もう開くんですか?」
「ああ。とりあえずインターホン鳴らすけどな」
あ、そこは普通の家と同じなんだと思いつつインターホンが鳴る。ここに来るまでに何個もセキュリティがあったが、これはどの家にも共通のものらしい。そして、応答は無し。
「……返事無いな」
「入りましょうか」
「ああ。入るぞ、純」
声をかけながらドアを開ける。すると、中から覚えのある臭いが漂ってきた。高峰は思わず鼻を覆い、司はため息をついて中に入り込んだ。
「ゲホッ、くっせぇ!煙草!?」
「あの馬鹿野郎…まだ現役なのに!」
漂ってきたのは煙草の臭いだった。それもかなり充満しており空気が澱んでいる。これには司の口も悪くなってしまう。
換気は愚かカーテンさえ開けていないのか部屋の中は薄暗く、床には破片のような物が散乱していた。ガラスでは無いが踏めば怪我をしそうだと持参してきたスリッパを履いてリビングに踏み込む。
「え……純さん!?ちょっと!!」
「救急車呼んでくる!」
「は、はいっ」
するとそこには、ソファで仰向けに倒れる夜鷹が居た。司が駆け寄り確認すると、眠っている様子では無く意識が無いようで顔色が最悪だった。体もかなり痩せ細っており、びっくりするほど軽い。もっと早く来るべきだったと後悔する。
高峰が外に出て救急車を呼んでいる間に夜鷹に呼びかけるも、目覚める気配は無い。隣には大量の煙草の吸殻があり、慌てて窓を開けた。ただでさえ体に害しか無いのに、こんなに煙で満たされた場所に長時間居れば命に関わる。
「純さん、しっかりして!純さん……!」
「…………」
「いつからこんな事に…お願いですから持ち堪えて……!」
程なくしてコンシェルジュと救急隊員がやって来て、夜鷹は速やかに救急車で病院に運ばれた。同じ救急車に乗って病院に来た司たちは、処置が終わるまで待機していた。
しばらくして病室に案内され、未だ意識の戻らない夜鷹の隣で医師からの説明を受ける。
あと少し遅ければ命に関わるところだったと言われて司も高峰も安堵する。幸いなことに意識を失ってからそこまで時間が経っておらず、煙草の煙もそうだが栄養失調一歩手前の方が問題だったらしい。
しばらく点滴での治療をし、煙草も禁止して療養に入るのだとか。食事のリハビリも随時行えればとのこと。
医師からの説明が終わると、2人して大きくため息を着く。無事では無いが、命に別状が無いとわかり間に合ってよかったと司は泣いた。
「いや本当に、肝が冷えた」
「うぐぅ、よ、よがっだ……!!」
「お前がすぐに行くって言ってなかったら本当に危なかったよ……ありがとうな」
「ごぢぁごぞぉ……!」
「よく頑張ったな」
とは言え、無理もない。司も夜鷹に触れている時、あまりの冷たさに死んでいないか不安で不安で仕方なかった。頼むから連れて行かないでくれと居るかも知れない神様に祈りながらずっと手を握っていた。そして今も握っている。今度は少しだけ、温もりが戻っている気がした。
「俺は純のコーチや関係者に連絡をとる。お前は明日学校だ、今日は帰れ」
「で、でも……」
「どこから情報が漏れるかもわからない。近くに居れば巻き込まれるかもしれない。今日は帰るんだ」
そう、世界で活躍する選手にはメディアも付き纏う。今回のことが世間に知れれば近くに居る司も影響を受けるかもしれない。マンションでの出来事は基本的に秘匿されるが、どこに目撃者が潜んでいるかわからないのだ。スポンサーも夜鷹の行いがイメージダウンに繋がると分かれば即切ってくるだろう。その辺りの恐ろしさは、司も理解している。
高峰に見送られ、司は名古屋に帰った。夜鷹のことは心配だが、司は今は学生。ただでさえスケートに時間を費やしているため、授業にはしっかり出なければ。
「はぁ……」
今日は散々な一日だったなとため息が出る。
何であんなことをしたのだろう。家路につきながら、考える。
前の人生でも夜鷹は煙草を吸っていた。どうして吸うのか聞いたことがあった。本人は、自傷だと言っていた。現役に戻れないようにと。まあ、あまり意味は成していなかったが。
だが、そんな理由で吸っていたものを今始めたと言うことは。前に会った時まで、夜鷹から煙草の香りはしなかった。だから、あの吸殻が今の人生で初めて吸ったものだろう。現役として次のシーズンもあるのに、何故。
「………………」
あんな吸い方、まるで死ぬために始めたようにしか見えない。それが恐ろしくなって、司はまた心臓が痛くなった。
翌日、夜鷹に意識が戻ったと高峰から知らせが来てホッと胸を撫で下ろした。病院で数日治療を受け、週末には自宅療養になると聞いた司は、その日に夜鷹を訪ねることにした。
高峰が一応夜鷹に確認を取ると、返事が無いとのことで、拒否されてないなら行きますとゴリ押して行くこととなった。こう言う時に引き下がってはいけないことを司はよく知っている。
「夜鷹さん、入りますよ」
週末はすぐにやって来て、司は再びあのタワマンに居た。コンシェルジュには先日の騒動で顔を覚えられている為か受け付けもすぐに通して貰えた。話も通っているらしい。
夜鷹の部屋の扉を開けると、まだ少し煙草の臭いがする。吸っていると言うより残り香だろう。あれだけ散らかっていた床は綺麗になっており、入院していた数日で高峰が掃除でもしたのだろうか。
奥に進むと、相変わらず部屋が薄暗かった。しかし、その中に浮かぶじとりと司を睨む目と目が合った。ソファに足を組んで座っており、イラついているのを隠す様子も無く拗ねている子どものようだ。
「何の用」
「……………………」
「……?、聞こえてる…の……」
夜鷹の声を聞いたその瞬間、司はボロボロと泣き出したので睨んでいた目が丸くなる。ポタポタと床に水滴が落ちるので、汚してしまうと目を強く擦るといつの間にか目の前に夜鷹が居て、少し低い体温に包まれた。
そうだ、この匂いこそ司の知る懐かしい匂い。背中に腕を回して抱きしめ返すと夜鷹の心臓が少し跳ねた気がした。その音は生きている証拠。良かった、と目の前の薄い胸板に顔を埋める。
「うぅ、ぐす、ぅぇ…」
「……何で泣くの」
「じゅ、さん、」
「……………………」
「いきてて、よがっだぁ……!!」
嗚咽で上手く言葉が出なかった。しかし、いつものように不機嫌な表情でも、生きている夜鷹の顔を見てようやく心の底から安心したのだ。先週までの死人のような姿はもう二度と御免だと、生きていることを確かめるように司は夜鷹を抱きしめる。相変わらず痩せ細ってはいるが、温かかった。
「し、しんじゃうがど、おもっだんでずよぉ!!」
「………………」
「ほんとに、こわかったんですよぉ!!ばか!!あほ!!」
「…………こわかったの?」
「あたりまえです!!だいじな人があといっぽおそかったらしんでたなんて、想像もしたくないっ!!」
涙でぐちゃぐちゃな顔を見られたくなくて胸に顔を埋めているが恐らく服がぐちゃぐちゃになっているだろう。高そうな服だろうと今ばかりは気を遣う余裕が無かった。
そんな司に夜鷹も少し罪悪感を覚えたのか、背中を慣れない手付きで撫でてくれた。その感触に少しずつ司も落ち着いてくる。そろりと泣き腫らした目で見上げると、夜鷹はいつもの優しい目で司を見下ろしていた。
「…………何で、あんなことしたんですか」
そう聞くと、夜鷹は途端に眉間に皺を寄せて目を逸らした。言いたくないようだった。
高峰から、何故あんなことになったのかを聞いても沈黙を貫いているのを司は知っていた。高峰にも言えないことならば、自分にも言わないだろう。無理に聞くことなんて出来ない。
「言いたくないなら、いいです」
「………………」
「でも、お願いだから…もうあんなことしないでください」
「……うん」
それだけ約束してくれれば充分だ。司はもう一度抱きしめると、パッと離れる。まだ目元は赤いが微笑むと、心なしか夜鷹もホッとしたような表情をしている気がした。
「ところで、食事はとってますよね?」
視線は再び逸らされた。
「夜鷹さん?」
「…………薬は飲んでる」
「その薬、食後ですよね」
「……………………」
にこ…と微笑む司だが先程から目が合わない。只今の時刻午前11時。ちょうど昼食の時間だ。
司は夜鷹から離れて使われた形跡が全く無いキッチンに入ると、冷蔵庫を開く。中はミネラルウォーターとゼリー飲料だけ。振り向くとやっぱり目が合わない。
「買い物行ってきます」
「いらない」
「………………」
「…………僕も行く」
目に涙を溜めて見つめると、渋々と言った様子で上着を手に取り、手を引かれる。司は涙を拭いて、その手を握り返した。
ちなみに昼食はちっちゃいおにぎりだった。手のひらの半分しか無いが、司があーんと差し出したおにぎりを、夜鷹はゆっくりひとつ分、食べ切ったのだ。前の人生ではスプーンひと口でも食べた方なのに、と司はまた泣いた。
to be continued……?
後書きのようなもの
お疲れ様です、続きました。気力の続く限り頑張ります。多分。
適当な設定↓
司くん
とりあえず大会頑張ろう!と意気込むが地区も全国もアッサリ優勝。ええ〜!?と思いつつも前世の経験値と若い体で無双出来ないわけ無いんじゃ。
夜鷹のことはもう未練にしたくないから距離を置きたかったが、憎んだり傷つけたりしたい訳では無いのでグイグイ来られて困っている。ただ、前のような恋慕は今はほぼ無く、ただ友人として心配の方が勝っているため放っておけない。お互い今の人生を謳歌しましょうよと思っている。
夜鷹さん
さぁ〜〜〜〜〜盛大に拗らせているぞ!!頑張れ司くん!!近くなったり遠くなったりで情緒が乱高下している。強く生きて欲しい。
高峰先生
夜鷹さんが何かする度に胃が痛い。現在は娘と司くんのコーチしかしてないのに何だかんだ夜鷹さんを気にかけている。司くんの異質さに気付いているが、孤独になるタイプの異質さでは無いため様子見している。どちらかと言うと夜鷹さんに関わる方向で大丈夫かなと心配。大正解。
加護家※2025/5/25追記
大変申し訳ないことに羊さんの生まれた年を勘違いしており、原作より2年ほど早くなっております。もう書いちゃったので羊さんはいのりさんたちよりお姉さんと言うことでゴリ押します。原作ではいのりさんたちと同い歳です。やっちまった。
ちなみに司くんはほぼ毎日病院に通っており、羊さんだけでなく芽衣子さんの様子を見に行っている。耕一さんもそのことにとても感謝しており、メダルを取るといつも一番に届けにくる姿は病院でも有名。
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