テラーノベル
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八年後・・・
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【韓国・ソウル市・ワールドコリアン放送局】
「ミュージ―ック!BOM~~♪」
「ミュージ―ック!BOM~~♪」
ソウルの巨大な放送局の建物、その一角にある音楽番組「ミュージックBOM」のセットは、まるでキャンディのようにカラフルで、ピンクとイエローとブルーの幾何学模様が視界を埋め尽くす
眩しいLEDライトが天井から降り注ぎ、床まで届く光の柱は、まるでこの場所が現実から切り離された異世界であるかのように錯覚させる
「さて! お次の出演者は、今やアジア人気No.1のロックグループ『ブラック・ロック』の皆さんでぇ~す!」
総合司会者の『キム・ヨン・ドン』が、まるで子供向け番組のテンションで叫んだ。50歳を過ぎても変わらぬ明るい声と、過剰なジェスチャーで、ヨンドンのトレードマークである赤いスーツが、ライトに反射して目に痛い。隣に立つマンスリー司会者のアイドル『ユナ』は、ピンクのミニドレスに身を包み、愛らしい笑顔で拍手をしながら続ける
「ブラックロックの先週リリースされた新曲『リベラル!』が、早くもビルボード5位にランクインされていますね! これはなんと、アジア最短記録だそうですよ!」
ユナの声は、まるで事前にリハーサルされたかのように完璧な抑揚で響く、彼女の後ろでひな壇に座るブラック・ロックのメンバーたちが、カメラに向かって深々とお辞儀をした
そのメンバーの中に力がいた、力もまた、微笑みを浮かべながら頭を下げる
だが、その笑顔はどこか硬い4Kの高性能カメラが、10台以上もセットの周囲に配置され、力達メンバーの一挙手一投足を、毛穴のひとつまで逃さず捉える勢いでレンズを向けていた
力は、ひな壇の中央に長い脚を組んで座って微笑んでいた、『ブラック・ロック』のリードボーカルとして、彼の存在感は自然と際立ち、黒いレザージャケットに、ダメージジーンズ、首元にはシルバーのネックレスがゴージャスに光る・・・
10年前、大学の軽音楽サークルで仲間と騒々しくギターをかき鳴らしていた頃のあの可愛らしい面影は今や遠い記憶の彼方で抹消されている
30歳になった力は、ワールドアジアで最も注目されるロックバンドのフロントマンとして、このまばゆいスタジオに出演していた
ヨンドンがマイクを握り直し、力に視線を向けた
「リードボーカルの力さんに視聴者からのご質問です! 力さん、お休みの日は何をしていますか?」
質問はあまりにも平凡で、力の胸に一瞬の苛立ちが走った。この番組はいつもこうだ、表面的な質問、予定調和の答え、そして視聴者を喜ばせるための過剰な演出、力は微笑みを崩さず襟に浸けられている高性能ワイヤレスマイクが声を拾う様に言った
「寝ています」
一瞬、スタジオが凍りついた。スタッフの動きが止まり、司会者のヨンドンの笑顔がわずかに引き釣り、隣のアイドルユナの目が戸惑いで揺れた。カメラマン達の間でも、困惑した視線が交錯する、力の声は穏やかだったが、その言葉には、どこかこの場を拒絶するような響きがあった。
「アハハハ! 俺が答えるよ!」
すかさず後ろから、ブラック・ロックのリーダー兼ベーシストの「拓哉」が、力の肩に手を置いてマイクに割り込んだ
拓哉の声は明るく、まるでこの場の空気を一瞬で塗り替えるような力強さがあった
「俺らメンバーはとても仲が良いんだ! 休みの日も、当然いつも一緒にいるよ! 先週はみんなでバーベキューをしたよ! 韓国牛とカルグクスをみんなで食べて、めっちゃ美味かったよ! それから、みんなで曲作りをしたんだ、とてもはかどったよ!」
拓哉の言葉に、ヨンドンが安堵の笑みを浮かべた
ユナも手を叩きながら「わぁ、素敵!」と声を弾ませる、だが、力の目の前では、スタッフが手書きのテロップを掲げていた、白いボードに、マジックで乱暴に書かれた文字が力達の目に入って来る
『もっと韓牛の良さをアピールしてください』
ヨンドンが驚いたような声で続ける
「おおっ! 韓牛の美味しさを分かるとは、皆さん日本からいらしたのに通ですね! 私も韓牛は大好きですよ! とくにあそこの・・・」
そこから、拓哉とヨンドンの韓牛トークが止まらなくなった、拓哉はまるで台本を暗唱するように、韓牛の部位ごとの美味しさや焼き方のコツを語り始める。ヨンドンも負けじとソウルの有名な韓牛レストランの名前を次々と挙げていく、その横で力はただ、人形のように微笑みを浮かべたまま、黙ってその光景を見ていた
生放送の番組は、そのまま韓牛のCMに突入した。画面には、ジューシーな肉がグリルで焼かれる映像が流れ、ナレーションが「韓牛の美味しさ、世界へ!」と高らかに宣言する
スタジオの関係者はCM中も拍手を続け、スタジオの隅に立つプロデューサーは、イヤホン越しにスタッフに指示を出しながら、満足げに頷いている。その隣では、スポンサーのロゴが書かれたボードが無言で立っていた
スタジオのライトが、再び力の顔を照らす、CMが終わり番組が再開する、ヨンドンの声が、スタジオに響き始めた
「さあ、ブラック・ロックの皆さん! 次は新曲のパフォーマンスです! 準備はいいですか?」
「この番組はライブストリーミングを通じて全世界24カ国で同時放送されます!詳しくは(ミュージックBOM)の公式YouTubeの詳細をご覧ください」
「ブラック・ロックの皆さんは八月から新アルバムを引っさげてワールド・ツアーがはじまります!楽しみですね!」
司会者が自分達のスケジュールを紹介している内に力達はセットに向かい、ステージのマイクを握った、カメラが彼の顔をクローズアップする
大学卒業から10年・・・
夢は現実となり、しかしその裏側には、力の心を静かに蝕む何かがあった
10年前・・・大学の仲間と笑いながら曲を作っていた頃の記憶がふと蘇る。あの頃の力は、音楽が全てだった
純粋にただ歌うことが好きだった、だが今彼は成功の頂点に立ちながら、どこか空虚なものを感じていた、このスタジオの光も、カメラのレンズも、観客の歓声も、全てが嘘のように思えた
力は深呼吸し、微笑みを浮かべた
この世界が嘘だとしても音楽だけは本物だ
彼はそう信じたかった
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夜のソウルは、ネオンの光が空を切り裂くように輝き、街全体がまるで巨大なステージのように脈打っている、その中心に溶け込む様に「力」がいた
韓国から発祥の世界最大の芸能会社「ファイブ」から彗星のごとくデビューを果たし、今や世界を席巻するロックスター、力率いるロックバンド「ブラックロック」は
動画配信を通じて音楽シーンに革命を起こし、今や世界中の若者達の心を掴んで離さない、力の声は高音を得意とした(天然水ボイス)とファンの中では神聖化され、彼のギターの音色はまるで雷鳴のように聴衆を震撼させた
来月にはアジアを皮切りにワールドツアーが控えており、チケットは発売開始数分で完売、世界中のファンが彼らの名を叫び、その一挙手一投足を追いかけ、ツアー観客動員数の予測は会社始まって以来の数だ
その日の夜、テレビ局の地下駐車場は、緊張と喧騒の空気に包まれていた
黒光りする高級バンがずらりと並び、スタッフ達が慌ただしく動き回る中、ブラックロックの新任のマネージャー「ジ・フン」が力とメンバー達を前に立っていた
小さな彼の肩には、グローバルスターを支える大役の重責がのしかかってかなり緊張している
「は・・・初めまして! 今日から皆さんのマネージャーとして、お世話をさせていただきます! ジ・フンと申します!」
ジ・フンの声は緊張でわずかに震えていたが、彼は深々と頭を下げ、誠意を込めて挨拶した
目の前には、「ドラムの誠」「キーボードの海斗」そしてベースの拓哉とギターの力の4人
ブラックロックのメンバー達は、それぞれが個性的なオーラを放っていた。誠は優しくジフンに微笑み、海斗は気さくにニヤリと笑い、拓哉は軽いノリで手を振った
「うぃ~す」
「よろしくぅ~」
メンバーの挨拶はどこか気楽でパラパラと返ってきた、だが力だけは静かだった、彼は黒いレザージャケットに身を包み、鋭い目つきで遠くを見つめていた
その存在感はまるで周囲の空気を支配するようだった、ジフンは一瞬、力の出すオーラに圧倒されそうになりながらも、気を取り直して指示を続けた
「それでは皆さん、各自、送迎車に乗り込んでください! テレビ局の前はファンが大勢集まっていてかなり混雑しています、こちらの車に誠さんと海斗さん! そして、こちらの車に力さんと拓哉さん!」
メンバーはそれぞれ指定された黒いバンに乗り込んだ、車内は高級感漂う革張りのシートと、ほのかに香るアロマで満たされていた、力は後部座席に腰を下ろし、窓の外をぼんやりと眺めた
隣に座った拓哉はいつものように軽い調子で話しかけてきたが、力の反応はそっけなかった、彼の心はどこか別の場所にあるようだった
テレビ局の正面玄関を出た瞬間、けたたましい叫び声が夜の空気を切り裂いた
「キャー! りきーー!」
「海斗ぉ! 愛してる!」
「誠! こっち見て!」
「たくやぁー!たくやぁー!」
数百人ものファンがテレビ局の入り口に殺到していて大混乱だ、スマートフォンを握りしめた若者達、力の名前が書かれたプラカードを掲げる熱狂的なファン、カメラを構えたパパラッチ達のフラッシュが瞬き、叫び声が重なり合い、まるで災害のような喧騒が巻き起こっている
「危ないですから、道路の端に寄ってください!」
テレビ局の守衛が大声で叫び、警備員たちがバリケードを強化しようとしていたが、ファンの熱気は収まる気配がなかった
彼らは一目でもブラックロックの姿を見ようと、押し合いへし合いしていた。ある少女は涙を流しながら力の名前を叫び、別のファンは自作の応援グッズを必死に掲げていた。その光景はまるで宗教的な儀式のように熱狂的だった、このままでは怪我人が出る勢いだ
バンがゆっくりと駐車場から出てくると、ファンの叫び声は最高潮に大きくなった。拓哉は後部座席のスモークガラスを少しだけ下げ、満面の笑みで手を振った
「みんなありがとー!気を付けて帰ってねー!」
彼の声に応えるように、ファンの歓声が一層高まった、ファンサービスが得意な拓哉の明るい笑顔と気さくな態度はファンに愛される理由の一つだった。しかし隣に座る力は無言だった、彼は窓の外を見つめ、熱狂する群衆を静かに観察していた
「力! ファンの前では笑え!」
「頭が痛いんだ・・・」
肘で軽く小付く拓哉に力が言った、堅苦しい表情のまま、力は窓の外のファンたちに向かって軽く頭を下げた
ファンの一人がその瞬間をスマホに捉え、SNSに投稿した
―力はなんて謙虚なんだ! あのペコリ可愛い!―
―やっぱり二人は同じ車に乗ってるのね!―
―あの二人は間違いなくデキてる!―
―Ojigi!!日本の文化!尊い!!―
その投稿は瞬く間に拡散され、数分で何千もの「いいね」とコメントを集めた、力のさりげない仕草一つでさえ、世界中のファンを熱狂させる力があった
バンは騒々しいテレビ局を後にし、夜の国道へと滑り出した、ソウルの街はビルの隙間から漏れる光と、行き交う車のテールランプで彩られていた
車内は一転して静かだった、拓哉はスマホをいじりながら鼻歌を歌い、運転手は黙々とハンドルを握っていた、力は窓に額を寄せ夜景を眺めていた・・・
彼の瞳には、どこか遠くを見つめるような影があった、ジフンは助手席から振り返り、力に話しかけた
「力さん、拓哉さん、明日のスケジュールですが、朝9時からラジオの収録、11時から雑誌のインタビュー、午後はMV撮影のリハーサルがあります。問題なければこのまま進めますがよろしいでしょうか?」
「オッケー!7時に起こしてね!ジフン!」
拓哉が言った、ジフンが力を見つめる
「力さん・・・頭痛お辛そうですね・・・お薬を飲みますか?」
「うん・・・鞄の中の鎮痛剤取って、ジフン」
力の声は低くどこか疲れているように聞こえた、ジフンはすぐに力のボストンバッグの中から鎮痛剤を探してペットボトルの水と一緒に力に渡した
ああ・・・頭が痛い・・・これ吐かないと治んないヤツだ
力はズキズキする痛みを紛らわそうと再び窓の外に視線を戻した。国道を走る車の振動が彼の心を微かに揺さぶっている
ワールドツアーまであと1か月・・・それまでに新しいアルバムと新人歌手の編曲を仕上げなければ・・・
ツアーはアジア、ヨーロッパ、北米、南米と、世界中のステージで何万と言う聴衆の元で力の歌声が響き渡る、だがその重圧は彼の心に重くのしかかっていた
去年のツアーでは2か所目の現地で高熱を出した、五か所目のスタジアムで声を潰した、そして約10か月に渡る世界横断に体力を消耗したメンバーが順番に病に倒れた、それを思うと今度は何が起こるやら・・・
ギュッと力は目を強く閉じ、早く先ほど飲んだ鎮痛剤が効いてくれることを願った
韓国は江南にある高級マンション「エテルノ清潭・グランデ」の地上20階のペントハウスに住む力と拓哉は、広大なエントランスにあるレベーターを待っていた
「悪いね!ジフン!荷物を持ってもらって!」
力と拓哉の衣装が入った重いバッグを両肩に担ぎ
息をハァハァ荒げている坊主頭で小柄なジフンに言った
「いいえ!これぐらい大丈夫です!お二人のお部屋までお運びします!」
「ありがとう!」
銀縁眼鏡のジフンの視線が、こめかみを抑えて大理石の壁にもたれている力へと移った、力の顔は青白く、額には汗が滲んでいた
「・・・力さん・・・頭痛大丈夫ですか?」
ジフンの声には心配が滲んでいた、拓哉が肩をすくめ冗談めかして言った
「こいつ、頭痛持ちなんだよ! 毎日何度も鎮痛剤飲んでるぜ、俺が思うに薬物乱用頭痛だな!、鎮痛剤が次の頭痛を誘発してるんだ、一旦薬を全部やめろとずっと言ってるのに」
「だって痛いんだからしょうがないだろ!」
力が苛立ちを隠さず言い返した
「まぁまぁ・・・」
ジフンがなだめようとした時エレベーターの扉が静かに開いた、三人は力と拓哉の住居の最上階、20階へと向かった
エレベーターの中は鏡張りの壁が三人の姿を映し出していた、力は目を閉じただ深呼吸を繰り返す、拓哉はスマホをいじりながら鼻歌を歌い、ジフンは緊張した面持ちでバッグを握りしめていた、エレベーターが20階に到着すると、拓哉が明るく言った
「それじゃ、おつかれさぁ~ん!」
力の向かいの部屋に住む拓哉は、軽い足取りで自分のドアに向かった、このペントハウスは、ブラックロックの所属事務所「ファイブ」が用意したものだった、だがどんな高級マンションも、スタジオに一日の大半籠りっきりの今の力には、ただ寝に帰るだけの場所に過ぎなかった
「おつかれ~」
力がカードキーをドアノブに差し込んだ瞬間、動きが止まった
「・・・?」
「どうしましたか、力さん?」
ジフンが不審そうに尋ねた
「・・・鍵が・・・開いてるんだ」
力の声は低く、警戒心に満ちていた ・・・向かいのドアを開けかけていた拓哉が振り返り、眉をひそめた、三人は顔を見合わせ、慎重に力の部屋のドアを押した
拓哉が力の部屋に先に進み、壁のスイッチを押すと部屋にパッと明かりが灯った
「そんな・・・酷い!」
ジフンが思わず叫んだ、部屋はまるで嵐が過ぎ去った後のように荒れ果てていた、テレビの横の収納棚は全開になり、服や日用品が床に散乱していた
キッチンの冷蔵庫は開けっ放しで、中の飲み物が倒れ、床に水たまりを作っていた、トイレのドアも全開で、タオルが無造作に投げ出されていた
最も酷かったのは寝室だった、力のベッドはシーツが剥がされ、マットレスが斜めにずらされていた。クローゼットは全開で中身は空っぽ、力の服のほとんどがなくなっていた
「ど・・・泥棒! 警察に!」
ジフンが慌ててスマホを取り出し、電話をかけようとした
「あー・・・かけなくていいよ、ジフン」
拓哉がため息をつき、静かに言った、力も頭痛を堪えるように頭を抱え、ソファーにゴロンと寝転んだ、ジフンは困惑した顔で拓哉を見た
「そんな! どうしてですか?」
拓哉は肩をすくめ、疲れたように答えた
「犯人は誰かわかってるからさ、実は・・・これまでも何度も俺達の物が盗まれてるんだ」
「え・・・?」
ジフンの目が見開かれた
「俺たちのファンだよ、主に下着とか・・・トイレットペーパーとか」
拓哉の声には諦めが滲んでいた
「だから貴重品や金目のものは、俺達家に置かないようにしてるんだ」
「僕の大切な音楽データも会社の僕専用の音響室にあるしね、この家にはそれこそ着替えぐらいしか盗られるものはないんだ」
自分の家に空き巣が入ったのにも関わらず、力と拓哉はとても落ち着いていて、ジフンは信じられないと声を荒げた
「そんな! どうしてファンがそんなことができるんですか!」
力がソファから身を起こし、低い声で言った
「君も僕達のマネージャーとして関わることになったんだから、知っておいてほしい、これは全部・・・(サセン)の仕業だよ」
「(サセン)・・・?」
初めて聞く単語に呟くジフンに拓哉が説明する
「(サセン)ってのは、ミュージシャンやアイドルのプライバシーを侵害し、私生活まで追いかけ回す過激なファンのことだな、一般的なファンとは違う、俺達の個人情報を売買したり、私生活に干渉したり・・・とにかくファンなら犯罪まがいの事をしてもいいと思ってそういう行動を取る過激な連中のことさ」
寝室でクローゼットの中を点検していた力がリビングに戻って来た、そこへ拓哉が声をかけた
「何盗られた?力?」
「カルバンクラインのパンツ・・・10枚、新品のやつ、それと、洋服何着か・・・トイレットペーパーと歯ブラシ、マウスウォッシュ」
力の声は淡々としていたが、その裏には深い疲弊が感じられた
「うえ~!それを盗んで今頃何をしてるか想像したくないな」
舌を出して目を回す拓哉
「するなよ!」
と力・・・拓哉が苦笑いしながら言った
「ヤツらは金目の物や音楽関係のものじゃなく、力が普段身に着けてるものを欲しがるんだ、変態的だろ?」
力はふぅと大きく息を吐き、ソファーに戻って頭を抱えた
「とりあえず会社に連絡してくれる? ジフン、ここの住居がやつらにバレた、また引っ越さなきゃ」
拓哉が付け加えた
「もうホテル暮らしでいいよ、わざわざマンション借りなくてもさ」
「ジフン・・・知って置いてほしんだけど今度のツアーも必ずヤツらは着いてくる、だから警備を厳重にしてくれと会社に伝えて!」
「去年のツアーも散々だったぜ!同じ飛行機に乗り合わせたりしてさ!会社に稼いでるんだから今度はプライベートジェットにしてくれって言っとけ!」
そういう二人にジフンはまだ事態を飲み込めない様子で、震える声で尋ねた
「そっ・・・そんな! どうして皆さんが飛行機に乗る情報までサセンは知ってるんですか?」
力と拓哉が声を揃えて答えた
「会社にサセンがいるんだよ、俺たちの搭乗情報を売ってる、このマンションのオートロックナンバーもそうだな、会社も捜査してるんだがなかなか尻尾を出さないんだ、これが」
信じられないとばかりにジフンは首を振った
頭痛が限界に達した力が顔を歪め、口を押えて体を曲げた
「おえ~~~!」
力は変な声を上げて床に嘔吐してしまった
「うわ!~!力さん!」
ジフンが慌てて駆け寄った
「バカ! トイレで吐け!」
拓哉が叫びながらティッシュを手に取った
「トイレだよ!!」
力は床に膝をつき苦しそうに呻いた、ジフンは涙目で力の背中をさすりながら思った
どうやら自分は大変な大スター達の、お世話をすることになってしまったと・・・
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