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泣かせにこんといてもろて☆
やば …… いままでで いっちゃん好きかも …… 何も残らなかったっていう 表現が とてつもなく好き 🫶🏻
この前言ってた物語きた~!!🥹💘 白羽ちゃんのストってほんと儚げで、すこ💬🎀
『俺は感情のない実験体に恋をした』
白い部屋は、いつ来ても静かだった。
音を吸い取る壁、
規則正しく点滅するランプ、消毒液の匂い。
そして、ガラス越しに座る彼女。
「今日の体調はどう?」
俺がそう聞くと、
実験体は少し首を傾げてから答える。
「問題ありません。心拍、体温、すべて基準値内です」
感情を教えられていない存在。
痛みは分かるのに、悲しいとは言わない。
笑顔の筋肉は動かせるのに、
楽しいとは思わない。
それなのに俺は、
その無機質な声が、目線が、呼吸の間が、
どうしようもなく愛おしかった。
「“好き”って、どういう意味ですか」
ある日、彼女はそう聞いてきた。
マニュアルにはない質問だった。
「……大切で、失いたくなくて、そばにいたいって思うこと」
言葉にした瞬間、胸が痛んだ。
それを教えていいのか分からなかったから。
「なるほど。では」
彼女は俺を見て、少し考える仕草をする。
「私はあなたを失いたくありません。それは“好き”ですか」
心 拍が跳ね上がる。
アラームが鳴りそうになるのを、必死で抑えた。
「……そうだよ」
感情が芽生え始めてから、
彼女の数値は少しずつ不安定になった。
脈拍の乱れ。
視線の遅れ。
俺が来ない日の活動量低下。
研究員たちは言った。
「異常です」
「失敗作です」
「感情は不要だった」
処分の日が、近づいていた。
「 ねえ」
最後の日、
俺は規則を破ってガラスの中に入った。
彼女は驚いた顔をして、それから__
ぎこちなく、笑った。
「この反応は、
あなたを見ると頻繁に起こります」
「胸のあたりが、少し苦しいです」
俺は答えられなかった。
代わりに、手を伸ばした。
「これは何ですか」
「……触れてるだけだ」
「そうですか」
彼女は、少し間を置いて言った。
「私はこの状態が、好きです」
数値は限界を超え、
警告音が鳴り響いた。
「実験体、感情発生を確認。これ以上は__」
俺は彼女の手を握ったまま、離さなかった。
「ありがとう」
彼女は、
最期まで理解できない言葉を使って、
それでも確かに__
“誰かを想う存在”として、消えた。
白い部屋には、何も残らなかった。
ただ一つ、
感情を持たなかったはずの実験体が、
俺の心にだけ、確かに生き続けている。