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一次創作

1 - 『俺は感情のない実験体に恋をした』

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2026年01月17日

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『俺は感情のない実験体に恋をした』










白い部屋は、いつ来ても静かだった。

音を吸い取る壁、

規則正しく点滅するランプ、消毒液の匂い。



そして、ガラス越しに座る彼女。




「今日の体調はどう?」


俺がそう聞くと、

実験体は少し首を傾げてから答える。




「問題ありません。心拍、体温、すべて基準値内です」





感情を教えられていない存在。


痛みは分かるのに、悲しいとは言わない。


笑顔の筋肉は動かせるのに、

楽しいとは思わない。




それなのに俺は、

その無機質な声が、目線が、呼吸の間が、

どうしようもなく愛おしかった。




「“好き”って、どういう意味ですか」



ある日、彼女はそう聞いてきた。

マニュアルにはない質問だった。





「……大切で、失いたくなくて、そばにいたいって思うこと」





言葉にした瞬間、胸が痛んだ。

それを教えていいのか分からなかったから。





「なるほど。では」






彼女は俺を見て、少し考える仕草をする。




「私はあなたを失いたくありません。それは“好き”ですか」





心 拍が跳ね上がる。

アラームが鳴りそうになるのを、必死で抑えた。






「……そうだよ」





感情が芽生え始めてから、

彼女の数値は少しずつ不安定になった。




脈拍の乱れ。

視線の遅れ。

俺が来ない日の活動量低下。




研究員たちは言った。




「異常です」

「失敗作です」

「感情は不要だった」





処分の日が、近づいていた。





「 ねえ」





最後の日、

俺は規則を破ってガラスの中に入った。



彼女は驚いた顔をして、それから__


ぎこちなく、笑った。




「この反応は、

あなたを見ると頻繁に起こります」

「胸のあたりが、少し苦しいです」





俺は答えられなかった。

代わりに、手を伸ばした。





「これは何ですか」





「……触れてるだけだ」





「そうですか」





彼女は、少し間を置いて言った。





「私はこの状態が、好きです」






数値は限界を超え、

警告音が鳴り響いた。





「実験体、感情発生を確認。これ以上は__」





俺は彼女の手を握ったまま、離さなかった。





「ありがとう」





彼女は、

最期まで理解できない言葉を使って、

それでも確かに__





“誰かを想う存在”として、消えた。





白い部屋には、何も残らなかった。



ただ一つ、

感情を持たなかったはずの実験体が、

俺の心にだけ、確かに生き続けている。


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コメント

9

ユーザー

淡くて綺麗でめっちゃ素敵ですね

ユーザー

泣かせにこんといてもろて☆

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