数日後
「…第六魔牙と第七魔牙が負けたって本当なの?」
「えぇ、コインを奪われたのは少し痛いですが、平気でしょう」
大きな扉を開けたアビスさんと話をする、そろそろ…
「全面戦闘、ですね」
「えぇ、ぐれぐれも死なずに」
アドラ寮とのコイン争奪戦、2人の敵を取ってやりたい所だがそこは分断するワースの意思によって変わる、念の為扉の僕の石化魔法を掛けた
「アベル様が神格者に成れば、きっと見つかる…」
お願いだから早く見つけてくれ、そう願う日々だった、もしあの方が神格者に成れば数多くの魔法が知れる、そしたらきっと石化を解く魔法があるはずだ
マイロの寮
自分の寮に戻ると彼が居た、彼は僕を見ると本を置いて口を開いた、でも声が聞こえない
(声が詰まるってこんな感じなのかな?)
そう思いながら自分の机に置いてある本を手に取り寮を出ようと扉に手を掛ける
「いっ…」
彼が何かを言いかける、振り返り彼を見ると伸ばした手を戻して目を伏せた、そんな彼を横目に寮から外に出た
彼は何を言おうとしたのだろう、何を言うにしても今は話が出来ない、早くこの呼び名を返上したい
「なんで僕が…こんな目に…」
涙が溢れてきた、閉じた扉の前に座り込んで杖を握りしめて下を向く、悔しくて悔しくてたまらなかった
「また正面から向かって話せるかな…?」
そう呟いて立ち上がり、また特訓に励む為校庭に向かった
校庭
校庭に向かうと木が揺れる、風が僕の帽子を飛ばすと遠くへ行ってしまった
「あ、待って!」
杖を握ったまま追いかける、運動はあまり得意ではないため全く追いつけない
「これ、君の?」
ツルの魔法で高い位置にある帽子を取って返してくれた彼は赤っぽい髪とうねうねしたアザの男の人だ、同じレアン寮のローブを来ている
「ありがと、助かった」
そう言い帽子を受け取ると彼の目がこちらに向いていると気づいた
「それ、大事なのかい?」
「うん、僕の宝物」
そう言って帽子を自分に被せて彼を見た、よく見ても見なくても顔立ちが整っている事がよくわかった
「名乗ってなかったね、僕はシュエン・ゲツク、君は?」
「僕は七魔牙の第四魔牙、マイロ・ジェーニアス」
「あー!君か!」
「…?」
シュエンは何かに気づいたように僕の顔を見た、こうも人を見上げると首が痛い
「ワースから話聞いたよ!一年生でそれならいつか神覚者にだってなるかも…」
「いいえ、神覚者にあたるのはアベル様のみ、僕は彼の下に着いたから」
僕の目は彼にどう映って居るだろうか、呪いか、恐怖か、そんな事を考えると彼が笑った
「目、綺麗だな、まぁ僕には劣るけどね!」
褒めてるのか貶してるのかわからなかったけど、なぜか父上の大きな暖かい手を思い出した、嬉しかった
「…ありがと」
そう言って僕は彼から離れて行った、あまり仲良くなっては迷惑をかける
ー夜中、レアン寮ー
広い部屋でラブと立ち尽くす、そろそろ来るはずだと思って天井を見つめる、何にも無い
「第四魔牙の魔法ってさ、石化魔法でしょ?今のうちに行っておいた方がいいんじゃないの?」
「…二本線相手だったら石化魔法を諦めて共闘、一本線なら石化魔法に時間をかける予定だよ」
話す第五魔牙にそう返すと彼女は僕の方を見てきた、僕も見つめ返す
「ラブちゃんは強いの!気にせず石化魔法に専念すればいいの!」
「でもさ…」
僕が言いかけると彼女は頬を膨らませ僕に向かって怒ったような言葉を発する
「あーもう!それ以上そんな事言ったら私がピンチの時は適当にマイロの事売るから!」
「そうだね、それがいい」
そんな風に返事をすると少し彼女が不貞腐れている気がした、でもそれがいいのは事実だ
(…あーあ、利用するって決めたのに)
そう思った時には天井の一部が泥になった、ワースの魔法だ
「来たの、」
「わかってる」
落ちてきたのは赤髪でバンダナをつけた奴とどこかで見たような髪色をしたそばかすの奴、どちらも一本線だから僕は石化魔法に専念しよう
「…じゃあ後は頼んだよ」
「りょー!」
笑顔で返事する彼女は僕にとってどれだけ美しいだろう、今から死ぬかも知れない、人を殺すかも知れないのに
物陰に隠れ魔力を込める、彼女は…ラブは勝てるだろうか、あいつらを殺しはしないだろうか、アビスやワースは戦えているだろうか、誰とどのように戦っているのだろうか、そんな事ばっか考えてしまう
僕は役に立てるのかな?足を引っ張ってるんじゃないか?今からでも助太刀に行くか?2人であいつらを倒してから石化魔法を使う方が懸命か?それとも時間を優先するか?
「どうすればいいかわかんない…」
何をするのが正解なのか、このままでいいのか、行き場の無い苛立ちと悔しさでいっぱいだった、涙声の僕の隣には誰も居ない
暖かくて大きな手も、力があると認めてくれる声も、僕の事をわかっている強い彼女も、僕の思いを知っても第四魔牙の名をくれた美しいあの方も、酷い事を言っても近くに居ようとしてくれた仲間も、みんな戦ってる中こんなことをしていて良いのだろうか
大きな爆発の音が響いた、あいつらの魔法だろうか、怖くなって石化を諦めて物陰から走り出し彼女の元へ向かった
EP5 全面戦闘
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