テラーノベル
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冷たい汗が背中を伝う・・・警察が私と康夫のパソコンとスマホを押収した瞬間、部屋の空気が一気に重くなった
捜査官が庭の足跡や切り裂かれた区間のフェンス、二階の窓から見える空き地の木の下に散らばる菓子袋やジュースの空き缶を見つけたと告げた時、胸の奥で何かが締め付けられるような感覚がした
誰かが――この家を、ずっと観察していた・・・私の家を・・・私の家族を
心臓がドクドクと暴れ出し、頭の中が真希ちゃんの笑顔で埋め尽くされる、 初めは警察の無能さを罵り、「探偵を雇った方がマシだ」と息巻いていた康夫は、スマホとパソコンを押収された途端、静かになった
まるで何か隠したい秘密を抱えているかのようにムッツリと黙りこくっている
「だから、SNSに家や子供の写真を載せるなって言ったんだ・・・」
康夫の声は震えて怒りに満ちていた
「晴馬の写真は載せてないわ」
「真希とかいう女、ずっとお前のインスタ見てたんだろ? 仲良くなったって? そんな得体の知れないヤツ! 家も子供も特定されてたんだ! ずっと狙われてたんだよ、ソイツは小児性愛者だ!」
康夫の言葉が部屋に響いて胸を刺す、あの真希ちゃんが?私の晴馬に妙な感情を持っているの? その時ドアが静かに開き、細川捜査官が冷ややかな目で入ってきた
「小児性愛者は一定の年齢の子供に関心を持ちます、生まれたての赤ん坊は対象外です」
その言葉に、康夫はグッと息を呑みこんで黙り込んだ、私は凍りついたまま、捜査官の次の言葉を待った
「生まれたての赤ん坊を攫う女性は、むしろ自分が産んで育てたいという願望が強いです、しかし、それが叶わない場合、人の赤ん坊を盗む――それが筋の通った推測です、我々は晴馬ちゃんは今、危害を加えられるどころか、どこかで大切に育てられていると見ています」
「なんでそんなことが分かるんだ!」
康夫が声を荒げる
「ちょっと、康夫!」
私は咄嗟に彼を制したが、頭の中は真希の笑顔と、晴馬の小さな手でいっぱいだった、細川捜査官の声は淡々と、しかし鋭く続いた
「伊藤真希の背景報告が上がってきました、現在、警視庁で彼女の母親が重要参考人として事情聴取を受けています、伊藤真希は15歳のとき中絶手術を受け、その後遺症で20歳の時に子宮筋腫による子宮全摘出手術を受けています」
「え?」
私はその言葉の意味を理解できず・・・ただ呆然と捜査官を見つめた
その瞬間、脳裏に真希の姿が浮かんだ、お腹を大きく膨らませ、笑顔で一緒にマタニティ・ヨガを受けたあの頃・・・
「だって・・・真希ちゃんは、私の帝王切開の一週間前に・・・自分の子を産んだって…」
「あなたに送られてきた画像は、病棟と本人の合成写真でした」
その言葉が、氷のように心を突き刺した、
合成写真? 真希ちゃんが私に嘘を?
親友だと思っていたあの笑顔が、すべて偽物だった? 頭がぐらぐらと揺れ、視界が滲む。
「彼女は、高校は有名進学校を首席で卒業しています、大変頭の良い女性です。しかし、推薦で大学に進めたにもかかわらず、高校卒業後は一人暮らしでフリーターをしています。母親の証言では、彼女は13歳のときに発達障害の診断を受けています」
「で・・・でも、進学校を首席って・・・」
私は掠れた声で呟いた、真希ちゃんのいつもの私の愚痴に的確なアドバイスをくれる姿が、急に別の意味を持ち始めた
「発達障害の特性は多岐にわたります、彼女の場合、学習に必要な暗記力や反復学習には突出した才能を示しますが、対人コミュニケーションの感覚が欠如しています。場の空気を読んだり、相手に合わせた同調意識、そういったものが一切ありません、そして人の言葉を杓子定規に真に受け取る傾向が強く、その特性から、今回の彼女の行動を予測できます」
細川捜査官の言葉に雷に打たれた様な衝撃が走った
私、何を言っていた? 真希ちゃんに・・・いつも何を話していた? 晴馬が「うっかり出来た子」だとか、康夫との結婚を後悔しているとか・・・いつものママ友への愚痴と同じように、つい口に出してしまった、ママ友達とはどんなに夫や姑の悪口を言ってもそこで終わっていた、だってみんな立場は一緒だから
そして和樹との事を泣いて訴えた時、彼女が「ロシアンルーレットみたいだね」と笑ったのは、ただの冗談じゃなかった・・・彼女は私の言葉を全て冷たく計算しながら聞いていたんだ
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