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「そういえば僕、隠れ場所探す時にクッキーの瓶見つけたんですよ!」
そう言いながら天球儀さんは自身の左手を指差すが、そこには何も無い。
「は?」
カメラさんの冷たい声が響く。
なんか怒ってる…?
「え?」
ほぼそれと同時に天球儀さんは疑問の声を上げながら自身の左手を見る。
「あれ?!なんで何も無いの?!」
「さっきまで持ってたのに…!!」
「こんな時にくだらない嘘つくな」
「嘘じゃないです!!さっきまではあったんですよ!!」
そう言いながら天球儀さんは漁るように辺りの本棚を探し始める。
「あ、!!あそこです!!あそこにあります!」
そう言い、天球儀さんが指差したのは吹き抜けの2階にあるステンドグラスが広がる大広間の読書スペース。
の、椅子の上なんだけど…
だいぶ大きい。
巨人用みたいな…
「あれ、どうやって取りに行くの…」
絶望したような声を出すような私の声に被せながらローブさんは
「この場所の電気を管理してる場所って知らないですか?」
と謎に電気の場所を知りたがっていた。
その瞬間、
「スイッチオ〜ン!!」
という監視カメラくんたちの声が聞こえたと共に図書館内全ての電気が消えた。
が、一瞬で電気はついた。
「え、これ何の意味が────」
「はい、これ」
またもや私の声に被さりながらローブさんの声が響く。
ローブさんはいつの間にか手にクッキー瓶を持っていた。
『まさか』そう思いながら大きな椅子の上、先程までクッキー瓶があった場所を見る。
と、クッキー瓶は無かった。
つまり、ローブさんが取ってきてくれたということ。
「え…どうやって……?」
感謝の言葉よりも先に疑問の声を上げてしまう。
もしかしてさっき電気が消えたあの一瞬で能力使って取りに行ったとか?
そんなこと出来るわけ────
「能力使っただけです」
ローブさんはぶっきらぼうにそう言った。
「というか監視カメラくん使うのは卑怯なんじゃないですか〜?」
『ちぇっ』という声を小さく呟きながら
「ま、僕もヒント言いますけど!」
と言う。
卑怯なのはどっちなんだか…
「あれ?てかランタンは?」
「まだ見つけてないんですよ」
「ふ〜ん……」
「へルック住民の住処行きました?」
へルック住民…?
あ、そっか。
ここの森に住んでるのってカメラさんたちだけじゃないんだっけ?
確かにローブさんとかも今日初めて会ったし…
住処って言ってたから結構草木に囲まれてるのかなぁ…なんて思っていたけれど。
予想と全く違った。
いや、草木に囲まれているのは間違いないけれど。
おどろおどろしい感じじゃなく、のほほんとした雰囲気で、しかも家々は丸い形だった。
「丸い家ってメリットがいっぱいなんだって!」
「ね、カメラさん!」
私が物珍しそうに見ていたせいか、監視カメラくんたちはそう言い始める。
「ああ。丸い家は風を受け流す構造になってる」
「しかも耐火性が高く、最大のメリットは雪が積もらないことだ」
「雪降るんですか?」
そういえばここの世界に来てから雪を見ていない。
じゃあもしかしたら冬になったら冬にしか見れない生物や景色見れたりするのかも?
というか最近私、この世界の住民たちのコーデ気になってるんだよね。
なんか皆個性を持ってるっていうか…
というかそもそも獣人のコーデだから地球のような人間しか着れないようなコーデは余り見ない。
近々コーデについて考えてみるのもありかも…
「陽葵、聞いてるか?」
「ひゃっ?!」
急に目の前にカメラさんの顔が現れた。
「へ…?な、なんですか?」
「何ですかじゃなくて…」
「陽葵が雪降るかって聞いてきたんだろ?」
あ、そうだった!
私、質問しておいて聞いてなかったんだ……
「あの…それで、雪って……」
再度そう質問するとカメラさんは小さくため息を吐いた後、答えてくれた。
「雪は降る」
「けど、稀にしか降らない」
稀…?
冬がすごく短いとか?
「え、あの…春夏秋冬とかって……」
「春夏秋冬?」
そう言いながらカメラさんは考え込む。
あれ?もしかしてこの世界に春夏秋冬の概念自体は無いとか?
というか自分が描いた物語なのに覚えてないことあるんだ…
そう思いながら何とか思い出そうと頭を抱える。
「あ!」
思い出した!!
って…今、私、声に出てた…?
周りを見渡すとローブさんたちが怪訝そうに私を見ていた。
もちろん目の前にいるカメラさんも。
いや、表情は全く読み取れないが。
それよりも!さっき思い出した春夏秋冬のこと!!
確か私、設定で冬は木々が枯れるから雪降らすだけにしたんだった!!つまり、この世界には春夏秋冬という概念は無い。
けど風景ジュースの時はあったしなぁ…
あれどういうことなんだろう…
私別にああいうの設定してないんだけど…
自然発生とか?
それに気づいた私は目の前にいるカメラさんがどこか私を怪しそうに見ているように思え、酷く不安になった。
そんな時、
「あの…陽葵さん……」
と天球儀さんの声が聞こえ、
振り返るといつの間にかランタンさんの姿があった。
「あれ?!ランタンさん?!」
「お前らそんな感じでくっちゃべってるから遅いのか?」
なんか…
怒ってる……
もしかして話してばっかりで気づかなかったけど、
結構時間経ってる?
「てか…なんでお前らロュタルに気づかないん?」
「ストーカーやん、こんなの」
急に何を言い出したかと思えば、目の前に警官姿の誰かが現れた。
ロュタルさんだ。
まさか…
透明人間のロュタルさんの能力って…
「完全透明化使うなんて卑怯だろ」
カメラさんが微かに叱るような声を上げるが、
ロュタルは無視していた。
「えっと…あと、見つけてないのは……」
「鳥籠と羽と信号機ですね」
私が考えるよりも先にローブさんが答える。
「ヒントいる〜?」
そんな監視カメラくんたちの声に反射的に頷くと監視カメラくんたちは
「5つ目のヒントは〜『誰も近づかず忘れ去られる木々たち共に』!」
誰も近づかずって…
どこのこと?
そんな場所あったけなぁ…
結構ロスジューノ森を歩き回ったけど、結構広い。
思っているよりも。
だいぶ。
そんなことを考えているといつの間にかカメラさんたちは先へ先へと進んでいた。
まさか分かってないの私だけとか?
そうして着いた場所は木から沢山の鳥籠がぶら下がっている場所だった。
「ぇ…あの……もしかして────」
「ん?あぁ、鳥籠さんがこのどれかに化けて隠れてるんですよ」
さも当たり前でしょみたいな声色で言うローブさん。
多分、日常茶飯事なんだろうけど。
私以外の人達はすぐ分かったりするのかなぁ…
まぁ、私は全く分からないけど。
いや分かってないのかよ。
そう心の中でツッコミを入れる。
ローブさんたちが『これだろ』『いや、こっちですね』と言いながら次々と木々にぶら下がる鳥籠を落としていく。
が、どれも鳥籠さんじゃない普通の何の変哲もない鳥籠。
というか喉乾いてきたしお腹空いてきた…
そんなことを考えてる最中も私のお腹の音は鳴っている。
みんなに気づかれてないといいが…
「ニンゲンちゃん、お腹空いたの?」
と、少し笑いを含んだ声が後ろから聞こえた。
反射的に振り返り
「鳥籠さん!どこに居たんですか…?!」
と共に声を出す。
と、
「俺?普通にロスジューノ森の入口のとこで小動物喰ってたけど」
「え?」
まさかの爆弾発言。
「え、あの…かくれんぼは……」
「かくれんぼ?何それ?」
えぇ……
そう心の中で呆れたような声を出しながらカメラさんたちの方を見ると明らかに不機嫌だった。
表情が読めなくとも雰囲気で滲み出ている。
「てか俺の質問答えてくんない?」
「お腹空いたんでしょ?」
「いや…まぁ……」
もしかして鳥籠さんには私のお腹の音聞こえてたとか?
え、普通に恥ずかしすぎる…
「え、陽葵ちゃん何か作れないの?」
「あの、道具とか材料あれば作れなくはないですが────」
「食材見つければ作ってくれるのか?」
「道具は住処の方にある」
「えぁ?まぁ…そうなりますね」
そう私が言ったと同時にカメラさんはローブさんたちと何かを話し合い始めた。
そんな光景を鳥籠さんは『何か面白いこと考えてそ〜』と相変わらずの笑みを零しながら呟いていた。
「じゃあ俺とローブと鳥籠は食材探しに行ってくる」
「ランタンと天球儀は陽葵とかくれんぼ続けてくれ」
そう言い、カメラさんたちは闇に染まる森の奥へと消えてしまった。
というか完全にロュタルさんのこと何も言ってなかったけど…
わざと?
そう思いながら警官の姿のロュタルさんを見るも、
ロュタルさんの姿は無かった。
「陽葵、次のヒント言う?」
「ぇ、あ、うん!」
慌てて返事すると監視カメラくんたちは少し不思議そうに首を傾げながらも喋り出した。
「6つ目のヒントは〜『仲良し似たもの同士で遊んで隠れて』!」
仲良し似たもの同士?
今見つかってないのは…
羽さんと信号機さん…
どっちも同じような感じだからなぁ…
「ランタンさんとか何か分かります?」
「え、分かるけど…」
「言っちゃっていいの?こういうのって言わないのがかくれんぼの醍醐味なんじゃ…」
「もう飽きてきたんで早く言っちゃってください!」
ルールは守りたい派のランタンさんと素直すぎる天球儀さん…
面白すぎる構図……
「えぇ…」
「仲良し似たもの同士って言い方変えれば『仲間』ってことだろ?」
「じゃあ羽しか居ないじゃん」
「え、信号機さんのお仲間さんって居ないんですか?」
てっきりあの電子板に映る顔文字や文字は仲間とのコミュニケーションで使うものなのかなって思ってたんだけど、違うのかな。
「居ないっていうより…居なくなった」
「確か朽ちたんでしたよね」
朽ちた?
壊れたってこと?
じゃああの信号機さんは独りぼっちってこと?
そんなこんなで羽さんを見つけることが出来た。
羽さんは普通に木の上で白い鳥たちと一緒にお昼寝してたっぽい。
まぁ監視カメラくんたちが叩き起したんだけど…
「7つ目のヒントは〜『哀しみ浸る場所で亡き仲間に囲まれて』!」
「これが最後のヒントだよ!」
やっぱりこれが信号機さん…
どこに居るんだろう…
「じゃあちょっと失礼します〜」
そう言いながらなぜかお姫様抱っこしてくる羽さん。
「え、な、何して────」
「いいからいいから〜」
すっごい恥ずかしかった…!!
急にお姫様抱っこされて戸惑ってる私をあたかも当たり前のように羽さんは空を飛んである場所に着いたと思ったら降ろしてくれた。
そんなある場所は薄暗く、
でも少し哀しげな雰囲気に包まれていた。
「ここはね〜、『亡骸のハイス』っていう場所で〜」
「主に “ 壊れた ” 仲間たちを隠している場所なんだ〜!」
隠す?
隠すって誰かに狙われるからとか?
てか『ハイス』って何だろう…
そう不思議に思っているといつの間にか近くで話していたはずの羽さんの姿が無かった。
「え?!ちょっ…」
慌てて辺りを見回すも、誰も居ない。
終わった…
どうしよう……
そう思いながらも、とりあえずと足を進める。
と、何かが積み重なったような姿が見えてきた。
恐る恐る近づくとそれらは所々が壊れたロボットの亡骸のようなものだった。
「なに…これ……」
唖然としながら呟く。
同時にその亡骸の山のてっぺんにいる信号機さんを見つけた。
「信号機さん!」
『もしかしたら信号機さんも壊れてしまっているんじゃないか』そんな考えが頭をよぎる。
酷い不安を抱えながら一気に亡骸を這い上がって信号機さんを揺する。
「やだ…」
「起きて…!!」
その時、信号機さんの電子板には
『親指を立てたグッドマーク』
『にこにこマーク』
『ハートに丸がついてるマーク』
が順に映った。
まるで『大丈夫』『生きてるよ』と言うかのように。
「良かった…」
そう安堵しながら涙が浮かんだ目を擦る。
とほぼ同時に信号機さんは起き上がり、私の背を撫でた。
そういえば信号機さんって喋れないのかな。
ふと突然そんな考えが頭に浮かぶ。
いつも意思疎通する時は電子板に映る文字やマークで判断してたけど本当は喋れないとか…
でも気になる…
聞いてみようかな……
「あの…信号機さんって喋れないんですか?」
「喋ってる姿見たことないし…」
そう聞くと信号機さんは少し間が空いてから真顔の顔マークの口部分にバツマークがついたようなマークを電子板に映した。
多分、喋れないということなのだろう。
「そういえば信号機さん、私のクッキー瓶見ませんでしたか?」
「道中とかで…」
そう言うと信号機さんは少し考えたような動作をした後、何かを思い出したかのように私の腕を引っ張ってどこかへ連れていく。
そうして着いた場所は先程の景色と何ら変わりない場所。
だが亡骸のように朽ちたロボットらの姿は先程と少し形が違う。
胸の部分に取っ手がついており、開けそう。
そう思ったと同時に信号機さんが1つのロボットを指差した。
そのロボットは取っ手が他のロボットと違って色が赤く、他のより錆びていて。
胸元の取ってを引っ張って開けると、中には赤いリボンとクッキー瓶が入っていた。
「あ、!」
声を上げながらクッキー瓶を手に取る。
そして赤いリボンも…
そう思いながら手を伸ばすと信号機さんに腕を掴まれ、止められた。
不思議そうにしていると信号機さんの電子板には
『指輪のマーク』
『リボンのマーク』
『ハートマーク』
が順に映る。
「もしかして…恋人、?」
息を吐くと同時に声を出す。
信号機さんの電子板は『丸のマーク』に変わった。
じゃあこの1番古びたロボットは────
考えれば考えるほど酷く胸が痛む。
余計な想像もしちゃって、更に痛くなる。
気づけばカメラさんたちの所に帰ってきていて。
気づけば涙が溢れて視界が霞んでいて。
「陽葵さん?!どうしたんですか…?」
ローブさんはそんな私を見て慌てていて。
天球儀さんとランタンさん、ロュタルさんは羽さんを睨んでるように見えて。
何故かカメラさんは私を抱きしめていて。
カオス状態。
「それよりニンゲンちゃん、食べ物見つけて来たんだよ!」
慰めるように肩を叩いてくる鳥籠さん。
すごく申し訳ないが…
とても痛かった。
「でも少々問題があってだな…」
そう言いながらカメラさんは桃に似た果実のようなものを見せてくる。
「これは…?」
そう呟きながら手に取る。
色はピンクで、でも形は少しひし形に近い。
匂いは…あまりしない。
「これルロンじゃん」
「なんでこんなん取ってきた?」
急に私の後ろから手が伸び、持っていた果実のようなものを奪い取る。
ロュタルさんだ。
「ルロン…?」
ルロンって何だろう…
聞いたことない……
というかヘルックの世界で新しい果実に会うの初めてかも。
そんなことを考えながらロュタルさんに奪われたルロンを見る。
「…ニンゲン、見たことないのか?」
「食ってみるか?」
「いいんですか?!」
少し嬉しげな声を出しながらルロンの実にかぶりつく。そして後悔する。
「すっっっっっっぱ!?!?」
なにこれ…!!
レモンより酸っぱい…!
咳き込みながら何も言ってくれなかったロュタルさんを少し睨む。
と、目が合う。
いや目は無いんだけど…
明らかに目が合った。
だってロュタルさん顔逸らしたし。
「あとは眠りの花の蜜とかも使えますが…」
眠りの花?
ローブさんの言葉を心の中で繰り返す。
名前的に眠っちゃうとか?
「でもあれって採取難しくないか?」
「確かにそうですね…」
うーん…と皆して黙り込んで解決策を考える。
「あ、」
そんな時に一番最初に声を発したのは天球儀さん。
「このルロンの果汁でどうにか出来るんじゃないんですか?」
確かに…!!
心の中で声が漏れてしまう。
眠気覚ましには酸っぱいものが効く。
しかもルロンの酸っぱさはレモンよりも強い。
つまりは眠りの花の蜜を採取出来るということ。
結局危険だからと言って私は眠りの花の花畑へは行かせてくれなかった。
危険ってどこか危険なんだろう…
そう思いながら私は羽さんと歩いてどこかへ向かう。
というかこの人何考えてるか分からないんだよなぁ…
ロュタルさんと同じでほぼ透明人間みたいなもんだし…
そんなこんなで着いた場所は真っ暗な闇に満ちた夜の森だった。
先程まで時間帯は朝方だったはず。
というかロスジューノ森ってずっと朝だったかも。
時間が動いてないとか?
いやでも時間が止まってるわけじゃなさそうだし…
不思議すぎる……
「ここら辺でいいかな〜」
そう言いながら羽さんは急に立ち止まった。
そのせいで私は羽さんの背にぶつかってしまった。
「あ、ごめんね〜?」
ヘラヘラと笑ったような声色で言っているせいか、
わざと止まったのかもと疑う。
「…大丈夫です」
まぁ、ぶつかったのがふわふわの羽だったからどうでもいいけど。
「陽葵さんは『月プリン』食べたことありますか〜?」
「月プリン…?」
そんなの食べたことも見たこともないけど…
普通のプリンと何が違うのかな……
そう不思議に思っていると
「ま、食べてないんだったら損なんですけどね〜」
「あ、あれとかいいんじゃないんでしょうか〜?」
と独り言のような声を出しながら羽さんは星々が散る空を指差した。
つられるように目を向けるとそこには光り輝く大きな満月が浮かんでいた。
「月?」
「さっ、これ持っててくださいね〜」
そんなことを言いながら羽さんは私に大きなスプーンと大きなボウルを渡してくる。
「ちょっ、これ重いんじゃ────」
すごい大きさで明らかに重そう。
そう私は思いながらも受け取ってしまう。
と…
「あれ…?重くない…」
大きさに対して重さは全くない。
というか持っているのか分からないほど軽い。
しかも気づいた時にはまたもや私は羽さんによって抱っこされていた。
目の前には真っ黄色に輝く満月が。
眩しいほどに目の前で光っていて。
「すご…」
ふと本音が漏れてしまっていて。
「…ふふっ」
「あ、ごめんね〜?」
「リアクションが面白くてつい〜」
鼻で笑われた…
少しショックを受けつつも腹が立ってしまうのは何故だろう。
なんかこの人…
羽さんの態度って少し鼻につく…
まぁ無視するのが1番か…
『はぁ…』と小さくため息を吐きながら大きなスプーンで大きな満月をつつく。
巨人の食事風景のようだ。
大きな満月は以外にも防御力が低くて、
つついてすぐに中からはドロリとした黄色いのが溢れ出てきた。
すぐにボウルを添えないと滴り落ちてしまう。
ドロドロしてるけどサラサラと素早く落ちていく。
満月の表面より黄色く輝いていて、とても綺麗。
採集を終えてロスジューノ森の広場へ向かう。
相変わらず羽さんはふわふわしていて。
もちろん態度もふわっふわ。
広場に着くと天球儀さんとカメラさんは何故か地面に寝転がっていた。
「ローブ、おまたせ〜」
「それよりなんでカメラさんたちは寝ているんですか〜?」
寝てる?
確かに…
耳を澄ませば寝息のような小さな音々が聞こえてくる。
「眠りの花の採集のときに失敗して眠ったんです」
「天球儀は近づきすぎで…」
「カメラは天球儀を助けようとしたら巻き添えで…」
「あと…陽葵さん、これ…」
と急にローブさんが私に押し付けるようにして何かを渡してきた。
それは、クッキー瓶だった。
「…ありがとうございます!!」
そういえば忘れていた。
足りないのはあと1つ…
鳥籠さんったら隠しておいて自分で隠し場所忘れたとか言い出して。
嘘っぽいけど。
「それで、何作るんだ?」
調理用具を広げていると後ろから鳥籠さんが話しかけてくる。
しかし私は無視した。
なぜかって?
当たり前でしょ?
だって私のプレゼント用のクッキー隠したんだから。
そんな意地悪さんとなんて話したくないし!
「なぁ、聞いてる?なぁってば…!!」
「わっ?!」
急に後ろに引っ張られ、倒れそうになる。
「鳥籠、いい加減にしろ」
後ろを見ると鳥籠さんを掴んでるローブさんが居た。
また助けてくれた?
「あ、ローブさん…何から何までありがとうございます…!!」
そう私が言うとローブさんはチラリとこちらを見た後、私の頭を撫でた。
というかよく見たらローブさんが掴んでる鳥籠さんの頭…?
がミシミシという音を立てながらヒビが入ってる。
「ロ、ローブさん!!一緒に料理しましょ?
なんだか鳥籠さんが心配でローブさんの腕を引っ張って鳥籠さんから離そうとする。
と、
「…ん」と素直にこちらの方へ来た。
なんかたまに甘えてくる猫みたい…
そう、ふと思ってしまう。
っと…これで全部完成かな?
眠りの花の露はゼリーにして、
花弁は飾り付けとして上に乗っけてみた。
けど美味しいのかな…
作っている最中に味見をしなかったせいで全く味が予想出来ない。
でもまぁ、とりあえず…
「天球儀さん、ランタンさん」
「これ食べてみます?」
実験すれば分かるかも。
「陽葵さん!!これ凄く美味しいです!」
にっこにこな笑顔浮かべているような声色でそう言ってくる天球儀さん。
が、ランタンさんは違った。
ランタンさんは1口食べてから何も言葉を発していない。
反して天球儀さんはバクバクと食べている。
「あの…もしかして美味しくなかったですか、?」
恐る恐る聞いてみる。
とほぼ同時にカメラさんがボソリと呟くように教えてくれた。
「ランタンは甘いのがあまり得意じゃないんだ」
「でもあいつは根っからの優しいとこあるからなぁ…」
「多分、『食べなきゃ』って思ってんだろうな」
甘いのが……嫌い?
そんなこと一言も言ってなかったのに…
「ランタン、これかけたらどうだ?」
急にランタンの後ろから声をかけるロュタルさん。
手にはルロンの実を持っていた。
が、ランタンさんは無視をし、
ロュタルさんは勝手にルロンの果汁をゼリーにかけていた。
その瞬間、ゼリーの色は綺麗なピンク色へと変わった。
というか…
もしかしてランタンさんとロュタルさんってあんまり仲良くない?
ふとそんなことを考えながら信号機さんを見る。
と、
『親指を立てたグッドマーク』
『正解と言うような丸のマーク』
を電子版に映し見せた。
それより私は本命の月プリンを〜…
って、あれ?
「私の月プリン知りません?」
近くにいた鳥籠さんに聞くと、
何故か鳥籠さんは笑っていた。
後、あるところを指差した。
そこには天球儀さんが居て、月プリンを食べていた。
「え?!ちょっと…!!」
「それ私の月プリンですよ!!」
そう少し叱るように言うも、
「んぇ?これ美味しいですよ!」
と全く聞いてないようだった。
私も食べたかったのに…
そうガクリと肩を落としていると急にローブさんが私の口に何かを突っ込んできた。
『美味しい』そう思いながらローブさんの手を見ると月プリンだった。
サラッとローブさんも食べてるじゃんか…
1人不満を心で零す。
「陽葵、また会いに来てくれよな」
あっという間にお別れの時間。
「もちろんです!!」
「見たことない食材ばかりで楽しいですし!」
そう答えるとカメラさんはまたもやシャッターを切った。
が、そんなカメラさんを押しのけてローブさんが
「これ…」
と言いながら何かを渡してきた。
見ると、万年筆のようなもので。
でも形が普通の万年筆とは違うようだった。
「あの…これって────」
『どうやって使うんですか』そう聞こうとしたと同時に私の目の前からローブさんたちは消えた。
私の目の前の景色は最初見たロスジューノ森の入口に変わっている。
まるで神隠しにでも遭ったみたいだ。
しかし夢じゃないことを証明するかのようにローブさんがくれた万年筆が月明かりに反射して、私の手元で光っている。
というか使い方教えてくれなかった…
家に帰る道中、ふと思い出す。
「クッキー瓶のあと1つ結局どこ行っちゃたんだろう…」