手始めに、今日は小さな海の家があるだけの、寂れた浜辺に来た。そこには桟橋はあるものの、手入れされた様子はない。そっとその上を歩く雪さんは、今にも死にそうだった。
「ちょっと、ここを死に場所にするつもりですか?僕の家から少し行っただけの?」
嫌そうに言えば、雪さんは怪訝そうな顔で僕を一瞥して、おもむろにワンダショルダーバッグから紙を取り出した。
「なんですか?それ」
「2年生ももらう、進路希望調査の紙。」
筆記用具を取り出しながら答えてくれた。後ろから雪さんの手元を覗き込むと、第1志望以外名門校で埋められた進路希望調査の紙があった。
「わー、流石雪さん、名門校ばっかり・・・」
「行く気ねぇから見んな」
悪態をつきつつ桟橋の上で胡座をかいて、第1志望の所にペンを添える。添えるだけで、ペンが動くことは無かった
「・・・なんかないんですか?」
「もうすぐ死ぬやつに、何かあると思うのか?」
「いやー・・・思わないですけど、ほら、死後の夢とか書けばいいんじゃないですか?」
雪さんは、「夢・・・」と呟いてから、しばらく固まってしまった。少しして、ペンを動かし始めた。書き終えたのか、僕の眼前に突きつけて
「今まで人生頑張って来たんだ、これくらい欲張ったって、怒られやしねぇだろ」
ドヤ顔してきた。先輩的には、頑張ってきたから大丈夫らしい。紙には
「・・・神様?」
「そ、神様。志願と、死をかけて神様死願。」
「かけられてます?それ。」
少し黙って、そのまま桟橋をまた浜辺側に歩いて行ってしまった。息をついて、僕は静かについて行くことにした。
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