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「おはようございます」
更衣室で制服に着替え、総務のフロアに入ったのは8時55分。始業時間は9時なのでパソコンを立ち上げる時間を考えればギリギリだ。
「おう、今日は珍しくゆっくり来たな」
すでにデスクにいた八木が真衣香と自身の腕時計を交互に見て言った。
「す、すみません。ギリギリになっちゃって朝の掃除できなかったです」
「いや、別にそれはお前の仕事じゃねぇし。つーかどうした、顔おかしいぞ」
八木が隣に着席した真衣香をジッと眺めて言う。
「……顔がおかしいって、失礼です」
「いや、声もおかしいぞ」
いつもよりワントーン低くなって、若干しゃがれてしまっている声は風邪のせいなのか、泣き喚いたせいなのか。わからないまま週が明けてしまった。
「風邪か?てか目も腫れてねぇか、どうしたよ」
「ね、寝不足です、ギリギリに出勤してごめんなさい」
なぜ今日に限って朝一ふらりとどこかに消えることもなく、杉田と打ち合わせしているでもなく、真衣香に焦点を当てるのだろうか……。と居心地の悪さを感じていた。
だから……パソコンの画面を見つめてメールのチェックをしながら、なるべく八木を見ないように答えた。
「ま、いーけど」と短く答えたきり、八木は自分のパソコンの画面へ視線を戻してくれたのでホッとして、そのまま真衣香も仕事を始めようとシステムにログインする。
週初めは、社長室や経営戦略室、広報やコールセンターからの連絡事項も多いうえに代表アドレスへの問い合わせも多い。
また、リストに入っていない派遣社員やパート社員、またアルバイトにそれらを必要事項のみ転送したり、問い合わせを各部署に振り分けたりと。
地味だが気を抜かずしっかりと文字を追わなければいけない……のだが。
カチカチとマウスを操作していると、画面にモヤがかかった。ゴシゴシとこするけれどよく見えない。
目が腫れぼったいせいだろうか?
そうこうしているうちに、いまいち集中できずに時間が過ぎてしまったように思う。
(しっかりしなきゃ)
そう思うのに自分に納得できないまま、午前中に終わらせたい作業を半分以上残した状態で11時半。
ため息をつくと外線が鳴った。
至急で修理依頼が入っていたコピー機の点検時間が決まったとの連絡だった。
営業部へ内線で知らせて、とりあえず昼休みを取ろうと電話に手を伸ばすも。
(あ、別でサイン貰わなきゃいけない書類もあったっけ)
と。思い出してしまった為、立ち上がる。
しかし、立ち上がってすぐに真衣香の足は止まってしまった。