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にこにこ
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兄弟だと分かってから。
ひでは少しずつ、未来の話をするようになった。
でも。
急かすことはしなかった。
愁斗が怖がることを知っていたから。
⸻
ある日の午後。
二人は施設の近くの公園にいた。
秋の風が吹いている。
ベンチに座りながら、ひでは静かに口を開いた。
『愁斗。』
「ん?」
『話したいことがある。』
その言葉に。
愁斗の表情が少し固まる。
でも。
逃げずに聞く。
「なに?」
ひでは少し迷ってから言った。
『俺と一緒に暮らさないか。』
『高校卒業して俺、一人暮らし始めたんだ 』
時間が止まった。
「……。」
嬉しかった。
胸の奥がいっぱいになるくらい。
ずっと欲しかった言葉だった。
でも。
すぐには返事ができなかった。
⸻
「……ごめん。」
最初に出た言葉は、それだった。
ひでは驚かない。
『理由、聞いてもいい?』
愁斗は俯く。
「嬉しい。」
「本当に嬉しい。」
「お兄ちゃんと暮らせるなんて。」
「夢みたい。」
でも。
握った手に力が入る。
「でも。」
「俺がいなくなったら、 施設のみんなは?」
ひでは黙って聞く。
「小さい子たち。 俺がいなくなったら。」
「また誰かがいなくなるって思うんじゃないかな。」
愁斗の声が少し震える。
「俺、 昔、置いていかれたから。」
「同じことしたくない。」
ひでの胸が痛んだ。
愁斗はずっと。
自分がされた悲しみを、誰かに渡さないように生きてきた。
『愁斗。』
「……。」
『それは優しさだよ。』
「でも。」
『でも。』
ひでは優しく言った。
『愁斗は、自分が幸せになることを悪いことだと思ってる。』
その言葉に 愁斗は黙った。
『施設のみんなは、愁斗が幸せになることを望んでないと思う?』
「……。」
『違う だろ。』
『きっと、笑って送り出してくれる。』
愁斗は首を振る。
「分かんない。」
「怖い。」
「もし、 俺だけ幸せになったら。」
「後悔する気がする。」
⸻
その日の帰り。
施設へ戻る道。
子どもたちが玄関で待っていた。
「しゅう兄!」
「今日、一緒に遊ぶ!」
愁 斗は笑った。
「うん。」
いつものように。
いつもの場所。
この場所も大切。
でも。
帰り道。
ふとスマートフォンを見る。
ひでから届いたメッセージ。
『急がなくていい。』
『答えは、愁斗が決めていい。』
その文字を何度も読む。
⸻
夜。
布団に入っても眠れなかった。
頭の中で、同じ言葉が何度も回る。
“一緒に暮らさないか。”
「……にぃに」
小さく呟く。
初めてできた家族。
失いたくない。
でも。
今いる家族も失いたくない。
どちらかを選ばないといけない気がしていた。
⸻
数日後。
ひでは施設へ来た。
愁斗はいつも通り笑う。
『体調は?』
「今日は大丈夫。」
『本当に?』
「本当。」
『顔は?』
「普通。」
『嘘。』
「……。」
いつもの会話。
いつもの安心感。
でも。
帰り際。
愁斗が呼び止めた。
「兄ちゃん。」
『ん?』
少し間を置く。
「俺。」
「まだ答え出せない。」
『うん。』
「でも。」
「考えてる。」
ひでは笑った。
『それで十分。』
「……怒らないの?」
『なんで?』
「断ったから。」
ひでは首を振る。
『断ったんじゃない。』
『大事なものが多すぎて迷ってるだけ。』
その言葉で。
愁斗の胸が少し軽くなった。
⸻
その夜。
また夢を見た。
小さい頃の自分。
そして。
隣にいた小さな男の子。
今度は顔が見えた。
優しい目。
自分を守ろうとしていた手。
夢の中の声。
『大丈夫。』
『ずっと一緒にいるから。』
目を覚ます。
胸の奥が温かかった。
「……にぃに。」
まだ答えは出せない。
でも 初めて 未来を想像していた。
コメント
3件
これ読むのを楽しみに毎日頑張れてます!! 主さんの物語いつもほんっとに泣けるしサイコーに大好きです!💞

続き待ってます
ひでと愁斗の関係、すごく丁寧に描かれてて胸がぎゅってなったよ…!「一緒に暮らさないか」って言葉に、嬉しさと同時に「施設のみんなはどうなるの」って迷う愁斗の気持ちが痛いほど伝わってきた😢 泣くのって思うけど、ひでの「急がなくていい」って言葉が沁みる…。夢の中で小さい頃のひでが「ずっと一緒にいるから」って言ってくれたところ、もう涙腺崩壊寸前だったよ😭💕 まだ答えは出せないけど、初めて未来を想像できた愁斗の成長がじんわり来た…! 次が楽しみすぎる〜!