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隠し部屋のことを話すなら、今が好機。
(どうやって話題を切り出そう……)
この部屋はオリバーしか入れない。
それなのに、脈絡もなく隠し部屋の存在をべらべら喋りだしては怪しまれるだろう。秘術が見つかれば関心がそちらにいくかもしれないが、期待はできない。
でも、話を繋げなきゃ。
取り乱した私の気持ちが落ち着けば、この部屋から追い出されてしまう。
「あ、あの……」
「どうしたんだい?」
「このお部屋、メイド長から『絶対に入ってはいけない』ときつく言いつけられているのですが……」
「あー、うん、そうだねえ」
まず、私はどうしてこの部屋に入れてもらえたのかオリバーに問う。
オリバーはそういえばそうだったといった反応をとった。
「ソルテラ家の掟なんだけどね、どうしてこの部屋に誰も招いてはいけないのか全く分からないんだ」
「はあ」
「勝手に入るのはいけないよ。でも、僕が招き入れるなら問題ないかなっておもってる」
「そうなのですか?」
「うん。僕の代でよくわからない掟は無くしたいんだ」
「だから、私を入れてくださったのですね」
私の問いにオリバーはそう答えた。
魔術研究は百年前からここから庭園の小屋へ移った。そのため、この部屋の掟は不要だというのがオリバーの考えだ。
きっと、一日五食という食事ルールも無くすのだろう。
「僕はきっと、この戦争で死ぬだろうから。ブルーノのために変えられるところは変えたいんだ」
「……」
そう思ったのは弟ブルーノのため。
オリバーはブルーノのことを大切に想っている。
ブルーノがもうじき次代のソルテラ伯爵になると分かっているかのような。
「オリバーさまは、この戦争で命を落とすと……、そうお考えなのですか?」
「ごめん、不安にさせてしまったね……」
受け答えから、オリバーはこの戦争で死ぬと覚悟しているようだった。
「……少し、僕の話し相手になってくれないかな」
「はい。もちろんです」
「ありがとう」
オリバーはにこりとほほ笑んだ。
その笑みには悲しみも混ざっているように思える。
「今回の戦争は僕が前線に出ない限り決着がつかないと思う。だけど、僕は巨大な火球を……、先代のような魔法が出せるのか不安なんだ」
「……」
「僕は攻撃魔法が不得手だ。防御や回復の方が得意で父さんとは違う。才能だったらブルーノのほうがあるとさえ思える」
オリバーの弱音を私は黙って聞いていた。
私はオリバーが秘術を知らず当主になったことを知っている。
それを知らないのなら、自分の魔法で戦争に挑まないといけない。
オリバーは、【時戻り】など高度な魔法を扱う優秀な魔術師だが、得意な魔法は回復と防御。ソルテラ伯爵家に求められる魔法ではない。
対して前ソルテラ伯爵やブルーノは攻撃魔法を得意とする。ブルーノの場合はカルスーンとマジルの混血のため、威力は増すだろう。
「私は……、オリバーさまに生きてほしいです」
「エレノア」
「もし、先代が残した呪文があるとしたら、オリバーさまは使いますか?」
秘術は今のオリバーにしか使えない。
もし、その秘術を見つけたら、オリバーは使うのだろうか。
「……使う。それで戦争が終わるのなら」
「そう、ですか」
秘術を使う。
それならば、私は言おう。
「オリバーさま、今から私がやることを黙ってみていてくれませんか?」
「え? な、なにを――」
私はオリバーが制止する前にチェアから立ち上がり、すぐに肖像画に手をかけた。
私の突然の行動にオリバーは戸惑っている。彼が冷静になる前に、隠し部屋へ行かなくては。
私は肖像画を横へ動かし、壁に飛び込んだ。
そして、隠し部屋へ入る。
「はあ、はあ……」
私は隠し部屋でオリバーを待つ。
少しして、オリバーが私を追いかけてくる。
「突然、壁にぶつかったと思ったら……、ここは――」
「隠し部屋です。ここに歴代ソルテラ伯爵家の魔法研究の成果があります」
「た、確かに小屋と似たような内装だ。それに、この文字は――」
「こちらが初代ソルテラ伯爵が記した手記となります」
「どうしてエレノアが、僕の部屋の秘密を知っているんだ」
私はオリバーに初代ソルテラ伯爵の手記を渡した。
オリバーはそれを受け取るも、私の行動に驚愕していた。
「それは――」
私は机の上に置いてある水晶を手に取った。
青白く光っていない普通のもの。
「この水晶を使って【時戻り】を行っているからです」
私はオリバーに私の八回に渡る【時戻り】について語る。
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