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東京の午後は、妙に静かだった。
窓の外では蝉が鳴いている。けれど、この部屋の中は張り詰めた空気で満ちていた。
「……なあ、傑。あれ、どういうこと?」
ソファに腰を下ろしたまま、五条悟が低く問いかけた。いつもの軽口も、冗談めかした笑いもない。ただ真っ直ぐ、目の奥に怒りと不安を宿して。
「“あれ”って?」
夏油 傑はカーテン越しの光を背に立っていた。姿勢は崩していない。けれどその口元は、どこか冷たい。
「星漿体の護衛任務。なんで、あいつと二人きりで行った?」
「……任務だったから。それだけだ」
「それだけ? お前、あいつのこと気に入ってるんじゃねぇの?」
五条の言葉に、夏油の眉がわずかに動いた。
「……嫉妬か?」
「そうだよ。俺は、お前が他の誰かを見てるのがムカつく。あいつと話して笑ってた顔、見てられなかった」
「悟、はぁ……」
夏油の声が低くなる。その視線には怒りもあるが、困惑もあった。
「何度言えばわかる? 私が見てるのは、お悟だけだ」
「でも、俺には言わない。お前、最近全然、俺のこと見てない」
「……見てる。ずっと、見てる。だけど、悟――君がそれに気づかないだけだ」
静寂が降りた。どちらも目を逸らさない。互いに、言葉の裏にある本音を探している。
五条が立ち上がった。夏油との距離が一気に縮まる。
「だったら、ちゃんと言って。俺にしか見せない顔で、言えよ」
夏油は少しの間だけ黙っていた。そして、ふっとため息を吐いて――その腕を伸ばした。
「……バカだな、悟は。私が好きなのは、悟だけだよ」
「……ほんとに?」
「何度でも言うさ。悟、君以外なんて、最初から見てない」
その瞬間、五条の表情がほどける。わずかに潤んだ目が、夏油を見つめる。
「なら、許す。でも……今度また誰かと仲良くしてたら、俺がそいつを呪うからな」
「はは、それはやめとけ。後始末が面倒だ」
二人の間に、ようやく静かな笑いが戻る。窓の外の蝉の声も、今はただの夏の音にしか聞こえない。
そして、その午後――
誰より強く、誰より脆い二人は、確かに「好き」を確かめ合ったのだった。