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青水 生徒会長×ヤンキー♀️
ヤンキーちゃんは、今日も素直になれない
朝の校門前は、戦場だ。
正確に言えば、僕にとっては、だ。
「……」
校門の前に立った瞬間、僕――ほとけは、反射的に舌打ちしそうになるのを必死でこらえた。
水色の髪。少し長めで、寝ぐせも直していない。制服は着ているけど、ネクタイは緩いし、スカートも規定よりちょっと短い。
見るからに「近づくと面倒そう」なヤンキー。
それが、僕だ。
そして、その視線の先にいるのが――
「おはようございます。風紀、問題ありませんね」
爽やかな声。
涼しげな笑顔。
背筋がぴんと伸びた、生徒会長。
いふくん。
(……は? は? は?)
心の中で、意味のない三連続ツッコミが発生する。
(なんで朝からいるんだよ!
なんでそんな爽やかなんだよ!
なんで制服がそんなに似合うんだよ!!)
表情には一切出さず、僕はふん、と鼻で笑った。
「別に。問題あるように見える?」
わざと挑発的に言う。
いつもの“ヤンキーほとけ”の仮面。
いふくんは、少しだけ困ったように眉を下げた。
「見える、というより……まあ、いつも通りやね」
「でしょ」
(いつも通りって言うな!!!
その“慣れてる感”がむかつくんだよ!!!)
心の中では、床を転げ回る勢いで叫んでいるのに、外側の僕は腕を組んで余裕ぶった顔をしている。
――最悪だ。
なにが最悪って、
この男のことが、好きすぎるという事実だ。
誰もが引くほど。
ドン引きするほど。
自分でも怖くなるくらい。
(今日も元気だな……声……いい……
あ、ちょっと目細めて笑った……死ぬ……
ていうか近い、近い、距離近いって!!)
いふくんが一歩近づいただけで、心の中は大惨事だ。
――なのに。
「……見てんじゃねーよ」
口から出るのは、これだ。
「え?」
「ジロジロ」
「いや、ジロジロは見てへんよ」
「見てた」
ぷいっと顔を背ける。
完全に小学生レベルの態度だと分かっている。
分かっているのに、止まらない。
いふくんは、少しだけ笑った。
「相変わらずやな、ほとけ」
(相変わらず好きだよ!!!!!!)
……言えるわけがない。
教室に入ると、ざわっと空気が変わる。
「あ、ほとけ来た」
「今日も機嫌悪そう」
「近づかんとこ……」
ひそひそ声は、もう慣れた。
机に鞄を放り投げ、椅子に座る。
ガタン、と少し大きな音が鳴る。
(別に怒ってないし……
ただ、生徒会長が朝から尊すぎただけだし……)
僕は机に突っ伏した。
――こんな僕が、
生徒会長を好きだなんて、誰が信じるだろう。
真面目で、優等生で、みんなの中心で。
生徒会長として、完璧な存在。
一方で僕は、
ヤンキーで、態度悪くて、誤解されやすくて。
(釣り合わなすぎでしょ……)
自己嫌悪が、じわっと胸に広がる。
「ほとけ」
そのとき、名前を呼ばれて、びくっと肩が跳ねた。
顔を上げると――
「生徒会からの呼び出しや」
……いふくん。
(なんで教室にいるんだよ!?
なんでこんな至近距離!?
なんでそんな自然に名前呼ぶの!?)
心の中のほとけが、過呼吸寸前だ。
「なに」
表向きは、不機嫌そうに返す。
「放課後、ちょっと時間もらえる?」
「……理由」
「ほとけが関係してる案件」
(関係してる案件って何!?
悪いことしてないし!?
してないよね!?)
「……分かった」
短く答えると、いふくんは「ありがとう」と微笑んだ。
その瞬間。
(好き!!!!!!!!!!!!)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
……ほんと、素直になれない。
放課後。
生徒会室。
扉の前で、僕は一度深呼吸した。
(落ち着け……
ただの生徒会長……
ただの……好きな人……)
――無理だ。
「失礼します」
中に入ると、いふくんが一人で書類を整理していた。
「あ、来てくれたんや」
「……で、なに」
椅子に乱暴に座る。
いふくんは少し迷ったあと、真面目な顔で言った。
「な、ほとけ。
周りから怖がられてるって、自覚ある?」
「……あるけど」
即答だ。
「でもな」
いふくんは、まっすぐ僕を見る。
「俺は、そう思ってへん」
――一瞬、頭が真っ白になった。
「ほとけ、ちゃんと人のこと見てるし、
不器用なだけやって、思ってる」
(やめて)
心臓がうるさい。
(そんなこと言われたら、
期待しちゃうじゃん……)
「……生徒会長に、何が分かるの」
声が少し震えた。
いふくんは、困ったように笑った。
「分からんことも多いけど……
ほとけが優しいのは、知ってる」
(好き)
心の中で、何百回目か分からない想いが溢れる。
でも、口には出せない。
「……用件、それだけ?」
逃げるように言うと、いふくんは少しだけ驚いた顔をしてから、頷いた。
「うん。
それと……これからも、よろしくな」
「……勝手にしなよ」
立ち上がり、足早に生徒会室を出る。
廊下に出た瞬間、壁に手をついた。
(……無理だよ)
こんなの。
優しくされて、
理解されて、
それでも素直になれなくて。
(僕は、ヤンキーなのに)
――いや。
(ヤンキーだから、素直になれないんだ)
恋心を隠すために、
強がるしかない。
でも。
いつか。
(いつかは……)
素直になりたい。
そう、強く思いながら、僕は夕焼けの廊下を歩き出した。
この作品は3話程度で終わる予定です
コメント
2件
こういうのめっちゃ好きです💕 楽しみにしてます!