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ランプの炎が、
小さな影をふたりの間に落としていた。
静けさを破るように、
エリオットはぽつりと呟く。
「……きみ、
本当は名前があるんだよね」
少女は、
ゆっくりまばたきを一度。
「言えない……んだよね」
言われた言葉を
受け止めるように、
少女の指先が
かすかに動く。
“そう”
そう告げる手段が
それしかない。
エリオットは
少しだけ目を伏せ、
その沈黙へ寄り添うように息を吐いた。
「呼びかけたいのに、
どう呼べばいいかわからないって――
なんだか切ない」
風が外の木々を揺らす音が
微かに聞こえる。
「……じゃあさ」
エリオットは
少し照れくさそうに
けれど迷いのない声で言った。
「イチって、呼んでいい?」
少女は
彼を見つめる。
エリオットは
炎の色を瞳に映しながら、
ゆっくりと言葉を続けた。
「――最初に出会った“ひとり”って意味でもあるし」
少し考える間を置き、
やわらかく笑う。
「なにかを始めるときって……
たいてい“一”からだろ?」
自嘲でも、虚勢でもない。
落ち着いた、静かな言葉。
「きみの本当の名前が
いつかちゃんと言えるようになったら、
その時はそっちで呼ぶよ。
でも、それまでは――
僕がきみを呼ぶ“最初の名前”が
ほしいんだ」
少女のまつげが
そっと揺れた。
それは
許しでも拒否でもない。
ただ――
“受け取った” という
小さな合図。
それだけで、
エリオットはほっと笑みをこぼす。
「……じゃあ、イチ」
その名を呼ぶ声が
静かな部屋に落ちた。
「はじめの“ひと”ってことで」
炎が
ゆらりと揺れる。
その夜――
少女は
“イチ” という呼び名に
そっと迎え入れられ